怪盗団
「怪盗って……そんな作り話みてぇなことあんのか?」
ジエルが半信半疑な顔で言う。豪華客船に怪盗。まるで映画みたいな話だった。
「しかも予告状って……」
亜爆も苦笑する。
「時代錯誤すぎません?」
だが、ドロイだけは比較的落ち着いていた。
「いえ、最近ニュースでかなり話題になっていますよ」
その言葉に、エデンがドロイを見る。ドロイは静かに続けた。
「二人組の怪盗です」
海風が吹く港の中、ドロイの淡々とした声だけが妙に聞こえやすかった。
「“ルノンブル”という名前らしいですね」
「ルノンブル?」
エデンが聞き返す。
「怪盗団の名称です」
ドロイは記憶を整理するように話す。
「メンバーは二人。シェイドとルノという名前で活動しているらしいです」
「へぇ……」
亜爆が感心したように声を漏らす。ジエルはまだ納得していない様子だった。
「名前までそれっぽいな……」
「ただ、私達が思うような怪盗とは少し違います」
ドロイが続ける。
「美術館や公共施設から金品を盗むことはないそうです」
「……は?」
ジエルが眉をひそめる。
「じゃあ何盗んでんだよ」
「主な被害者は、ライサムのお偉いさん達ですね」
ドロイは淡々と言った。
「富豪や企業関係者、政治家など……そういう人間ばかりが狙われています」
その言葉に、エデンは少し驚く。
「じゃあ、狙い撃ちしてるってこと?」
「そういうことになります」
ドロイは頷いた。
「しかも盗まれるのは、表には出ていないような高級品やコレクションが多いそうです」
「なんか妙な怪盗ですね…」
亜爆が呟く。義賊――とまでは言わない。だが、少なくとも無差別に盗みをしているわけではないらしい。
「で、その怪盗がなんだってんだよ」
ジエルがアグレスへ聞く。アグレスは少し困ったように息を吐いた。
「予告状には、“お宝を頂戴する”って書いてあってね……」
周囲を見回しながら続ける。
「今までは、予告状なんて出してなかったんだ」
「……?」
エデンが首を傾げる。
「今までは黙って盗んでたってことですか?」
「そう」
アグレスは頷く。
「犯行後に“ルノンブル”の名前だけ残していく。それがいつものやり方だった」
だが今回は違う。わざわざ事前に予告状を送りつけてきた。それ自体が異例だった。ジエルは腕を組む。
「じゃあ今回は、わざと騒ぎ起こそうとしてんのか?」
「可能性はある」
アグレスの表情が少し険しくなる。
「だから警察もかなり警戒してる」
港を見れば、確かに普通の旅行客に紛れて警備関係者らしき人影がちらほら見えた。一見普通だが、視線の動きが明らかに違う。
「まぁでも」
亜爆が豪華客船を見上げる。
「金持ちだらけの船なんて、怪盗からしたら最高の舞台ですよね」
アグレスは小さくため息を吐いた。
「だから嫌な予感しかしないんだよ……」




