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ゴーレムの可能性は無限大 〜副業で探索者になったら職業とスキルの組み合わせが良過ぎたみたいです〜  作者: 伝説の孫の手
剛志強化プロジェクト

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第173話 休息と次のステージ

横浜第三ダンジョンの探索停止が告げられた数日後。


剛志たちは、本当に久しぶりに「ダンジョンに潜らない一日」を迎えていた。


と言っても、家でだらだら過ごすのではない。

今日は、百花の希望を叶える「横浜近郊観光ツアー」の日だ。


「うわぁ……本当に海、近いんですね……!」


みなとみらいの遊歩道。

潮風とビル風が混ざった独特の空気の中で、百花は目を輝かせていた。


ダンジョン支部の制服ではなく、ラフな私服。

病院暮らしが長かった少女にとって、それだけでもう非日常だ。


「『気温、湿度ともに本日としては快適な範囲ですね。

 百花さん、体調に異常はありませんか?』」


すぐ隣を歩くイチロイドが、タブレット端末に表示された顔を少し傾ける。

その声色はいつも通り丁寧だが、どこか心配そうでもあった。


「大丈夫です。ありがとうございます、イチロイドさん。

 こうして外を歩くだけで、なんか元気になってく感じがするんですよね」


「『それは何よりでございます。

 私も、本日はいわゆる“観光データ”の収集が目的ですので、ぜひ色々と教えてください』」


「ふふ、なんか修学旅行の班行動みたいですね」


百花とイチロイドが、観覧車や港のクルーズ船を指さしながらきゃあきゃあと盛り上がる。


その少し前を、臼杵が歩いていた。


「百花ちゃん、あんまりはしゃいで転ぶなよ。まだ完全回復ってわけじゃねえんだからな」


「もう、お兄ちゃんみたいなこと言わないでくださいよ臼杵さん。

 ……でも、ありがとうございます」


「おう。

 まあ、ダンジョンの爆発に比べりゃ、段差の一つや二つどうってことねえけどな」


軽口を叩きながらも、臼杵はさりげなく百花の足元や周囲の人の流れを確認している。

イチロイドと百花がこの小さな班の「テンション係」だとすれば、臼杵は「安全係」といったところだろう。


一方、その少し後ろ。


剛志と万葉は、自然と横並びになって歩いていた。


前方で笑い合う三人を見ながら、剛志はなんとなく頬が緩む。


「こうやって平和な日常を過ごしている皆んなを見るだけで十分幸せだな」


「それはもう年寄りのセリフね」


そう言ってくすっと笑いながらも、万葉は片時も剛志の側を離れない。

人混みの中でも、自然と剛志の死角を潰す位置に立ち、視線だけは常に周囲を巡らせていた。


「今日は観光。

 そう頭では分かっていても、あなたの命を狙っている連中が完全に諦めたとは思っていないわ。

 だからせめて、私ぐらいは気を抜かないでおく」


「頼もしい護衛さんで助かります」


冗談めかして言いながらも、剛志はその言葉に素直に甘えることにした。


昼は中華街での昼食。

百花は「本場っぽい」と見た目だけで選んだ小籠包に舌鼓を打ち、

臼杵は「とりあえず腹いっぱいになりそう」という理由でチャーハンとラーメンのセットを二人前頼み、

イチロイドは「『食事データは私の身体には反映されませんが、皆さまの表情は高品質な情報です』」などと言いながら、

店員の勧めるおすすめメニューを片っ端から写真に収めていた。


食後は少し足を伸ばし、江ノ島方面へ。


海岸線を走る電車に揺られながら、窓の外の海を見て百花が歓声を上げる。


「すごい……。

 本当に、海沿いを走るんですね……!」


「『車内温度、外気温との差は少ないですが、日差しが強いですね。

 百花さん、眩しくないですか?』」


「大丈夫です。

 あ、でもこの景色は、ちゃんと目に焼き付けておきたいですね」


「『了解しました。

 私も記録しておきます。

 いつか、今日の記録を見返す日が来るかもしれませんから』」


「はいっ」


そんな会話を聞きながら、臼杵は電車の揺れに合わせて軽く背伸びをする。


「しかし、こうやってのんびり電車乗ってると、

 マジで“普通の一般人”って感じだな」


「俺たち、元々はそうでしたからね」


剛志が笑う。


「まあ、今さら普通には戻れねえけどな」


「戻るつもりも、ないですし」


江ノ島近くの海岸に降り立つと、潮の匂いが一段と濃くなる。


「海だー!」


百花が靴を脱ぎ、波打ち際ぎりぎりまで駆けていく。

イチロイドはその少し後ろからついていき、

「『転倒リスク、転倒リスク』」と小声でつぶやきながら、

データログを取り続けていた。


そんな中、少し離れた防波堤近く。

人通りが途切れたタイミングを見計らって、剛志が小さな声で呟く。


「……ところでさ」


「?」


すぐ近くにいた臼杵と万葉が、自然と耳を寄せる。


「鎌倉って言えば鎌倉ダンジョンがあるじゃん」


海風に紛れるほどの、ごく小さな声量。

それでも二人にははっきり届いた。


「またダンジョンかよ」


臼杵が即座にツッコミを入れる。


「いや、分かるけどさ。

 観光のついでにダンジョンのこと考えるの、マジで職業病だぞ」


「でもこのタイミングで行くのはありだな」


今度は真面目な声音だ。


「横浜第三がしばらく使えないわけだし、ここらで許可証を貰ってたシークレットダンジョンに行ってみるのもアリかもな。

 どこまで情報が出回ってるのかわからないが、そこならA.B.Y.S.Sの連中も知らない可能性高いしな」


「私もそう思うわ。

