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ゴーレムの可能性は無限大 〜副業で探索者になったら職業とスキルの組み合わせが良過ぎたみたいです〜  作者: 伝説の孫の手
A.B.Y.S.S.建国

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第198話 地下80階層作戦会議

転移陣の光がほどけると同時に、乾いた空気が肺に入った。さっきまで岩肌の匂いが鼻の奥に残っていたのに、今は消毒と金属の匂いが勝っている。しかも足元は硬い床で、靴底が小さく鳴った。


その音に重なるように、エントランスの照明が白く反射する。受付の奥は静かだが、遅い時間帯の出入りはまだ途切れていない。そこで視線を上げると、待っていた二人がすぐに目に入った。


「お疲れ様。先に戻ってたんだね」


ベンチの端に腰を預けた姉のほうが、肩を一度だけ回してから口を開く。対照的に、妹は膝の上で手を揃え、姿勢を崩していない。


「ええ、私たちの基本は百花の修行だからね。そんなに長時間はしないわよ。でも数日ぶりだったけどなまってなかったわね」


その言葉のあとで、妹の手首をちらりと見て、次に足元へ視線を落とした。まるで今日の動きを頭の中で点検するように、呼吸が一定のまま流れていく。


「流石に大丈夫よ。お姉ちゃんにみっちり鍛えられてますから。剛志さん達もお疲れ様です。80階層まで行けたんですか?」


丁寧な口調のまま、指先がグローブの縫い目を撫でる。けれど視線はまっすぐで、疲労より先に好奇心が表に出ていた。


「ああ、なんとかね。でも流石に一日で突破は強行すぎたな。こんなに遅くなっちまったぜ」


横で杖を持ち替える音がして、床に当たる金具が軽く鳴る。さらに、息を吐くタイミングだけが少し長くて、今日の行程の重さを物語っていた。


「流石に、一日で追いつかせてもらえるとは考えて居なかった。剛志のゴーレムは異常ね」


淡々と言いながら、ミアは肩のストラップを直す。その動きは最小限で、体力の残量まで計算しているように見える。


「はは、ミアさんがそういうってことは本当にそうなんでしょうね。ま、これでなんとか明日からは地下80階層を探索できますね。万葉と百花ちゃんはどうする?明日からの探索」


その問いが出たところで、エントランスの空気が少しだけ止まった。ベンチの二人は視線を交わし、言葉を探す前に、まず小さく呼吸を整える。


「正直地下80階層は敵の数が多すぎて疲れるのよね。あなた達みたいな範囲攻撃ってそんなないのよ」


姉の声は切れ味があるのに、語尾は平常のままだ。けれど指先が、無意識に膝を二度叩いていて、嫌な感触を思い出したことが伝わる。


「私もまだまだ足手纏いにしかならないですからね…でもレベル差がここで開くのも、とは思っては居ます」


妹は目線を落とさず、言葉を途中で区切った。そのうえで、胸の前で拳を一度だけ握り、すぐに力を抜く。


「確かにそうか。でも正直あれだけの魔物がひっきりなしに出てくるとモンスタードームなんかよりも圧倒的に効率がいいから、百花ちゃんのレベル上げに関しても一緒に探索に出た方が効率いいよね。俺と臼杵で結構地下80階層に関しては理解してきたし、そろそろ二人の探索階層も80階に移そうか。基本は見てるだけになるかもだけどね」


剛志は笑いながらも、足元を一度だけ揃え直した。だから、軽く言っているように聞こえても、無理を押し付ける姿勢にはならない。


「なんだかおんぶに抱っこで申し訳なさしかないですね。お姉ちゃんはまだしも、私なんか何もお役に立てて居ないですから」


妹は言い終えたあと、視線を下げずに口角だけを引き締めた。すると、その横で臼杵が手をひらりと振って、空気を散らすように笑う。


「百花ちゃん、俺がいうのもおかしな話だが気にしなくていいと思うぜ。こいつはそういうの本当にどうでもいいってタイプなんだ。俺だってほとんどの階層で見てるだけのことが多いんだぜ?」


その調子に引っ張られて、場が一段だけ軽くなる。けれど、剛志はすぐに首を横へ振って、言葉の速度を落とした。


「俺としてはパーティーなんだし、一緒に探索するのがいいんじゃないってだけだよ。極論言うと俺が団体行動に向いて居ないだけで、それにみんなが付き合ってくれてるっている認識なんだよね。それに魔物との戦闘では難しくても、イチロイドの戦闘訓練に付き合ってくれれば、それだけで俺としては嬉しいしね」


