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ゴーレムの可能性は無限大 〜副業で探索者になったら職業とスキルの組み合わせが良過ぎたみたいです〜  作者: 伝説の孫の手
A.B.Y.S.S.建国

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第195話 竜の出る階層

地竜がいた。


岩肌に溶け込むような鱗の塊が、崩れた柱の陰からのそりと首を持ち上げる。地下七十階層の空気は乾いていて、土と鉄の匂いが混ざっていた。


次の瞬間、地竜の額が――弾けた。


乾いた破裂音が遅れて届き、巨体が前のめりに崩れ落ちる。


少し離れた位置で、ミア・コールマンは肩の力を抜いたまま銃口を下ろしている。構えの切れ味だけが、空気を置き去りにしたように鋭かった。


『対象、撃破を確認。次、左奥の陰です』


イチロイドの声が頭の奥に落ちる。いつもの落ち着きだが、情報は容赦なく早い。


ミアが頷く。視線だけで方向を取り、また一発。


剛志たちが「見えた」と認識する前に、次の地竜が倒れていた。戦闘の手応えより、処理の速度だけが積み上がっていく。


「イチロイドとミアさんのコンビネーションはかなり便利だね。見える前に魔物がいなくなるよ」


ヘキサボードの上で剛志が言うと、臼杵は肩を回しながら息を吐いた。緊張はあるのに、戦う前に終わるせいで体だけが持て余している。


「そうだな、でもそうなると俺の出番がないから暇だけどな」


「……あれ、でもこれって経験値はどうなるんだろ。ミアさん、基本経験値って目視していないと入ってこないルールだけど、ミアさんが遠距離で倒した時っていつもどうなってるの?」


剛志の視線が、ミアの横顔に向く。彼女は返事の前に、銃のマガジンを指で押さえ直した。薄い金属音がして、次の弾を確かめる手つきが無駄なく滑らかだ。


「さあ?いつもは遠距離だとしても自分のスキルなんかで相手を索敵してから攻撃しているから。今は正直場所はイチロイドから教えてもらっているけど、魔物を認識しているかといえば微妙ね」


『そうですね。おそらくミアさんへ経験値は入らないでしょう。これを遠隔でも本人が認識していればいいのですが、今回は私しか認識していないので。マスターやみなさんが経験値を得れているかどうかは考えておりませんでした。申し訳ございません』


謝る声に合わせて、イチロイドは剛志の肩のあたりまで小さく跳ねた。いつものミニサンドゴーレムの姿は、砂粒の輪郭が丸くて、どこか愛嬌がある。場違いなくらい可愛いのに、言っている内容は実戦の損失だ。


臼杵が眉をひそめ、舌で一度だけ上唇を湿らせる。剛志はすぐに首を横に振った。責める空気じゃない。


そのまま数体、地竜が消えていく。剛志はゴーレムを派遣し、倒れた地竜から素材とドロップを回収させるだけだ。ヘキサボードは滑るように前へ進み、隊列が崩れない。


『提案があります』


イチロイドが一拍置いた。小さな体が、ほんの少しだけ胸を張る。


『私が索敵した形状を3Dでみなさんの前に表示いたします。それを見ればドローン配信を見ているのと変わらないと思うので経験値が入るのではないでしょか?』


「確かに、そうかもしれないね。やってみてくれ」


『かしこまりました』


次の瞬間、剛志たちの前方、空中に光の粒が集まり始めた。粒は線になり、面になり、粗いながらも“そこにいる地竜”の輪郭を作る。解像度は高くない。けれど奥行きと向き、頭の位置まで分かる。


