第171話 大爆発の其の後
横浜第三ダンジョン全域が強化されたタイタンの自爆に巻き込まれ、地獄絵図となる。
そんな中、剛志、臼杵、万葉の三者の様子はというと、なんとか一命をとりとめていた。
臼杵が直前に貼った雪の防御壁はほとんど残っておらず、臼杵自体は剛志の派遣したゴーレム鎧に守られた形で瓦礫の中からなんとか這い出てくる。雪の防御壁による衝撃緩和と、複数のゴーレム鎧が壁とクッションになってくれていなければ、臼杵は無事ではすまなかっただろう。
其の横でジュリアを捉えていた雪の玉は壊れてしまっているが、それに気を払う余裕は今の臼杵にはない。
一方、万葉はというと、こちらは特に怪我という怪我もない状態だった。
自信たっぷりにゴーレムの守りを断っただけあり、予知できている攻撃は問題なく防ぐことができたようだ。さすがは日本最高峰の探索者だと言えよう。
彼女の防ぎ方は豪快で、迫り来る爆発の衝撃波などを一切合切切り捨てたというものだ。
こう言葉にして説明してみてもいまいちピンとこない回避方法ではあるが、実際、人外レベルに達している最高峰の探索者たちではこういったことができる者も少ないながら存在している。
自身の目の前の空間を切り裂く空間絶ちのスキルを複数放ち、爆発の衝撃が万葉に届く前に、切り裂かれるという状態を生み出した。
もちろん生半可な威力では押し負けてしまうため、かなりの高出力で放つ必要があり、万葉自身も額に汗をかくほどには消耗をしているのだが、それと背後から回り込むように吹き込んだ爆炎の熱によるダメージも相まって、無傷とはいかなかった。
まあ、あれだけの爆発を受けてなお、全力で戦えるだけの余力が残っている時点で彼女の実力が剛志達のパーティーの中でも抜きん出ていることが伺える。
最後に剛志の現状だが、こちらもゴーレム鎧に対し強化魔法を使い、強化した状態で衝撃に備えたが、それだけではダメージを防ぎきれず一体のみがわりゴーレムを消費している。
先日の闇の大精霊戦で多くのみがわりゴーレムを消費していたとはいえ、それから数を補充したりと数もだいぶ戻ってきていた。そんな中、数体の消費で済んだのだから、前回よりはマシだろう。
ちなみに数体の消費タイミングは爆発を受けた時、それに飛ばされながら爆炎で焼かれた時、地面にぶつかった時、などなどだ。こう見ると、やはりゴーレム使いという職業の本体は戦闘に不向きだということがわかる。
ここまでの説明で、わかることは臼杵は実はかなり危ないということだ。彼は剛志と同等のステータスしか持たない後衛職で、今回も事前に魔法を張ることはできたが、それでも現在はギリギリといったところだろう。
身体中が痛む中、自分がこれだけのダメージを受けているのだから臼杵は大丈夫なのかと心配になった剛志は、先ほどの爆発に巻き込まれないようにゴーレム異空庫にしまっていたイチロイドを召喚し、臼杵の安否を確認する。
「イチロイド、出てきてさっそくで悪いけど臼杵の安否を調べて!」
「『かしこまりました』」
そういって臼杵に預けたゴーレム達との通話を試みるイチロイド。すると何体かは生き残っており、臼杵も無事とは言い切れないがまだ一命はとりとめているという情報が届く。
「『マスター、臼杵さんの安否ですがひとまずは一命をとりとめてらっしゃいます。しかし、かなりダメージが大きいようでなかなか動けないとのことです』」
その報告を聞いてホッとした剛志は自身の持っている回復系のポーションを取り出し、召喚したペンタボードに乗り、臼杵の元に急ぐことにした。
自身の居場所がバレていないというメリットを捨てる行為だが、それでも仲間の命には代えられないとの判断だ。
そして、剛志が臼杵のところに到着する頃には、その場にはすでに万葉も現着しており、臼杵を助け出しているところだった。
「万葉!大丈夫だった?」
「ええ、私は問題ないわ。でもこのままだと臼杵が危ないわね。剛志、何か回復系のアイテムは持ってる?」
