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エデン  作者: ko-da
7章 クロウ島編

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怪盗シェイド

エデン達はその後もしばらく船内を歩き回っていた。二階の廊下。展望スペース。ラウンジ。休憩エリア。クローズフェザー号はとにかく広く、少し歩くだけでも次々に違う景色が現れる。高級ホテルのような空間もあれば、静かなバーのような場所もある。その分、人の数も多かった。談笑する乗客。写真を撮る観光客。酒を飲んでいる男達。誰もが普通に見える。

「……分かんねぇ」

ジエルがぼやいた。

「怪盗探せって言われても、見た目すら知らねぇんだぞ」

その通りだった。ルノンブル。名前だけは有名。だが、シェイドとルノの顔写真は一切出回っていない。年齢も、本名も、素性も不明。それでは探しようがない。

「警察も大変だね……」

エデンも小さく息を吐く。不審人物を探そうにも、豪華客船という場所柄、そもそも怪しい格好の人間が少ない。全員それなりに身なりが整っている。怪盗が普通の乗客に紛れていたら、見分けるのはかなり難しかった。その時だった。

「……少しいいですか?」

ドロイが近くを通った船員へ声をかける。

「はい?」


「この船の船内図って、どこかにありませんかね?」

船員はすぐに笑顔で答えた。

「こちらにパンフレットがございますので、よろしければ」

そう言って、一冊のパンフレットを差し出す。クローズフェザー号の案内冊子だった。

「ありがとうございます」

ドロイはそれを受け取る。

そして。その場で、じっと見始めた。

「……」

無言。かなり真剣な目だった。エデンとジエルは顔を見合わせる。

「どうしたんだ?」

ジエルが聞く。ドロイはすぐには答えなかった。船内図を指でなぞりながら、何かを考えている。

「……いえ」

やがて、小さく口を開く。

「何か、今さっきから違和感があるんですよ」


「違和感?」

エデンが首を傾げる。

「はい」

ドロイは視線をパンフレットへ向けたまま答えた。

「ですが、まだ確証がない」

静かな声。

「手分けして探しましょう」

ドロイはパンフレットを閉じる。

「俺は少し調べたいことがあります」

そして二人を見る。

「エデンさんとジエルさんは、二人で不審な人物を探してください」


「お、おう」

ジエルが返事をする。だが、正直何を考えているのかジエルには分からなかった。ドロイは再び船内図へ視線を落とす。どこか一点を見つめるように。

「……?」

エデンはドロイが何に引っかかっているのか気になっていた。だが、ドロイはこういう時、無闇に話さない。考えがまとまるまで口にしないタイプである。

「まぁ、任せるか」

ジエルが肩をすくめる。


「そうだね」

エデンも頷いた。二人はそのまま再び歩き出す。エデンとジエルは、そのまま船内の階段を上がっていった。上層階へ行くほど、人の気配は少なくなっていく。豪華な照明に照らされた廊下。赤い絨毯。窓の外には夜の海が広がっている。船は静かに進み続けていた。

「しかし広すぎるだろ、この船……」

ジエルがぼやく。既にかなり歩いていた。だが、それでも全体の一部しか回れていない感覚がある。

「あと調べてない場所ってどこだ?」

エデンが周囲を見回す。その時。廊下の端に、大きな案内看板が立っているのが見えた。クローズフェザー号・本日の予定表。その中に、《シアター 特別ミュージカル公演》という文字が書かれている。

「シアター?」

エデンが呟く。矢印の先を見ると、大きな両開きの扉があった。かなり立派な造りだ。

「今はやってないみたいだな」

時間を見る。どうやらミュージカル公演はもう少し後らしい。つまり、今はほぼ無人の可能性が高い。ジエルは扉を見ながら言った。

「あの扉の先がシアターか」

少し目を細める。

「あそこにいなかったら、それこそどこにいるか分かんねぇぞ」

確かに、怪盗が人目を避けるならこういう場所は使いやすいと、エデンも頷いた。

「行ってみるか」

ジエルがそのまま扉へ手をかける。重い扉がゆっくり開いた。

中は薄暗かった。広い劇場空間。赤い座席が大量に並び、その先には大きなステージがある。照明は最低限しか付いていない。静かな空間だった。だが。そこに、人影があった。

「……!」

エデンが目を細める。ステージの上で、二人の男が何か話している。一人は、紫髪の男。派手なスーツ。指輪やアクセサリー。どこか芝居がかった雰囲気。そしてもう一人は、ハットを深く被った男だった。その瞬間。ハットの男がこちらへ気付く。

「!」

一瞬だけ空気が止まる。次の瞬間、男は慌てたように叫んだ。

「こいつが怪盗だ!!」


「は?」

ジエルが眉をひそめる。ハットの男は、そのままエデン達の横をすり抜けるように走ってくる。

「警察じゃないのか?」

焦ったような声。

「仕方ない、私が呼んでくる!」

そう言い残し、そのまま劇場の外へ飛び出していった。扉が閉まる。静寂。残されたのは、エデン達と紫髪の男だけだった。その男は――むしろ少し楽しそうに笑っていた。

「これはこれは」

ゆっくり両手を広げる。

「なるほど」

余裕のある声。まるで今の状況すら面白がっているようだった。エデンは警戒する。ジエルも自然と前へ出ていた。男はそんな二人を観察するように見る。その目には焦りがない。

「お前が怪盗か?」

ジエルが真っ直ぐ聞く。すると男は口元を歪めた。

「正直に“怪盗です”と言えば、君達は見逃してくれるのかな?」


「……」


「まぁいい」

男は帽子も被っていないのに、まるで舞台役者のように軽く一礼した。

「そうさ」

そして顔を上げる。不敵な笑み。

「私は怪盗シェイド」

その瞬間。シアターの空気が、静かに張り詰めた。

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