第172話 ダンジョンの仕組みと観光の提案
権蔵という強力な敵と、そこに乱入してきたA.B.Y.S.Sの構成員たちとの戦闘を終え、権蔵の謎の死という不可解な終幕を迎えた一連の事件。それが及ぼした影響
はかなりのものであった。
今までも剛志の命が狙われるということはあったし、それをなんとか乗り越えてきたという実績はあるが、今回は初めてその後の剛志たちの行動に対して制限がかかった。それは何かというと横浜第三ダンジョンの地下60階層が現在探索不可になっているということだ。
バーサーカーで強化されたタイタンの自爆。これを剛志はみがわりゴーレムで、万葉は自身の卓越した剣技で耐えたが、すでに満身創痍だった臼杵はなんとか一命をとりとめたという感じだ。そのため臼杵は少しの間休養を挟む必要がある。
しかし本質は臼杵という十分高レベルな探索者でも、耐えきることができない爆発が地下60階層全体に広がったということだ。
もちろんそれによって、剛志が作っていたモンスタードームも完全に吹き飛んでいるが、そんなことを気にするまでもないレベル感で地下60階層の空間がボロボロになっている。
ここでダンジョンの仕組みについて少し説明すると、ダンジョンは元の形状に戻ろうとするある種の修復力のようなものが存在する。そのため、今回の爆発による被害状況はしばらく時間を開けることで完全に回復するだろうということは予想できる。
しかし、その完全回復には時間がかかるというのだ。
ダンジョンというものの詳細はまだ解明されていないのだが、今までのデータからある程度の法則のようなものが存在するということがわかっており、急激なリソースが必要になると、それによって他の機能が一旦使えなくなる。いわゆるスリープ状態に陥るのだ。
これはかなり珍しい例ではあるのだが、今までに何度か報告されており、今回のケースもそれに当たる。
一つの階層が丸々ぐちゃぐちゃになってしまった現在。ダンジョンはその空間を元に戻そうと自身のリソースを割いている状態になるのだ。
そうなるとどうなるのかというと、今回に関して言えばまずダンジョン内に魔物が新しく出現しなくなる。そして階層間転移の転移陣も機能を停止するのだ。
これを聞くと完全に理解できると思うのだが、つまりはダンジョンに潜ることが実質的にできなくなるということだ。
剛志たちからの報告を聞き、ダンジョン組合がまずはじめに懸念していたことの一つがこの特殊状況の発生だ。もちろん剛志たちの安全というものが一番ではあるのだが、それでもダンジョンを運営していて利益を得ている団体なだけあり、この件も死活問題として懸念に上がっていた。
そして案の定その悪い予想が当たったというのが現在の横浜第三ダンジョンの状況だった。
そんな状況をダンジョン支部の所長室で町田所長から説明されていた剛志たちは、そんなことがあるのかと先ほど驚いていたところだ。
「…ま、そういうわけでしばらくはこのダンジョンでの探索はできなくなっているというわけだ。まあ剛志くんたちはあれだけの戦闘のあとなんだからここらで少し休んでみたらどうだい。最近はずっとダンジョン漬けの日々だろう?」
説明の終わりにそう付け足した町田所長。彼女のいうことももっともで、剛志たちはダンジョンにしかいないと言ってもいいほどダンジョン漬けであった。
一般の探索者というものは、剛志たちのようにほぼ毎日ダンジョンに行くということはない。基本はダンジョンで探索した次の日などは休みを取るものだ。それだけ命がけの戦闘というものは体力、精神力を消耗するのだ。
そんな中、ある意味狂っている剛志たちのような一部の探索者たちが、休みなくダンジョンに入りレベルとステータスを上げていく。それが高レベル探索者とそうでない者の差なのかもしれない。
なにはともあれ強制的にダンジョンに潜れなくなった剛志たちは、休むことを余儀なくされたというわけだ。
「確かにダンジョン漬けではありましたが、それが一番楽しかったので苦ではなかったんですよね。…あ、もしかしたら二人はそうでもなかった?もっと休みとか欲しいとか」
そう剛志が聞くと、両者首を振りながら答える。
「俺は、別に平気だぜ。それにほとんど戦ってないしな。ほぼ全部最近ではイチロイドに任せっきりで済むし。まあ、今回ばかりはちょっと疲れたから、この辺で少し休むのもありか。俺としては早く俺が普段戦っていたような階層で戦えるようになって欲しいと思っていたくらいだし、気にするな。」
「私はそれでいうと、最近は百花のことで別行動だったし、そもそもそれが休みみたいなものでしょ。私もまだ足りないくらいよ。気にしないで」
