第206話 探索用のCゴーレム
階段を降り切った瞬間、岩肌の匂いと冷えた空気が喉に貼りついた。けれど視界に広がる景色は、地下八〇階層で見慣れた岩石地帯とほとんど変わらない。
ただ、同じように見えるだけで中身は別物だった。だからこそ一階層深くなるだけで推奨帯が跳ね上がり、魔物の平均がまた一段、手の届かない高さへ伸びていく。
そして剛志たちの数字も同じ速度で伸び続けた。現に剛志のレベルはすでに九七〇に届き、千という区切りが現実味を帯びている。
しかし、この帯域では「新スキルがポンポン増える」成長は薄い。だから通常の探索者は、既にある技の精度と回転数を上げることで、同じ一撃を強くしていく。
一方で剛志は、道具そのものを更新できる。そこでゴーレムクリエイトが、磨くべき技そのものを増やし続け、伸び幅の質まで変えてしまっていた。
階段脇の淡い光の輪へ視線を向け、剛志は手のひらを上げた。
「万葉が頑張ってくれたおかげで思ったより早く地下81階層に来れたし、一旦ここで休憩を取ろうか。万葉以外はMPとかも残っていると思うけど、流石にダンジョン内でぐっすり寝るのは難しいと思うから、今みたいな階段近くのセーフゾーンで仮眠とかをとってそのあと探索再開しよう。そうだね。また3時間くらいの休憩時間を取ろうか」
それを合図に、各々が装備の締め付けを緩め、壁際へ腰を下ろした。だから静けさの中に、革紐の擦れる音と呼吸だけが残る。
さらに剛志は休憩の輪から少し外れ、セーフゾーンの少し外の地面に膝をついて掌をひらいた。すると宙に薄い光の面が立ち上がり、イチロイドの分体が小さく浮かんだ。
休息の時間であっても、作業の時間でもある。そこで剛志は、前回の「センサーブロック大量放出」を思い出すように指を折り始めた。
「じゃあ、俺たちは探索用の方法の改善案を出していこう。前回イチロイドが言ってくれた隠密用のCゴーレムをつける案はいいと思う。そのほかに必要なものとかある?」
分体の目の光が一段だけ鋭くなり、薄い声がくっきりと響いた。
『そうですね。あるとするなら情報伝達をする際に、最悪ゴーレムが破壊されてもその情報を受け取れるように、ビーコン型のCゴーレムを配置するというのも実用的ですね。それがあれば今までより効率的にゴーレム達に指示を飛ばせますし、帰り道を確保する事にも繋がります』
剛志は頷きながら、光の面に指先で小さな円を描いた。だから円の軌跡がそのまま「固定」「中継」「帰投」という短いタグに変わって浮かぶ。
「なるほど、確かにそれもあったらいいな。この際それも採用しちゃおう。ほかには何かある?」
分体が宙でほんの少し角度を変え、周囲の岩陰へ視線を走らせた。すると、次の提案が間髪入れずに積み上がる。
『あとは単純に囮用のデコイゴーレムですかね。例えばゴーレム達が見つかった場合にデコイが囮になる事で損害率を下げるのと、情報を持っているセンサー達を逃すことにも繋がります』
その言葉に合わせて、剛志の指の動きが止まった。だから一拍だけ置いてから、今度は掌を強く握り込み、光の面を「設計」へ切り替える。
「OK、デコイも作っちゃおう。まずは設計図からだね。今話した内容を反映させると、こんな感じかな?」
光の面が三分割され、ブロックの輪郭だけが先に並んだ。そこで剛志は、ひとつずつ数値を打ち込むように指を走らせ、完成した設計を宙へ固定する。
【ゴーレム名】:コンポジット・ステルスブロック
【説明】:隠密・低反応。探索放流ドローンの“身を隠す”担当。
【ステータス】
種類:コンポジットブロック・ゴーレム(ステルス)
スキル:魔力結合・空中移動・魔力反応抑制・静音・擬態皮膜・気配希薄化・遮蔽航行補助
レベル:0
HP:750/750
MP:2,400/2,400
攻撃力:120
防御力:420
器用:1,900
速さ:1,100
魔法攻撃力:220
魔法防御力:820
【必要器用値:4,200】
【消費MP:1,600】
【消費材料:中級魔石×1・影布(擬態素材)×2・クリスタルガラス×1・銀線×2】
【ゴーレム名】:コンポジット・ビーコンブロック
【説明】:帰投誘導・位置固定・簡易マップの“道しるべ”。迷路化/遮蔽環境でのロスト率を下げる。
【ステータス】
種類:コンポジットブロック・ゴーレム(ビーコン)
