第204話 地下80階層探索再開
ミツキヨアイテム店での買い物を終えた一行は、荷物の感触を確かめるようにそれぞれの装備を整え直してから、横浜第三ダンジョンへ戻ってきた。しかも今回は泊まり込み前提のため、動き出しの段取りからいつもと違う緊張が混じる。
転移陣の光が引いていくと同時に、剛志は一度だけ周囲を見回し、手首の端末を軽く叩いた。
「よし、準備万端。今日から一気に地下80階層の攻略をやっちゃおう!」
それを合図に、隣で肩を回していた臼杵が、息を吐いてから笑う。
「今回みたいな攻略はなんだかんだ初めてだしな。ちょっと緊張感あるぜ」
返すように、剛志は頷きながら掌を上に向け、全員へ視線を送った。
「まあ、そうだね。でも今回の探索はミアさんの時間制限もあるし、無理そうなら諦めて撤退することもある。その辺の判断はイチロイド、お願いできる?」
小さなミニサンドゴーレムが、胸を張るように一歩前へ出る。見た目の可愛らしさとは裏腹に、声だけは落ち着き切っていた。
『承知いたしました。お任せください』
ミアの滞在予定は残り十一日で、日数だけ数えると余裕があるようにも見える。とはいえ後半で手間取れば、その時点で計画が崩れるため、序盤で稼げるだけ稼ぐ必要があった。
そこで剛志は、買い物の帰りに耳にした話を思い出しながら、声の調子を少しだけ落とす。
「昨日組合の職員に聞いたんだけど、なんでも中級探索者の未帰還率が増えているようなんだ。だからいつも通りではあるけど、少し警戒度を高めて探索をしていこう」
その言葉に合わせて、万葉は指先で鞘を鳴らし、顔を上げた。
「私たちも戦闘に参加するわよ。まあスポットスポットになるかもだけどね。百花もレベルが追いつき次第一緒に戦うわよ」
隣にいた百花は背筋を伸ばし、両拳を軽く握り直す。
「わかった、お姉ちゃん。今回の探索でかなりレベルも上がると思いますし、早く皆さんのお役に立てるように頑張ります」
さらに少し離れた位置で、ミアは銃身の確認を終え、淡々と視線だけをこちらへ向けた。
「今回の私の目的はあなた達と連携できるかの確認と、信頼関係の構築だから無理に探索をしようとしなくても構わないわ。せっかく受け入れてもらったのだから、成果として地下90階層への切符を手に入れることの手伝いをできたのなら、それに越したことはないけどね」
短い会話の区切りとして、剛志は端末の画面を皆の見える位置へ回し、全員のステータスを確認した。
【名前】:岩井剛志
【職業】:ゴーレムマスター
【パーティメンバー】:臼杵健司・宮本万葉・宮本百花・(ミア・コールマン)
【スキル】:所持制限無視・多重思考・二重詠唱・自動記録・高速展開・自動防御補助・全属性耐性・不屈の心
【職業スキル】:ゴーレム作成・ゴーレム再作成・支援魔法【ゴーレム】・ゴーレム強化・ゴーレム異空庫・ゴーレム償還・ゴーレムカスタマイズ・特殊ゴーレムコア作成・ゴーレムアップデート・高速召喚
【レベル】:932(56up)
HP:6,484/6,484(423up)
MP:18,332/18,332(1,176up)
攻撃力:3,606(231up)
防御力:7,319(479up)
器用:9,194(616up)(+121%)
速さ:7,751(504up)
魔法攻撃力:10,956(703up)
魔法防御力:12,960(833up)
【名前】:臼杵健司
【職業】:賢者
【パーティメンバー】:岩井剛志・宮本万葉・宮本百花・(ミア・コールマン)
【スキル】:雪魔法・怜耐性・視界良好・気配遮断
【職業スキル】:全属性魔法・支援魔法・MPバリア・MP自動回復・魔力暴走
【レベル】:1028(5up)
HP:5,217/5,217(20up)
MP:21,005/21,005(164up)
攻撃力:2,408(20up)
防御力:2,455(20up)
器用:3,828(26up)
速さ:2,474(20up)
魔法攻撃力:25,414(184up)
魔法防御力:23,356(144up)
