4人目
一日後。アモリス地区の街並みを、エデンはゆっくり歩いていた。ECOの簡易パトロール。危険度の高い任務ではなく、街の見回りに近い軽い仕事だった。昼下がりの街は比較的平和で、人通りも多い。商店街からは賑やかな声が聞こえ、子供達が走り回っている。そんな景色の中を歩きながら、エデンは別のことを考えていた。
「……あと一人か」
クロウ島への旅行。余っている最後のチケット。誰を誘うべきか、まだ決まっていない。せっかくなら全員楽しめる相手がいい、エデンはそう考えている。だが、ECOの知り合いで旅行へ来そうな人間は意外と少なかった。
「大山さんや時輪さんは忙しそうだし......」
「誰を誘おう....」
そんなことを考えていた時だった。前方に、見覚えのある人影が見える。
「あ」
エデンは足を止めた。
「ドロイさん」
相手もこちらへ気付く。
「おや」
落ち着いた声。ドロイ・アンドだった。
「久しぶりですね、エデンさん」
「久しぶりです」
エデンは軽く笑う。エリア・アスタロス任務以来だった。ドロイは相変わらず整った見た目をしていた。一見すると普通の人間にしか見えない。落ち着いた雰囲気に、知的そうな印象。機械体だと知らなければ、誰も気付かないだろう。エデンは少し気になって聞く。
「ドロイさん、なんでアモリス地区に?」
ドロイは淡々と答えた。
「俺の体をメンテナンスしてくれる人が、こっちにいるんですよ」
軽く自分の肩へ触れる。
「定期的に調整しないと、色々不具合が出るので」
「へぇ……」
エデンは少し感心する。外見からは全く分からないが、ドロイの身体はほとんど機械化されている。維持するだけでも大変なのだろう。するとエデンは、ふと思い出したように口を開いた。
「あ、そうだ」
「?」
「今度、クロウ島に旅行行くんですけど」
ドロイが僅かに目を向ける。
「チケット一枚余ってて。よかったら来ません?」
少しの沈黙。ドロイは特に迷う様子もなく答えた。
「いいですよ」
あっさり承諾した。
「ちょうど休みですから」
「本当ですか」
思ったより早く決まった。エデンは少し笑う。
「じゃあ、二日後にアモリス支部集合で」
「分かりました」
ドロイは静かに頷いた。
「では、その時に」
短いやり取りを終え、二人は別れる。
エデンは歩きながら、少し安心していた。これで全員揃った。久しぶりに、少しくらい平和な時間を過ごせるかもしれないと、そんなことを思っていた。
そして二日後。朝。寮の一室で、エデンは目を覚ました。窓から朝日が差し込んでいる。ぼんやりしたまま身体を起こし、軽く目を擦る。
「……眠」
小さく欠伸をした。しばらくぼーっとしたあと、近くのリモコンを取り、テレビを付ける。画面が光る。
『今日の天気は全国的に――』
朝の情報番組。キャスターが笑顔で天気予報を読み上げている。エデンはぼんやり見つめながら、チャンネルを変えた。別のニュース番組。また別の番組。だが、特に目新しい話題はない。事件も、大きな事故もない。平和だった。それが少しだけ心地いい。
「……よし」
エデンは立ち上がる。服を着替え、軽く身支度を整える。荷物を持ち、玄関へ向かった。そして、そのまま扉を開ける。
「行ってきます」
誰もいない部屋へ、なんとなく呟く。扉が閉まる。静かになった部屋。だが、テレビの電源はまだ消えていなかった。番組はそのまま続いている。
『――次は、最近巷で話題になっている怪盗についてです』
無人になった部屋で、テレビだけが静かに流れ続けていた。