 ただ――少なくとも今日は、百花の“観光デビュー”の日。

 本人の前では絶対に仕事の話はしないこと」


「了解です」


剛志は、海辺で笑い合う百花たちをちらりと見る。


今日だけは、本当にただの観光客でいたい。

そう思う自分がいることに、少し驚きながら。


四人と一体(?)の一日は、夕焼けとともにゆっくりと終わっていく。


帰りの電車の中、百花は座席に身体を預けながら、満足そうに目を細めた。


「今日は、本当にありがとうございました。

 ……また、行きたいです」


「『ええ。

 次は、私ももう少し“観光ガイド”として勉強しておきます』」


イチロイドの冗談めいた言葉に、車内の空気が少し柔らかくなる。


その穏やかな時間が、どれほど貴重で、脆いものなのか。

彼らはまだ、ほんの少ししか自覚していなかった。





場面は変わり、とある場所。

世界のどこかに隠された、A.B.Y.S.S.の拠点。


白い天井。

無機質な照明。


その下で、ジュリアがゆっくりと瞼を開けた。


「……最悪の目覚めだわね」


身体を起こそうとした瞬間、全身に残る鈍い痛みが訴えてくる。

タイタンの自爆の衝撃。

雪の檻の中で受けた余波。


「権蔵の、あの老いぼれ……。

 自分がどれだけ周りを巻き込んだか、分かってたのかしら」


吐き捨てるように言い、ジュリアは乱れた金髪を指でかき上げる。


「『その件なら』」


低く、しかしどこか軽い声が、部屋の隅から聞こえた。


振り向けば、弓を携えたエルフ――リモンドが、壁にもたれかかっていた。


「リモンド」


「権蔵は始末した。

 仲間もろとも吹き飛ばすような真似をした時点で、我々の敵だ」


「……そう」


ジュリアは一度、深く息を吐く。


「正直、私自身がやりたかったところだけど。

 あなたがやったというなら、まあいいわ。

借りを一つ、作ったと思っておく」


「別に礼はいらん。

 俺はマスターのモットーに従っただけだ。

 “仲間には手を上げない”――それだけだ」


淡々とそう告げるリモンドの横顔を見て、ジュリアの表情がわずかに和らぐ。


「……ふふ。

 本当に、ギデオンの理念はとても優しくどこか脆い考え方よね」


「それは褒め言葉と受け取っておく」


コンコン、と部屋のドアがノックされた。


「どうぞ」


ジュリアが短く言うと、ドアが静かに開く。


現れたのは、黒いスーツを着こなした長身の男――ギデオン。

その後ろには、胡散臭そうな笑みを浮かべた男が一人続く。


「よぉ、ジュリア。

 死んでなくて何よりだ」


「ギデオン……それに、田畑」


田畑俊則。

権蔵とほぼ同じ時期にA.B.Y.S.S.にスカウトされた、こちらも日本最強の一角だ。


☆5スキルの身体強化というとてもシンプルなスキルを持つスキルホルダーで、鍛え上げられたその肉体美とステータスの高さでとてつもない強度を持つ男だ。


「いやぁ……今回はほんと、大変でしたねぇ」


田畑は気まずそうに頭をかきながら、苦笑を浮かべる。


「権蔵さん、相変わらず暴走気味でしたし。

 あそこまでやるとは、さすがに僕も想定外でしたよ。

 別に元々親しかった訳ではありませんが、同期みたいなものですしちょっと申し訳なさがありますね。」


「申し訳ないで済んだら警察はいらないわよ」


ジュリアが冷たく言い放つ。


「面白いジョークですね。そもそも警察の存在を否定している私たちがそれを言うのは」


まさかの発言に、面白そうに返事を返す田畑。


そんな二人のやりとりにギデオンが割って入る。


「仲いいとこ悪いけど、ジュリアにも説明したいんだよね。いいかな?」


ギデオンが前に出る。

いつものように、余裕を崩さない笑み。


「まず結論から言おう。

 今回の失敗をもってゴーレム使いくんの暗殺は一旦ストップしようと思う。これ以上は戦力を無駄に消費するだけだしね。それにそもそもは壁の建築を遅らせたいって目的だったのも、もう作り終わっちゃったしね。すごいよね」


「結果論だけど、無駄足だったってわけね。」


ジュリアが言う。


「それより、だ」


ギデオンは視線を田畑に向ける。


「例の“もう一つの計画”――進捗は?」


「順調ですよ」


田畑の目が、怪しげな光を宿す。


「壁が完成した今、次にやるべきことはもう決まってますから。

 あとは“きっかけ”さえ用意できれば、一気に進められるはずです」


「そうか。

 なら、当面はそちらを優先しよう」


ギデオンはそう言い、ジュリアとリモンドを見据える。


「君たちには休養と、情報整理を頼む。

 今回のケースは失敗に終わったが計画自体は順調だ」


「了解」


ジュリアは短く答えた。

悔しさも、苛立ちもある。


だが、ギデオンが次に見据えているものが、

権蔵の暴走など比べ物にならない「何か」であることも、彼女はよく知っている。


「田畑」


「はい」


「きっかけの候補は?」


「すでに何パターンか、用意してあります。」


そう言って胸を張る田畑。

ボディービルダーのように鍛え上げられた肉体美を無駄に見せびらかす様は滑稽にも見える。


「楽しみにしているよ」


ギデオンがそう告げると、

部屋の空気がほんの少しだけ重く、冷たくなった気がした。


横浜の海で笑う者たちと、

どこかの拠点で次の一手を練る者たち。


二つの時間は、まだ交わらない。

だが、ゆっくりと、確実に。


世界は、彼らが思っている以上の速度で、

「次の段階」へと向かいつつあった。


本作品を楽しんで頂きありがとうございます。

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