第203話 久しぶりのショッピング
横浜第三ダンジョンの転移陣が光を収めると同時に、剛志たちは地上の空気を吸い込んだ。とはいえ気を抜く間もなく、足はそのまま探索者組合へ向かう。
受付の一角で手続きを待つ列を抜け、カウンター越しに今日の成果を簡単に伝える。加えて、回収したドロップ品の一部は換金へ回し、残りは持ち帰り用に仕分けられていった。
端末の処理音が落ち着いたところで、剛志が次の予定を口にする。椅子に腰掛けたまま、軽く手を振って言った。
「これから新宿ダンジョンのミツキヨアイテム店に向かって、色々野営に便利なアイテムを買ってこようと思うんだ」
カウンターの職員は、頷きながら端末を閉じる。だからこそ、その返答は事務的ではなく、少しだけ明るかった。
「そうなんですね。あそこは国内最高峰のアイテムショップですし、品揃えも豊富です。きっとほしいものが見つかると思いますよ」
その言葉を合図に、剛志たちは受領票を受け取り、踵を返す。ところが、職員は呼び止めるでもなく声を落とし、世間話の体で続けた。
「そういえばここだけの話ですが、最近中級探索者の方達の未帰還率が増加傾向のようです。まだ異変というほどのデータではないのですが、もしかするとダンジョンに何らかの異変が起き始めている可能性もあるため、お気をつけ下さい」
一瞬だけ空気が締まった。剛志は足を止め、視線を真っ直ぐに戻して受け取る。
「へ〜そうなんだ。忠告ありがとう。こっちも何かわかったら共有するよ」
短いやり取りのあと、組合を離れる。続いて向かったのは、ダンジョン間転移の窓口だった。支払いを済ませると、常駐のスキルホルダーが淡々と詠唱し、床の紋様が足元から立ち上がる。
光が一度反転するように揺れ、次の瞬間には新宿ダンジョンの前室の喧騒が耳に入った。そこで一息つく間もなく、通りを挟んでそびえる十階建てのビルへ向かう。外壁の看板には、迷いようのない大きさで「ミツキヨ」と刻まれていた。
自動扉が滑るように開き、店内の空気が変わる。照明は柔らかく、店内には客のテンションを上げるような楽しげなBGMが流れていた。
剛志は入るとすぐ近くにいた店員に今回の目的を伝える。すると応対した店員はすぐに背筋を正し、奥へ案内してくれた。
通されたのはVIPルームだった。テーブルは広く、壁際には商品投影用の魔導スクリーンが備え付けられている。担当者がつく流れになり、タブレットに触れる渡される。
そこで今回買いたい商品を改めて説明すると、すぐさまおすすめのものをいくつか上げてくれた。
その中からパーティーメンバーで話し合い、購入する商品を決める。こういう時に予算に上限がないと、値段を気にする必要がなくなり思考時間が短くなる。それは購入に対するストレスを低くするとともに、余分な買い物もしてしまうというリスクもある。
まあ、今の剛志にとって、多少の無駄遣いはしても問題ないくらいに収入がある。それに細かい話をすると、探索者である剛志にとって、ダンジョンで使用するアイテムを購入するという行為はある程度経費というものになるため、ただお金を貯めているだけよりは使ってしまった方が税金対策になってお得でもある。
まあ、その辺のことは何も考えて居ない剛志は、単純にめんどくさいから必要なものは買ってしまおうという若干の成金思考の元購入する商品を決めているだけなのだが。
そして、店員におすすめされたものは以下ようになった。
ー最低限(泊まり込みを成立させる)ー
携帯シャワー陣札:1,380,000円(一定時間だけ洗浄水を噴出)
乾式洗浄シート:240,000円(汗・血・油を分解/30枚入)
防臭結界ピン:780,000円(臭いを閉じ込める/2本組)
消臭粉末:160,000円(装備・衣類用/業務用)
殺菌ミスト:210,000円(手指・傷口周辺/携帯型)
携帯トイレ魔具:1,980,000円(結界+消臭+処理)
廃棄転送ポーチ:1,250,000円(ゴミ・汚物を密閉→転送)
