船内
受付の列はエデンが思っていた以上に長かった。豪華客船クローズフェザー号へ乗り込む客は多く、港は最後まで賑わっている。エデン達も列へ並びながら順番を待っていた。気付けば空は赤く染まり始めている。海へ沈みかけた夕陽が、巨大な船体を橙色に照らしていた。
「結構時間かかるな……」
エデンが呟く。
「まぁ、この人数ですしね」
亜爆が肩をすくめた。
「次の方、どうぞ」
黒服の受付係に呼ばれ、エデン達は前へ進んだ。ジエルがチケットを取り出す。受付係は慣れた手つきで確認し、丁寧に頭を下げた。
「ご乗船ありがとうございます」
そして。ついに、四人はクローズフェザー号へ足を踏み入れる。
「……おぉ」
エデンは思わず声を漏らした。中も、とにかく豪華だった。広いロビー。大理石の床。天井には巨大なシャンデリア。赤い絨毯が奥まで続き、壁には高級そうな絵画まで飾られている。
「マジで別世界だな……」
ジエルも少し圧倒されていた。亜爆などは完全に周囲を見回している。
「これ床傷付けたら請求ヤバそうですね」
「迂闊に触らない方が賢明でしょう」
ドロイが冷静に返した。その時、近くにいた職員が四人へ近付いてくる。
「お客様、お部屋の鍵をお渡しします」
丁寧な口調。職員は四つの鍵を順番に渡した。210号室。211号室。212号室。213号室。
「部屋別なんだな」
ジエルが鍵を見る。
「まぁ、一人部屋の方が気楽でいいですけど」
亜爆が言った。四人はそのまま二階へ向かう。階段すら豪華だった。磨かれた手すり。暖色の照明。歩くだけで高級ホテルにいるような感覚になる。二階へ上がると、そこには長い廊下が広がっていた。赤い絨毯。等間隔に並ぶ照明。窓の外には夕焼けの海が見える。静かで、美しい空間だった。
「じゃ、あとで集合するか?」
ジエルが言う。
「そうだな」
エデンも頷く。それぞれ自分の部屋へ入っていった。210号室。エデンは部屋へ入ると、小さく息を吐いた。中もかなり広い。大きなベッド。綺麗な机。窓の外には海が見える。
「すご……」
エデンは荷物を置きながら呟いた。だが。ふと、頭にアグレスの言葉が浮かぶ。予告状。エデンは窓の外を見ながら、小さく口を開いた。
「ケイ」
頭の中へ呼びかける。
『なんだ』
低い声が返ってくる。
「怪盗なんて……本当に来るのかな?」
少しだけ不安混じりの声だった。するとケイは静かに答える。
『予告された以上、警戒するに越したことはない』
短いが、はっきりした言葉。
『妙な気配を感じたら、すぐ動け』
「……うん」
エデンは頷く。完全な休暇、というわけにはいかなそうだった。
一方。211号室。ジエルはベッドへ倒れ込むように座っていた。手にはスマホ。だが、視線はどこか別のところを向いている。
「怪盗、ねぇ……」
小さく呟く。正直、半信半疑だった。だが、警察まで動いている以上、完全なデマでもないのだろう。
「面倒事にならなきゃいいけどな」
そう言いながらも、どこか退屈しなさそうだとも思っていた。
212号室。亜爆は部屋へ入るなり、豪華な内装を見回していた。
「うわ……中もこんなに豪華なのか」
ベッドを押す。
「ベッドがふかい……!」
少しテンションが上がっている。だが、その後ふと天井を見つめた。
「それにしても....怪盗か……」
テレビの話みたいだ、と亜爆は思う。
213号室。ドロイは静かに荷物を整理していた。その動きは無駄がない。淡々としている。だが、頭の中ではアグレスの話を整理していた。
「……妙ですね」
小さく呟く。ルノンブルは基本的に目立つ行動を避けていたはず。しかし、今回は違う。ドロイはそれが少し引っかかっていた。
その頃。クローズフェザー号の甲板では、二つの人影が海を眺めていた。夕焼けの海。風が静かに吹き抜ける。一人は背の高い男だった。紫色の髪。豪華なスーツ。指輪やネックレスなど、所々に金の装飾品を身につけている。まるで舞台役者のような派手さ。男は海を見つめながら、ゆっくり口を開いた。
「この海の輝きは、まるで私を誘う宝石のようだ」
芝居がかった口調。口元には余裕の笑み。
「危うく、本来の目的を忘れるところだった」
その隣には、小柄な少女がいた。白を基調とした服装。銀色のブローチ。風に揺れる白髪。少女は静かに海を見つめ、小さく呟く。
「うん……綺麗……」
男は満足そうに笑った。
「さて、ルノ」
振り返る。その目は獲物を探す猛獣のようだった。
「舞台は整った」
海風がスーツを揺らす。
「今夜のターゲットを探しに行こうじゃないか」
少女――ルノは小さく頷く。
「うん……シェイド」
そして二人は、静かに船内へ歩き出した。