「ああ、それを渡しに出てきたんだ。これ使って!」
そういって臼杵の看病をする万葉に回復のポーション類を渡す剛志。それを受け取った万葉は一本を臼杵の頭からかけ、もう一本を少し体力が回復した臼杵に飲ませた。
そうしてなんとか一命をとりとめた臼杵が、弱り切った声で剛志達に話しかけてくる。
「すまねえ。みっともない姿見せちまったな。……俺が相手していた女がいねぇ!っ!」
ジュリアを閉じ込めていた雪の玉が崩れており、其の中に入っていたはずのジュリア自身がいなくなっていることに気づいた臼杵が立ち上がろうとするが、体はまだ本調子ではないため、激痛が走り固まってしまう。
それを見た剛志は臼杵に「それはいいから、まずは安静に」と言い、万葉とアイコンタクトを取る。剛志の意思を読み取った万葉は頷いたのち、「ちょっとあたりを見てくる」といって周囲の探索にいった。しかし其の後いくら探してもジュリアの姿は見つからなかった。見つかったのは権蔵の死体だけだった。
時間を権蔵の爆発直後に遡る。
剛志達が仲間の安否を確かめ合っている頃、権蔵は自身も所持している身代わりゴーレムのおかげでほとんど無傷だった。剛志と違い、それなりにステータスが高い権蔵は一回の身代わりゴーレムの使用だけで事足りたようだ。
「なんと!ここまでの威力とは。一回使うのにあのタイタンを消費してしまうのは少しもったいないが、別にもう一体作ろうと思えば作れる。これはいい攻撃手段だな」
そういってご満悦の権蔵。しかし、次の瞬間彼の眉間を一本の矢が貫いた。
バシュ
そんな音がなり、もう身代わりのいない権蔵は其の一発で帰らぬ人となったのだった。
そして少し離れたところで、その弓矢を放った張本人のエルフのリモンドが弓を放った姿勢のまま誰に聞かせるわけでもない声量でつぶやいた。
「我らがマスターのモットーは仲間には手を上げないというものだ。お互い納得の上ならまだしも、仲間も巻き込む可能性のある攻撃を躊躇なく行った時点で我々の的だ。敵は排除するのみ。これで俺の任務は完了だな。」
そこにジュリアを抱えた三雲が現れた。
「まったく、ずっと隠れていた上に最後のいいところだけ取るのかよ。あの老いぼれには俺と彼女が散々苦労させられたんだ。俺たちにとどめを刺す権利があると思ったんだがね」
「ん?なぜ自分でやりたいのだ?疲れるだけだろう」
そういって本当に理解していないような様子のリモンド。それを見て三雲は諦めたように話す。
「そういうところは魔物なんだろうな。まあいい、とりあえず今回も失敗だ。まああのジジイを排除できただけよかったと思うとするか。ここにいては見つかってしまう。あのバケモノ侍はまだ健在なようだし、見つかる前に帰るとしよう」
そういって、頷いたリモンドを連れジュリアを担ぎながらその場を後にするのだった。
そして万葉があたりを見渡してきた後に戻る。
万葉からジュリアはおらず、権蔵の死体があったという事実を知らされた剛志達は、正直意味がよくわからなかった。
それも誰がやったのかわからない弓による殺害という手段。ここに剛志達の知らない第三者がいたということだ。それがA.B.Y.S.Sの面々なのかどうかはわからない。
しかしこのままにするわけにはいかないため、その権蔵を回収しダンジョンの地下60階層を後にすることにした剛志一行。
今回の出来事の顛末を地上で慌ただしく説明したのち、ある程度の事情聴取のような質問タイムが終わり、解放されたのだが、まだ皆疲れが取れていない状態だ。
臼杵に至ってはポーションで回復しただけで未だ満身創痍の状況だ。
そんなあまりスッキリしない終焉を迎えた権蔵の襲撃だったが、そこでもなんとか持ちこたえた剛志。ここから剛志への追っ手はさらに激しくなるのかどうかはわからないが、今は束の間の休息を楽しむことにするのだった。
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