そのまま柔らかく笑うと、緊張していた肩が少し落ちた。そうして、次の言葉が出るまでの間に、ミアが小さく息を吸う。


「あの、さっきから当たり前で話が進んでいると思うのだけど、明日の探索も同行していいのよね?」


声は控えめだが、言い切るところは迷わない。その一方で、足の向きは一歩だけ引いていて、距離の取り方がまだ慎重だ。


「あ、そうだよね。その前提で話しちゃってた。ミアさんは明日も同行するで問題ない?」


剛志は言いながら手のひらを上に向け、選択肢を相手に渡す形にした。するとミアは、目線を逸らさずに短く頷く。


「私としてはそれが目的だったから、問題ないと言うよりもお願いする立場ね」


「じゃあ、そうしよう。後それとパーティーなんだけどみんなで探索するんだし、ミアさんも入れていいよね?」


その問いかけに合わせて、万葉が顎を引き、百花が小さく頷いた。さらに臼杵も肩をすくめるだけで同意を示し、空気はすぐに決まった方向へ流れる。


それを合図に、イチロイドがミニサンドゴーレムの体を小さく揺らし、登録用の表示を淡く立ち上げる。光の粒が空中で並び、手続きの項目だけが簡潔に整列した。


「ミアさんは大体どれくらい滞在予定なの?」


「元々はこんなに早く階層を追いつけるとは思って居なかったから、2週間の予定よ。なんでほぼ2週間まるまる残ってるわ」


ミアは端末の時間表示を一瞥してから、すぐに視線を戻した。だから、言葉は淡々としていても、予定を崩す気配はない。


「なるほどね、じゃあ当面はこの2週間でどこまで潜れるかって観点で作戦会議をしようか!」


その勢いに、百花が肩を小さくすくめて笑い、万葉が「いつものこと」と言いたげに目を細めた。そこで話題が次へ進む前に、ミアが確認を挟む。


「そもそも教えてほしいのだけど、地下80階層ってどんな階層なの?」


「うわ、それを話して居なかったか!ごめんごめん。説明するね。地下80階層で出てくる魔物は蟻と蜂だよ。どちらも女王を置いて集団で動くタイプだと思うのだけど、この魔物も同じだ。とりあえずとんでもない量の物量で地上と空中からそれぞれ蟻と蜂が襲いかかってくるというのがこの階層の特徴だね」


剛志は言い終えたあと、手で上下をなぞって地上と空中を分けた。さらにイチロイドの投影が、簡単な層のイメージを光で描き、視覚的にも形がつく。


「気持ち悪いでしょ。それにとにかく数が多くて戦うのも一苦労よ。剛志みたいに大量のゴーレムで対抗するか、臼杵みたいに範囲攻撃がないタイプの人にとっては地獄のような階層よ」


万葉は言いながら、指で空中を弾くような仕草をした。するとその動きに合わせて、ミアの眉がほんの少しだけ寄る。


「じゃあ、私も同じようなものね。余りお役には立てないかも知れないわ」


その言葉にかぶせるように、イチロイドが一拍置いてから口を開く。光の粒が整列し、音ではなく輪郭で言葉が届く。


『いえ、ミアさんの狙撃はかなり助かるかと思います。敵個体には種類があって、一番多いのが働き蟻のようなタイプですが、その中に紛れるように指揮官種がいます。働き蟻達は大体レベル600〜700のところと、指揮官主は1000近いため、それらをピンポイントで狙撃して倒してくれると、こちらとしても大助かりです』


イチロイドの説明に合わせて、簡易投影が数の塊と、点の違いを示す。しかも点は周囲より少しだけ濃く描かれ、見落としやすさまで伝えていた。


「なるほどね。役目があるならそれを全うするわ」


ミアはそう言い、銃ケースの留め具を確かめる。さらに臼杵が杖を軽く鳴らし、万葉が指の関節を鳴らすと、明日の形が自然に揃っていく。


その後は、受付の端に寄って邪魔にならない位置へ移り、作戦の骨組みだけを短く固めた。まずは地上と空中を分けて視界を作り、次に指揮官種の優先度を上げ、最後に疲労の回し方を決める。そうして時計を確認したところで、今日は解散することにした。


明日は全員揃ってのダンジョン探索だ。作戦通りに動けるか、いつもと少し違うワクワク感を持ちながら、皆休息を取るのだった。


本作品を楽しんで頂きありがとうございます。

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