清浄水生成ボトル:1,100,000円(飲用水の確保)
味付き栄養キューブ:320,000円(行動食/30食分)
食料保存袋:180,000円(腐敗遅延/10枚)
回復マット:1,480,000円(休憩の質を上げる)
防音イヤーカフ:650,000円(羽音ストレス対策)
ーあると快適(過ごしやすさが一段上がる)ー
皮脂分解スプレー:260,000円(髪・肌向け)
歯磨き錠剤:190,000円(噛むだけで洗浄/30回分)
防カビ札:340,000円(寝具・マット用/3枚)
低臭調理炉:1,650,000円(匂い控えめで加熱)
保温マグ:220,000円(温かい飲み物を維持/2個)
魔力ゼリー:420,000円(軽食+気分転換/20本)
塩分ミネラル滴:180,000円(汗対策/濃縮)
深睡タグ:1,350,000円(短時間でも眠りを深く)
体温調整マント:1,850,000円(冷え/熱を平準化)
眼精疲労緩和アイマスク:290,000円(光・乾燥対策)
疲労軽減パッチ:380,000円(脚・腰向け/10枚)
精神安定カプセル:1,200,000円(緊張の揺れを抑える/10回分)
虫忌避香:560,000円(追尾・まとわりを鈍らせるタイプ)
これでもある程度購入するものは絞ったあとなのだが、持ち運びも全くのノーリスクな剛志にとって、この子の量を購入してしまっても全く問題がなかった。
今回の購入品が決まり、隣で腕を組んでいた臼杵が低く笑う。視線はスクリーンから剛志の顔へ移った。
「いつもいつもとんでもない量の魔物のドロップアイテムを換金しているだけあって、資金力がエグいな」
剛志は苦笑しつつ、肩を竦める。だからといって止まる様子はなく、追加の要望をそのまま口にした。
「まあ、ずっとダンジョンに入りっぱなしでほとんど使って居なかったのも大きいよね。ついでにポーションなんかの消耗品も買えるだけ買っちゃおうか」
担当の店員が即座に頷き、別枠の明細を投影する。それを合図に、スクリーンの下段へ新しい行が並んだ。
HPポーション(中級)×50本:3,500,000円
MPポーション(中級)×50本:4,000,000円
HPポーション(上級)×10本:2,500,000円
MPポーション(上級)×10本:3,000,000円
最後に、店員が合計をまとめて提示する。数字が確定し、表示が太字に変わった。
合計:32,600,000円
剛志は一度だけ瞬きをし、それから小さく息を吐いた。とはいえ視線を逸らさず、決裁の言葉だけははっきりと出す。
「値段を聞くと流石に少しびっくりはするけど、使い道も今のところないし使っちゃおうか。全部購入で」
店員は深く一礼し、手元の端末で処理を進める。返事は簡潔で、しかし確実だった。
「かしこまりました。ありがとうございます」
ちょっと前までは同じような金額帯の魔石変換器を購入するのにも組合から資金提供を受けていた剛志だが、今ではこの値段なら即決で購入を決めることができる。
なんなら、この程度では剛志の資産はほとんど変わらないと言ったレベル感ですらある。
それがただでさえダンジョン探索における時給効率が他の探索者とは桁違いに大きかった剛志が、トップ探索者となりより深い階層でダンジョンを攻略し続けている成果だ。
初めは副業目的で始めたただのお金稼ぎが、今やこれほどまでになるとは初め誰が予想して居たことだろう。そんな感慨深い気持ちに多少なりともなった剛志だが、それよりも今は準備が整ったことの方が嬉しかった。
「これで準備が整ったね。じゃあ明日からはダンジョンに泊まり込みで探索とこう!目標はミアさんがいる間に89階層のボスを攻略することだ。頑張ろう!」
剛志がそういうと、皆一様に頷く。これで準備は整った。横浜第三ダンジョンの本格攻略に向けて、今日は皆早めに休み、英気を養うのだった。
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