犯人は誰だ
「悲惨な運命を背負う、一人の人間さ」
その言葉はどこか芝居じみていた。だが、妙に感情がこもっているようにも聞こえる。しかし。ジエルはそんな空気を一切気にしなかった。
「能力者ってことだな……」
低い声。身体から、バチバチと電気が漏れ始める。
「だったら――」
瞬間。発電機。ジエルの身体能力が一気に跳ね上がる。床を蹴る。シアターの床が鳴るほどの勢い。一瞬で距離を詰め、シェイドへ突っ込む。電気エネルギーを溜め込み、さらに加速。
「オラァ!!」
勢いそのまま、拳を叩き込む。だが。
「おっと」
シェイドは避けた。最小限の動き。まるで攻撃の軌道を最初から読んでいたように。さらに。ジエルの腕を軽く流す。
「チッ!」
拳が空を切る。エデンは目を見開く。
「ジエル!? 相手はエイリ星人じゃ――」
するとジエルが振り返らずに言う。
「知らねぇのか、エデン」
その声には迷いがなかった。
「能力を勝手に使う能力犯罪者は、ECOが能力を使って制圧しても問題にならねぇ」
電気がさらに漏れ出す。
「それに、こいつは怪盗だろ?」
ギラついた目でシェイドを見る。
「ECOに関係してるわけねぇ」
そのまま再び踏み込む。一方、シェイドはそんなジエルを見ながら、どこか悲劇役者のように呟いた。
「やはり私は……」
静かに目を伏せる。
「運命からは逃れられないのか」
そして薄く笑った。
「この世の、はみ出し者という運命から」
エデンはリミットフォースを僅かに発動。身体能力を強化し、一気にステージへ飛び込む。
「ッ!」
拳を振るう。だが。金属音が鳴り、エデンの攻撃は止められる。
「!?」
シェイドの服に付いていた金の装飾品。ネックレスや飾りの一部が、まるで液体のように形を変え、板状になっていた。それがエデンの拳を受け止めている。
「な……」
エデンは目を見開く。金属が変形した。しかも一瞬で。
(どういう能力なんだ……?)
頭の中で考える。すると、ケイが静かに言った。
『先程の金の硬貨による投擲』
『そして今の現象』
短く結論を出す。
『おそらく、“金”を操る能力だ』
「金を……?」
エデンが驚く。その間にも戦闘は続いていた。ジエルが再び高速で踏み込む。電撃を使った攻撃、拳や蹴りを与えるが、シェイドは全て捌いていく。
「遅い」
シェイドが呟く。指先が動く。次の瞬間。大量の金貨が宙へ舞い、それらが高速回転しながらエデン達の方に飛んできた。
「!?」
まるで弾丸のような速度。エデンは咄嗟にリミットナイトを発動し、腕で防御する。
「ぐっ……!」
衝撃が重い。ジエルも舌打ちしながら避ける。
「クソッ!」
金貨が壁や床へ突き刺さる。普通の投擲ではない。威力が異常だった。しかも。軌道が読みにくい。壁や床へ当たりながら、不規則に跳ね返ってくる。
「ははっ」
シェイドはどこか楽しそうに笑う。
「追う者と追われる者」
ステージの中央へ立つ。
「その境界は、案外曖昧なものだよ」
エデンは息を整えながら、シェイドを見る。
「……強い……」
自然と、その言葉が漏れた。エデンは息を整えながら、シェイドを見据えた。このままでは押し切れない。相手は強い。だが、まだ余裕があるようにも見える。
(だったら……)
エデンはリミットフォースの出力をさらに上げた。身体の奥から力が湧き上がる。筋肉が熱を持つ。視界が鋭くなる。もちろん無茶はできない。相手は一般人。エイリ星人ではない。だが――
(少し強めに行っても、大丈夫なはず……!)
床を蹴る。一気に距離を詰めるエデン。
「っ!」
シェイドの指が動いた。複数の金貨が高速で飛来する。
「はぁッ!!」
拳を使い、飛んできたコインを次々叩き、破壊する。金属音が連続する。
「……!」
その瞬間。初めてシェイドの表情に焦りが浮かんだ。エデンがここまで対応してくるとは思っていなかったのだろう。そして――
「後ろががら空きなんだよ!!」
ジエル。高速で背後へ回り込んでいた。シェイドが振り向く。咄嗟に腕を交差し、防御態勢。だが。ジエルの身体から膨大な電気が溢れていた。発電機。限界近くまでエネルギーを溜め込んでいる。
「吹っ飛べぇ!!」
強烈な蹴り。シェイドのガードごと叩き込まれる。
「――ッ!」
衝撃。シェイドの身体が吹き飛んだ。客席側へ一直線。座席を何列も破壊しながら転がっていく。ジエルはそのまま追撃しようと踏み込む。だが。その時だった。
「弾力膜」
静かな少女の声。
ジエルの前方に半透明の膜が出現した。
「!?」
次の瞬間。ジエルの攻撃が弾かれる。
「うおっ!?」
まるで巨大なゴムにぶつかったような感覚。逆方向へ吹き飛ばされる。
「ジエル!」
エデンが叫ぶ。着地したジエルはすぐ前を見る。そこに立っていたのは――白髪の少女。白を基調とした服。銀色のブローチ。静かな目。
「ルノ……」
シェイドが少し驚いたように言う。
「どうして来た」
ルノは静かに答える。
「心配になって……」
その言葉。その時のシェイドの表情を見て、ジエルは少しだけ違和感を覚えた。
(……なんだ?)
今の顔。怪盗仲間を見る目というより――。もっと別の。守る相手を見るような顔だった。一方、エデンはルノを警戒していた。
「今のは……また違う能力?」弾力膜。明らかにラベジニウムの能力。
(……二人とも能力者なのか)
予想以上に厄介だった。シェイドはゆっくり立ち上がる。服には多少ダメージが入っていた。だが、まだ動ける。
「それでは……」
少しだけ焦ったように笑う。
「私達は、おさらばしよう」
そのままルノの方へ歩く。エデンが止めようと一歩踏み出す。だが。シェイドがこちらを振り返った。
「一つ、いいことを教えてあげよう」
その目が細くなる。
「おそらくだが――予告状を知る人間は、警察以外にはいない……」
「……?」
エデンが眉をひそめる。そして次の瞬間。シェイドとルノは、シアター奥の通路へ消えていった。
「待て!!」
ジエルが追いかける。
だが、既に姿はない。静まり返るシアター。壊れた座席。床に散らばる金貨。ジエルは舌打ちした。
「……予告状は警察以外知らない?」
苛立ちながら言う。
「そんなん当たり前だろ……」
確かにそうだ。怪盗の予告状が一般客へ公開されていたら、そもそも旅行は中止になっている。乗客だって避難しているはず。
「怪盗がいることだって、誰も知らねぇだろうよ」
その瞬間。エデンの表情が変わった。
「……!」
頭の中で、何かが繋がる。エデンはゆっくり口を開く。
「ジエル……」
その声は真剣だった。
「もしかしたら犯人は、あの怪盗じゃないかもしれない……」