【名前】:イチロイド
【種類】:マザーゴーレム
【スキル】:【増加】・【成長】・並列思考・思考加速・解析眼・自動記録・情報整理・思念伝達・情報共有・意識連結・模倣・シミュレーション思考・自動修復・再生・構造把握・魔力循環・魔力吸収・持久・分体生成・遠隔操作・形状記憶・自立思考・インベントリ
【レベル】:811(121up)
HP:8,299/8,299(1,089up)
MP:18,354/18,354(1,694up)
攻撃力:4,966(726up)
防御力:10,610(1,210up)
器用:28,220(2,420up)
速さ:17,043(1,573up)
魔法攻撃力:9,310(1,210up)
魔法防御力:14,232(1,452up)
【名前】:宮本 百花
【職業】:気功闘士
【パーティメンバー】:岩井剛志・臼杵健司・宮本万葉・(ミア・コールマン)
【スキル】:自動回復
【職業スキル】:気功術・身体強化・移動術・格闘術
【レベル】:678(269up)
HP:3,596/3,596(1,440up)
MP:1,199/1,199(480up)
攻撃力:3,597(1,440up)
防御力:3,596(1,440up)
器用:2,399(960up)
速さ:3,596(1,440up)
魔法攻撃力:207(84up)
魔法防御力:389(158up)
【名前】:宮本万葉
【職業】:刀聖
【パーティメンバー】:岩井剛志・臼杵健司・宮本百花・(ミア・コールマン)
【スキル】:一刀両断・肉体制御・気配察知・空間把握
【職業スキル】:刀聖術・抜刀術・歩行術・HP自動回復・絶対領域
【レベル】:1326(1up)
HP:27,138/27,138(65up)
MP:4,134/4,134(7up)
攻撃力:27,805(77up)
防御力:19,153(46up)
器用:18,479(43up)
速さ:25,578(86up)
魔法攻撃力:2,881(7up)
魔法防御力:2,871(6up)
【名前】:ミア・コールマン
【職業】:狙撃王
【パーティメンバー】:岩井剛志・臼杵健司・宮本万葉・宮本百花
【スキル】:長距離狙撃・遠視・気配察知・気配消失・身代わり分身・魔弾作成・チャージ
【レベル】:1018(6up)
HP:5,506/5,506(24up)
MP:9,900/9,900(36up)
攻撃力:10,960(42up)
防御力:3,436(24up)
器用:17,002(56up)
速さ:12,921(48up)
魔法攻撃力:11,357(53up)
魔法防御力:5,164(28up)
確認を終えると同時に、転移の準備が整う。加えてイチロイドが短く首を振り、先導の合図を出した。
地下80階層へ踏み込んだ瞬間、空気が一段重くなり、岩肌の匂いが鼻の奥に刺さった。しかも足元の砂礫には細かな穴が点在し、視界の端で砂がわずかに崩れる。
前回の到達点へ向かう流れを整えながら、臼杵が短く笑う。
「この階層も恐ろしいのはそのままだが、慣れてきたな。まずは前回到達した地点まで進んでみるか?」
それに合わせて、剛志は手を横へ振り、先を促した。
「そうだね。イチロイド案内お願い」
『かしこまりました。ナビゲーションを開始いたします』
返事と同時に、空中へ淡い光が走り、三次元の地図が浮かび上がる。現在地の赤点から、前回の休憩地点を示す青点へ線が伸び、角度の違う地形まで滑らかに重なった。
地図が示す最短ルートへ乗った直後、遠方の岩陰がざわつき、黒い波のような蟻の群れが現れる。さらに上空からは、羽音が薄い霧のように広がり、蜂の影が幾重にも重なって迫ってきた。
それを合図に、前線のCゴーレムが一斉に形を変えた。ブロックが組み替わり、広い面を取った砲撃形態が横へ伸び、包囲のためのフレームが左右へ散って逃げ道を塞ぐ。
地上へ向けた拡散砲が走り、黒い波の先頭が白煙と焦げ跡に変わる。とはいえ数が多すぎるため、焼け残った個体が割れ目から湧くように増え、前へ前へと押し出してくる。