剛志が息を止める間もなく、ミアの弾丸が走った。


光の輪郭の頭部が、かすかな揺れと同時に崩れる。現実の地竜は、はるか向こうで倒れているはずなのに、映像の“倒れ方”だけでも迫力があった。臼杵が思わず喉を鳴らす。


それからは、テンポがさらに上がった。


イチロイドが索敵。光の粒で表示。ミアが撃つ。剛志が回収。誰も無駄に足を止めず、ただ階層の奥へ吸い込まれていく。


やがて、地下七十一階層への階段が見えた。石段の縁に古い削れ跡があり、あまり使われて居ない遺跡のようだ。


剛志たちはそのまま踏み込み、次の階層へ進んだ。


地下七十一階層の地形は、七十階層と大きくは変わらない。岩がごろごろ転がる岩石地帯が続き、視界の先が揺らぐほど熱がこもる場所もある。ただ――ここでは空があった。


正確には天井が高い。暗い空間の上の方を、影が横切る。


飛竜だ。


羽ばたきが岩肌に反響し、低い唸りが頭の奥に残る。地竜より数が多い。近い個体も、遠い個体も、同時に動く。


ミアが顎を少し上げた。遠視の焦点が合ったように、目の動きが一瞬だけ鋭くなる。


それでも、撃つ回数が増えれば当然消耗は増える。


少し進んだところで、ミアが息を吐く。マガジンを交換し、さらに“別の何か”を指先で確かめるように触れた。MPの感触を測っている手つきのようだ。


「このペースだとそろそろ弾切れになるわ」


剛志は状況を見て、すぐに頷く。ゴーレムの数は足りる。問題は“切り替えのタイミング”だけだ。


「そういえばそうだよね。普通無限に撃てるわけじゃないんだし。OK、そうなったらそこからは変わるよ」


臼杵が一拍遅れて眉を吊り上げた。わざとじゃないのは分かる。でも言い方は刺さる。


「お前そういうことナチュラルにいうなよ。聞き方によっては煽ってるぞ。お前と違って普通は限界があるの。俺だってMP切れはあるんだからな」


剛志は目を見開いたまま、すぐに両手を軽く上げた。否定じゃなく、謝るための動きだ。


「ええ⁉︎そう聞こえた?ごめんよ。そんなつもりはなかったんだよ。それに俺だってMP切れはあるよ。最近はほとんど起こさなくあったけど…」


臼杵は言い返しきらず、鼻で短く笑った。怒りを引きずるより、前へ進むタイプだ。


その横でミアが一度だけ視線を流し、淡々と口を開いた。


「あなた達さえ問題なければ探索の間だけでもパーティー登録する?そうすればお互いのステータスも共有できるわよ」


剛志はすぐに答えかけて、途中で言葉を止めた。視線が一瞬だけ泳ぎ、万葉と百花のことを考える。


「え、逆にいいの?俺は別に構わないけど…あ、でもそうなると他のパーティーメンバーのステータスも共有されてしまうのか、それは万葉達に聞いてからじゃないとかな」


臼杵が肩をすくめ、指で空中を軽く叩くように提案する。


「それならお前さんが仮パーティーとしてミアといったんパーティーを組めばいいんじゃないか。一応パーティーリーダーなんだし出来るだろ?」


それを聞いて剛志は一瞬、ぽかんとした。何度も死線をくぐった顔が、今だけ妙に素直だ。


「ええ?おれがリーダーだったの?そんな話したっけ?」


臼杵は額に手を当て、ゆっくり首を振る。呆れの動きが、妙に様になっている。


「逆になんでお前がリーダーじゃないと思ったんだよ。基本的にお前中心に動いているだろうが…」


剛志は小さく咳払いして、話を戻そうとしたのに、別の疑問が口から出た。


「てか、仮パーティーって何?」


臼杵の肩が落ちる。笑う余裕すら、疲れで鈍っている。


「またそこからかよ。まあ、そうなるか。そもそもパーティーのことすら理解していなかったやつに、説明していなかったら知ってるわけないわな」


『仮パーティーとは、主にパーティーのリーダーが新規メンバーを仲間に入れる際に、その人物のことを試験運用するために用いられる制度です。仕様はほとんど変わりませんが、パーティーリーダーとのみパーティー状態になること、そのまま正式にパーティーに入れるかどうかは全てリーダーに決裁権があることくらいが仕様違いになります。』


イチロイドの説明は正確で、簡潔だ。小さな体が少しだけ胸を張り、砂の粒がさらりと落ちる。


「説明ありがとう。ま、そんなところだ。それならすぐにできるんじゃねえか?」


イチロイドの説明を受け、臼杵が同意する。


それに対し剛志は頷き、ミアへ視線を戻した。


「なるほどね、じゃあやってみるよ。ミアさんもそれで問題ない?」


ミアは短く息を吐き、帽子のつばを指で押さえ直した。淡々としているのに、距離の線引きだけはきっちりしている。


「こっちは急に押しかけた存在だからね。拒否するという選択肢はないわ」


剛志が操作を終えると、空中にウィンドウが一瞬だけ開き、すぐに閉じた。手続きは簡単だ。


そして――二人のステータスが表示される。


【名前】:岩井剛志

【職業】:ゴーレムマスター

【パーティメンバー】:臼杵健司・宮本万葉・宮本百花

【スキル】:所持制限無視・多重思考・二重詠唱・自動記録・高速展開・自動防御補助・全属性耐性・不屈の心

【職業スキル】:ゴーレム作成・ゴーレム再作成・支援魔法【ゴーレム】・ゴーレム強化・ゴーレム異空庫ゲート・ゴーレム償還・ゴーレムカスタマイズ・特殊ゴーレムコア作成・ゴーレムアップデート・高速召喚

【レベル】:876(414up)

HP:6,061/6,061(3,130up)

MP:17,156/17,156(8,694up)

攻撃力:3,375(1,706up)

防御力:6,840(3,544up)

器用:8,578(4,554up)(+121%)

速さ:7,247(3,726up)

魔法攻撃力:10,253(5,200up)

魔法防御力:12,127(6,160up)

(※所持ゴーレム数は省略)


【名前】:ミア・コールマン

【職業】:狙撃王

【スキル】:長距離狙撃・遠視・気配察知・気配消失・身代わり分身・魔弾作成・チャージ

【レベル】:1011

HP:5,482/5,482

MP:3,412/9,864

攻撃力:10,918

防御力:3,412

器用:16,946

速さ:12,873

魔法攻撃力:11,304

魔法防御力:5,126


ミアは画面を見ても表情を変えない。ただ、指先だけが一度だけ銃のグリップを軽く握り直した。


剛志は深呼吸を一つ。次の階層は、もっと数が増える。だからこそ、今この形が必要だった。


テトラボードが静かに動き出す。


地竜と飛竜の気配が、また遠くで重なる。光の粒が空中に浮かび、ミアの銃口がそちらへ向いた。


探索は、再開された。


本作品を楽しんで頂きありがとうございます。

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