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エデン  作者: ko-da
7章 クロウ島編

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能力者

「金盗んだのはてめぇか?」

ジエルが睨みながら聞く。シアターの中は静かだった。広い客席。薄暗い照明。ステージの上で、シェイドだけが妙に落ち着いている。まるで舞台の主役のようだった。するとシェイドは、ゆっくり笑みを浮かべる。

「――盗みとは、不思議なものだ」

静かな声。だが、どこか芝居がかっている。

「手に触れた瞬間に奪う者もいれば、触れずとも奪ってしまう者もいる」

ゆっくり歩きながら続ける。靴音だけがシアターへ響く。

「宝というのはね」

シェイドは片手を広げた。

「持ち主が“失った”と思った時点で、もう誰かの手の中にあるものだ」

その目が細くなる。

「それが私の手かどうかは……君の目には、どう映っている?」


「……は?」

ジエルの眉間に皺が寄る。

「何わけ分かんねぇこと言ってんだよ」

完全に呆れていた。エデンも少し困惑する。言っていることが抽象的すぎる。煙に巻こうとしているのか、本気でこういう話し方なのかすら分からない。

「……つまり、自分は盗んでないってこと?」

エデンが聞く。

するとシェイドは肩をすくめる。

「さて」

それだけだった。肯定も否定もしない。余計に分からない。ジエルが小さく舌打ちする。

「めんどくせぇ奴だな……」

だが、とにかく今は警察へ引き渡せばいいと、エデンはそう判断した。

「ジエル」

小声で言う。

「今さっきの人が警察呼んできてくれるはずだ。俺達はここで足止めしよう」


「おう」

ジエルも頷く。すると。シェイドが小さく笑った。

「あぁ……」

静かな声。

「人は、追われる影を背負っているときほど、光を呼ぶ声が小さくなるものだ」

意味深な言葉。エデンとジエルは眉をひそめる。

「呼べば届くはずの助けも」

シェイドはゆっくり言う。

「呼んだ瞬間に、自分へ返ってくるのが怖いのだろう」


「あ?」

当然、ジエルには何も理解できない。すると、シェイドは少し笑って、簡潔に言った。

「彼は警察を呼ばないということさ」


「……!」

エデンの表情が変わる。エデンはすぐにスマホを取り出した。

「アグレスさんに連絡を――」

その瞬間だった。

「おっと……それは少しいただけないね」

シェイドの指が動く。ポケットから、一枚のコインを取り出す。金色のコイン。それを軽く弾いた。甲高い音が鳴る。次の瞬間。

「!?」

コインが、ありえない軌道で空中を跳ねた。一直線ではない。壁を蹴るように反射し、照明の金具を掠め、さらに軌道を変える。まるで意思を持っているような動き。そして――

「うわっ!?」

エデンのスマホが弾き飛ばされた。床を滑り、遠くへ転がる。

「……!」

エデンとジエルの目が見開かれる。今の動きは、明らかに普通ではない。物理法則を無視したような軌道。ジエルが鋭くシェイドを見る。

「……お前」

空気が変わる。シェイドは、楽しそうに微笑んでいた。ジエルが低い声で言う。

「能力者か?」

シアターの空気が静まり返る。エデンも自然と身構えていた。もしラベジニウムを使う能力者なら話が変わる。ただの怪盗ではない。ECO案件になる可能性すらある。するとシェイドは、少し意外そうな顔をした。

「ほう?」

二人を見る。無意識に戦闘態勢へ入りかけている動き。それを見て、シェイドはゆっくり笑った。

「君達こそ、“そちら側”の人間か」


「……!」

エデンの目が細くなる。シェイドは舞台の中央へ歩きながら続けた。

「なるほどなるほど……ただの乗客にしては妙に落ち着いていると思ったが」

片手で顎を撫でる。

「警察とも知り合い。そして今の反応」

その目が鋭くなる。

「君達も能力者だね?」


「……どうしてそう思う」

エデンが聞く。するとシェイドは、まるで簡単な謎解きを説明するように答えた。

「普通の人間は、“能力者か?”なんて発想を自然にはしないさ」

ニヤリと笑う。

「人は、自分の知っている恐怖でしか他人を疑えない」

また回りくどい。だが、言っている意味は分かった。ラベジニウムの存在を知っている人間だからこそ、“能力者”という考えに辿り着く。ジエルが舌打ちする。

「やっぱめんどくせぇ喋り方しやがるな……」

ジエルは構えながら聞く。

「能力を使えて、怪盗で、お前は一体何なんだ」

両手を軽く広げる。

「私は――」

シェイドは静かに目を伏せた。

「悲惨な運命を背負う、一人の人間さ」

その言葉はどこか芝居じみていた。

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