怪盗探し
数十分後。船内を包んでいた騒ぎは、少しずつ落ち着きを取り戻していた。警察による聞き込みと乗客達への注意喚起。警備員の巡回強化。その結果、少なくとも表面上は平静が戻りつつあった。だが、完全に安心している者はいない。廊下を歩く人間の多くが、自分の荷物を気にしていた。豪華客船だった空間は、どこか落ち着かない空気へ変わっている。一方、エデン達も対策を取っていた。
「じゃあ、荷物全部ここに置いとくか」
ジエルが言う。エデン達はそれぞれの貴重品や荷物を一つの部屋へ集めていた。万が一、怪盗が本当に狙ってきた場合、分散させるより管理しやすい。
「で、誰か一人が見張る」
「俺やりますよ」
亜爆がすぐに手を上げた。
「さっき結構食べたんで、ちょっと休みたいですし」
「本音出てるぞ」
ジエルが呆れる。だが、実際その案が一番安全だった。
「頼めます?」
エデンが聞く。
「任せてください」
亜爆は親指を立てた。こうして亜爆が荷物番を担当し、エデン、ジエル、ドロイの三人は再び船内へ出る。豪華な廊下を歩きながら、三人は自然と警戒を強めていた。さっきまで“旅行”だった空気は、既に薄れている。代わりに漂うのは、任務中に近い緊張感だった。
「怪盗探しか……」
ジエルがぼやく。
「探して見つかるもんなのか?」
「少なくとも、警戒する意味はあります」
ドロイが静かに返した。
「相手は予告状まで出していますからね」
やがて三人は、先程騒ぎが起きていた場所へ戻る。そこには、まだ警察官達が残っていた。そして中央にはアグレスの姿もある。書類を確認しながら指示を飛ばしていたアグレスは、エデン達に気付くと少し驚いた顔をした。
「エデン君?」
「出ましたね、怪盗」
エデンが言う。アグレスは疲れたように息を吐いた。
「あぁ……まさかこんな早く事が起きるなんて思わなかったよ」
その顔には明らかに緊張が見えていた。予告状が来ていたとはいえ、乗船直後に動くとは予想していなかったのだろう。するとドロイが一歩前へ出る。
「俺達に何か出来ることはありませんか?」
その言葉に、アグレスは少し考える。だが、すぐ首を横に振った。
「今回はいいよ」
「……?」
「これは警察の仕事だから」
アグレスは真面目な顔で続ける。
「エイリ星人やラベジニウムが関わってる可能性は、今のところほぼない」
つまり、超常的な事件ではない。普通の犯罪だ。だからこそ、本来ECOが動く案件ではなかった。
「でもよ」
ジエルが口を開く。
「黙ってられねぇよ」
腕を組み、不満そうに言う。
「怪盗がいるって分かってんのに、何もしねぇのは気持ち悪い」
その言葉に、アグレスは少し困ったように笑った。
「……エデン君と似てるね君」
しばらく考え込む。そして、小さく息を吐いた。
「分かった」
ポケットから紙を取り出す。そこへ何かを書き込み、エデンへ渡した。
「じゃあ君達は、不審な人物がいないか見ててくれ」
そこには電話番号が書かれていた。
「もし何か見つけたら、この番号へ連絡」
「了解」
エデンが頷く。その時だった。アグレスが少し真剣な表情になる。
「分かってると思うけど」
視線が三人を順番に見る。
「相手は怪盗とはいえ一般人だ」
空気が少し引き締まる。
「ラベジニウムの能力は使わないようにね」
その言葉には、警察官としての強い警告が込められていた。一般人相手に能力を使えば、能力犯罪として大問題になる。ドロイは静かに頷く。
「はい。気を付けます」
ジエルも不満そうではあったが、否定はしなかった。エデン達は紙を受け取り、その場を後にする。そして再び、怪盗が潜んでいるかもしれない豪華客船の中へ歩き出した。