スキル:魔力結合・空中移動・固定錨(壁/天井/地面)・帰投誘導(信号)・座標同期・簡易結界(耐干渉)・信号中継
レベル:0
HP:1,200/1,200
MP:1,700/1,700
攻撃力:140
防御力:900
器用:1,600
速さ:500
魔法攻撃力:180
魔法防御力:1,050
【必要器用値:3,900】
【消費MP:1,350】
【消費材料:中級魔石×1・ブラックアイアン×4・銀線×4・クリスタルガラス×1】
【ゴーレム名】:コンポジット・デコイブロック
【説明】:囮・撹乱・偽装反応。探索放流群の“発見される確率”を落とすための攪乱役。
【ステータス】
種類:コンポジットブロック・ゴーレム(デコイ)
スキル:魔力結合・空中移動・偽魔力反応生成・残像投射・音響撹乱・フェイント機動・自爆分離(爆風ではなく散開)
レベル:0
HP:850/850
MP:2,100/2,100
攻撃力:160
防御力:500
器用:1,750
速さ:1,050
魔法攻撃力:320
魔法防御力:700
【必要器用値:4,100】
【消費MP:1,500】
【消費材料:中級魔石×1・クリスタルガラス×2・銀線×2・トレントウッド×1】
そして剛志は、設計図の上に材料名を重ねるように空中で指を弾いた。すると足元に小さな立方体が次々と生まれ、暗い岩肌に淡い光が点滅していく。
休憩が進むにつれ、セーフゾーンの端へ積まれるブロックの列が伸びた。だから剛志は呼吸の合間にも手を止めず、分体はその横で同期と配分を刻み続けた。
やがて時間が満ち、周囲の動きが一斉に起き上がりの気配へ変わる。すると剛志の背後に、臼杵の足音が近づいた。
「剛志、時間になったけど大丈夫か?お前全く休んでなかったろ」
剛志は肩を回し、指先の痺れを振りほどくように掌を開いた。けれど目はまだ、完成数のカウントに貼りついたままだ。
「うん、そうなんだけどね。俺の主戦場てどっちかというと今みたいな時間だし、戦闘が始まったら見ているだけだから気にしないで。というよりむしろもう少し時間をもらってもいい?まだゴーレムの数が足りなくて。あともう二、三時間欲しいかな」
臼杵は短く息を吐き、背後で休んでいた面々へ視線を流した。だから提案は、状況の整理みたいに自然に落ちてくる。
「まじか。別に俺らは構わないけど、それだったら今日は早いがここで野営をして、明日から本格探索でいいんじゃないか?ダンジョン内に昼夜の概念はないけど、結局は時間通りに動いたほうが疲労もすくないしさ」
その言葉に合わせて、万葉が軽く顎を引き、百花も小さく頷いた。そこで剛志は、手元の光を一度だけ畳み、決定を受け入れるように息を整えた。
「そうだね。そのほうがいいかも。今日はあまり進めなかったけど、俺が今やっている作業が完成したらそこからの進捗スピードは劇的に変わるはずだし、今は任せて」
そして各々が野営の準備へ散った。とはいえ装備もアイテムも剛志のアイテムバッグにまとまっているため、必要な物を指で示し、受け取った側が配置していく形になる。
一方で剛志は、同じ場所に座ったまま作成を続けた。だから夜の代わりに「時間の深さ」だけが積もり、ブロックの山が少しずつ、手の届く高さを越えていく。
やがて次の区切りが来て、周囲が再び起床のざわめきへ移った。すると剛志も目をこすりながら立ち上がり、膝に残る痺れを二度叩いて整列へ戻る。
「剛志。お前かなり遅くまで作業していただろ。あんまり寝てないんじゃないか?」
臼杵がそう伝えると、剛志は瞼を擦り、口の端だけで笑うように息を吐いた。
「まあね、でもこれからはゆっくりさせてもらうから気にしないで。それに少しは寝れたから、問題ないよ」
それを受けるように、イチロイドの分体が光の面を広げる。すると三種の新ブロックに加え、運用の型が簡易表示として並んだ。
「じゃあ、早速俺の徹夜の成果をみんなに見せようかな。今日の目標は高めに見積もろうか。そうだな、一気に84階層あたりまで進んじゃおう!」
そして剛志が指を鳴らすと、立方体の群れが一斉に浮いた。だからブロックは小さな編隊を組み、岩陰へ滑り込み、角を曲がるたびに光が細く途切れていく。
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