そこで雪が舞った。臼杵の周囲から冷気が広がり、蟻の脚が滑り、蜂の羽ばたきが鈍る。さらに円錐状に固めた雪のニードルが、撃ち漏らしを正確に貫き、硬い甲殻へ白い亀裂を走らせた。
一方で、後方のミアは一歩も動かず、視線だけで戦場の奥を捉える。イチロイドの指示が短く飛ぶたび、弾丸が風を裂き、群れの中に紛れた指揮官個体の頭部を撃ち抜いた。
こうして進行は止めず、戦いながら距離を稼いでいく。二時間ほどの往復の末、青点が示していた位置へ戻ると、岩の陰に残っていた目印が視界に入った。
息を吐き、臼杵は手の甲で口元を拭う。
「やっと戻って来れたな。でもダンジョンってのは深く慣ればなるほど、一階層が広くなっていく傾向にあるし、今がだいたいどのくらい探索できているのかわかったもんじゃねえな」
返すように、剛志は端末の表示を閉じ、指先を鳴らす。
「確かにね、いつもは魔物を倒してレベル上げをすることが目的だったけど、今回は時間制限もあるし、以前から検討して居た探索用のゴーレムで一気に探索する作戦を実行しようか」
方針が決まると、剛志は収納していたCゴーレムのセンサーブロックを呼び出す準備へ入った。加えて撃墜覚悟の数を前提にするため、材料の感触を確かめるように指を動かし、呼吸を一定に整える。
【ゴーレム名】:コンポジット・センサーブロック
【説明】:索敵・測距・監視。3D簡易表示の核にもなる。
【ステータス】
種類:コンポジットブロック・ゴーレム(センサー)
スキル:魔力結合・空中移動・索敵・測距・魔力反応解析・簡易立体投影
レベル:0
HP:650/650
MP:1,600/1,600
攻撃力:150
防御力:350
器用:1,700
速さ:800
魔法攻撃力:250
魔法防御力:650
【必要器用値:3,600】
【消費MP:1,200】
【消費材料:中級魔石×1・クリスタルガラス×2・トレントウッド×1】
次の瞬間、空中へ小さな立方体が次々と浮かび、蜘蛛の巣のように散っていく。しかも各ブロックは淡い光の筋を残し、岩の陰も割れ目の奥も、かすかな反応を拾っては地図へ刻み込んだ。
探索を任せる流れが固まったところで、休憩用のセーフティーが展開される。宙に浮いた小部屋へ全員が乗り込み、柵越しに外を見下ろせる位置で腰を落ち着けた。
臼杵はMPポーションの栓を指で弾き、喉を鳴らして飲み干す。
「MPポーションを飲めばいいけど、流石にこれだけの敵相手に戦い漬けだと幾らMPがあっても足りねえな。ミアちゃんもそうだろ?」
ミアは銃を膝に置き、短く頷く。
「ええ、そうね。私の場合はピンポイントでの使用が多いからなんとかなっているけど、そのうちそこをつくわね」
剛志は頷き返し、手首の端末を操作して補充予定を記録していく。
「そうなったらどんどん休んでくれて構わないよ。もう少しゴーレムの数を増やしたら対応可能だし。最悪敵を抑えるだけならなんとかなるからさ」
言い終える前に、万葉が椅子から立ち上がり、肩を一度鳴らした。視線は前線の方向へ向き、刀の柄へ指がかかる。
「剛志、流石にちょっと何もしてなさすぎるからこのあとは一回私に任せてくれない?ちょっと久しぶりに暴れたい気持ちもあるし、百花ならまだしも私までキャリーされるのはね」
それを受けて、剛志は一拍置き、周囲の警戒をイチロイドへ投げてから口を開いた。
「確かに、それもそうだね。俺たちも万葉の本気の戦闘を見る機会ってあまりなかったし、ちょっとここで見せてもらおうかな。万が一のバックアップはこっちに任せて、思う存分暴れてくれ」
万葉は短く頷き、刀を軽く抜いて刃を月明かりのように閃かせる。
「任せてちょうだい」
センサーブロックが刻み続ける地図の光点が、外周で増えていく。柵の向こうでは羽音が近づき、岩の割れ目から黒い影が滲み出す気配が濃くなる中、次に踏み出すのは万葉の番だった。
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