と答えた。
それを聞いて町田所長は少し呆れたように話し出す。
「まったく、君たちは。私の立場から言うと今の情勢から剛志くんに強くなってもらうのはかなり嬉しいし、君たちのようにダンジョンを探索してドロップアイテムを換金してくれることで成り立っているところがあるから、なんとも言えないけどね。まあ、今回はいい機会だと思って十分休んでくれ」
そう言って剛志たちを送り出した。
流石に今日はもともと休む予定ではあったのだが、この様子じゃ数日はダンジョン探索はできないだろう。今から他のダンジョンに行ったとしてもそのダンジョンを一から探索するのも面倒だ。そう考えた剛志たちはこの後どうするのか、作戦会議をすることにした。
町田所長の所長室を出てエントランスに行くと、そこで待っていた万葉の妹の百花が待っており、合流した。
「ええ〜そんなことがあるんですね⁉︎」
剛志たちからしばらくダンジョンが活動を停止するという旨の説明を受けた際、百花はとても驚いた様子だった。剛志たちですら初めての経験で驚いていたところなので、彼女が知らないのも当然だろう。辺りを見渡すと百花同様今回の件を知らない者たちが職員に説明を受け驚いている様子がそこら中で見て取れる。
「そうなんだ、だから急に暇になっちゃってね。元々は守りやすいダンジョン空間内に入れてくれって言われたところが始まりだけど、俺もシンプルにダンジョンに潜るのが好きだったから、することがなくなってどうしようかってなっているところなんだ」
剛志がそう言うと、百花はう〜んと言って考え込んだ。そうして少しして思いついたように話し出す。
「そうしたら皆さんで観光でも行きません?私ってずっと病院暮らしだったので、あまりそういうのしたことないんですよね。最近はダンジョンの外でも歩くくらいなら問題なくなってきましたし、ちょうどいいと思うんですよ。…どうですかね?」
話しながらだんだんと不安になってきたように声が小さくなっていく百花だったが、それを聞いた剛志たちの心の中はすでに決定していた。
「いいじゃん、そうしよう!俺が考えてたのなんてマジックアイテムの購入のためのショッピング程度なものだし、そっちの方が絶対いいよ。むしろ俺たちもついていってもいいの?せっかくなんだし、姉妹水入らずってのもあるかと思うけど」
剛志がそう聞くと万葉が答えた。
「ええ、問題ないわ。むしろ百花も二人と一緒の方がいいんじゃない?一応私たちはパーティーではあるんだし、これを機にお互いを知るのもいいんじゃない?」
「確かにそうだな。ってか剛志、お前結局ダンジョンのこと考えてたのかよ。流石に好きすぎるだろ。ちょっとは休めって」
臼杵が万葉の返答に乗っかり、剛志に対しツッコミをする。
ちょっとは休めというセリフは今は臼杵に対して言った方がしっくり来るはずなのだが、彼も家でゆっくりするタイプではないのか心の休息のために観光に関しては大賛成のようだ。
そもそも今剛志たちが拠点にしている横浜第三ダンジョンは、もちろん神奈川県横浜市に存在するダンジョンで、剛志の地元もこの辺りだ。しかし臼杵は稚内、万葉は八王子を本拠地とする探索者だった。つまりはこの辺の地理にはあまり詳しくないということだ。
そのため今回の観光という発言にかなり乗り気な様子で、すでにどのあたりに行くのかなど話し出している。
そんな様子を見ながら、あまり観光などの計画を立てるのが苦手な剛志は、基本的にはお任せで決まったプランについていこうと思い、黙っている。
無邪気に計画を話している百花やそれを優しい目で見つめる万葉、そしてもしかしたら一番乗り気なのではないかというほど前のめりな臼杵。
そんなメンツで観光に行くのもたまにはいいのではないか、そんなことを考えている剛志にイチロイドが話しかける。
「『マスター、私もついて行ってもよろしいでしょうか?』」
「ん?もちろんいいけど、どうしたの?」
「『いえ、特に深い意味はありません。ただ私の知識はダンジョン関連に偏りすぎているため、それ以外での知識などのインプットも行った方が良いかと思いまして』」
「なるほどね、この前言っていた件か。確かに、じゃあそうしよう。一緒に楽しむか!」
そんな平和なやりとりをする一行。この平穏を手にするには敵に勝ち続けなければいけない。そのことは一旦頭の片隅に置いておいて、今は目の前のことに集中しよう。
こういった意識への切り替えこそ、潰れずにダンジョンで生き残るためには大事だということだ。
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