080 youは何しに異世界へ?
神獣と一緒に戦った英雄列伝みたいなのもあった。
その中に「輝くような白い衣をまとった神の使徒」がいるんだけど。
お茶吹いた。どう考えてもそうですよね??
体を起こすとロフト伝いにリビングの方へ行き、階下のリッカドンナにたずねた。
「はい、そうですね。おそらく神官達のことでしょう」
「この神獣って本当にいたの?」
「おりましたよ」
「いたの?!」
なんでそんな確信持って言えるの?!
……って思ったら、なんと遺物を隠匿していたのは王家ではなく神殿だった!
えええ……マッハで謎が解けてしまった。それもこんな身近で。
上から話すのもなんだからロフトの手摺を乗り越えてそのまま下に降りたら、お行儀が悪いって叱られた。そらそうだ。
でも自分の部屋だしぃ~って顔してたら「イルミカルタに誤った情報を与えないように」と、そっち方向から注意されたので真摯に反省した。
そうだね、人間はこの高さを飛び降りるのが普通、みたいなノイズ情報はいらん。
「マスターは例外でございます。イルミカは正しく把握しております」
「マスター、特殊例」
ああ、うん、判ってくれてるならいいんだけど、なんだこの微妙な気持。
……そう、「マスター」と呼んでもらっている。
誰だってそうするでしょ?! 私だってそうする!!
リッカドンナ達には変な顔されたけどこれだけは許して。見逃して。
「ドラゴンの素材は有用ですし被害の賠償のようなものですから、見つけ次第、徹底的に利用してやればよいと思います。ですが、『二本角』の方々は役目を終えた後は安らかにお眠りいただきたいです」
各地で神獣の痕跡があればそれを消したり、遺物を回収したりもする。その活動をメインにしている神官もいるそうな。マジで色んなことやってんなあ。
回収された遺物は本殿で弔った後、ディスインテグレート。神力に還すそう。
「色々な考えの方はおります。神が人の為に遣わしたのだから余すところなく人の力になっていただきたい、ようするに素材として使いたいという意見もあります。ですが我々は彼の方々には静かにお眠りいただきたいと思っております」
その「我々」とはどの範囲なのか。
丘の神官全体なのか、もっと限定的な範囲なのか。
後者らしい。要するに……なんだろ。
「ベルレ派閥?」
「まあ……そうとも言えますでしょうか。こちらが本流で他が分派ですが」
譲れないポイントについて訂正が入った。
「丘の神官の中で他にも派閥みたいなのがあるの?」
「なくはないといったところです。ほとんどが本殿を出奔して行方が判らない者達ですし、基本的にベルレ様やグラディス様を厭うような者は人格に問題がありますから。徒党を組むほど協調性もありません」
Oh……直球disキタコレ。
でもそうだよなあ、組織じゃないって言うけど、人が集まればどうしたって気の合うグループはできるもんだ。
とりあえずベルレ派閥が最大勢力と察した。
集団の中での頭数はそれだけで力になる。少数派もこだわりのないことなら流れに合わせる場合もあるしね。
ゆるい尊重という点では法皇さんとやらと同じポジションなのかも。ベルレと法皇ならどっちが影響力あるんだろ。
ベルレ達が言わないから私も聞かなかったけど、現実問題こうしてベルレ派閥? のお世話になってるんだから、最低限の基礎知識は仕入れておくべきかもしれない。だいぶ今更なんだけど。
神獣の記述を見せたらほぼ合ってるとのことだった。
あれで合ってるのか! 尻尾はそこまで長くないそうだ。
「へええ……絵とかないの?」
「石影宮のホールの壁画がそうです」
「そうなの?!」
自然と動物達みたいなほのぼのモチーフだと思ったのに戦絵巻だったらしい。
解説してよう! 一人で探検するって言ったのは私ですね、すみません。
ベルレん宮に見に行くことにしたので、一応先触れを出す。玄関先うろちょろするよー、って。
ついでにランチもどっかで食べることにして、イルミカを厨房に使いにやって、ミカルタをベルレのところへ出した。
こういうことがあるとやっぱり複数人いると便利だなあって思う。電話とかないから。
電話はなくてもあのメッセージブロック的なものはあるんじゃないかと思ったけど、家の中程度ならちまちま書くより行った方が早いって。
到底「家」というレベルじゃないこの大宮殿で行った方が早い、とは……。
◇ ◇ ◇
イルミカには後から追ってもらうことにして、私はリッカドンナと一緒に意気揚々と出発した。
途中アホ猫に襲撃されたけど、気分が良かったので<魔肢>で掴んでジャイアントスイングして投げてやった。ちょっと嬉しそうだった。なんなの。
そういやアイツ、部屋を引っ越してから窓に登ってこないな。私の部屋を見失ってるんだろうか。探せ。
石影宮に着くとミカルタと合流した。ベルレは寝てるらしい。
「寝てる人、起こしていい、シェルリだけ」
いやシェルリも普通に睡眠取ってる時は起こしちゃダメだよ。区別しにくいけど。
ホールに降り、壁画をリッカドンナに解説してもらった。
天井部はやはり夜空を模していて、上の方をよく見ると確かに黒い大きな獣が描かれていた。
全体的には狼と水牛を足したようなフォルムで、頭部に二本、立派な角がある。体毛と同じ色の大きな翼は鳥系の羽毛だ。ドラゴンの被膜翼に対抗している。確かに立派な爪と牙が描かれていた。
「すごい強そう」
「強いですよ。戦役の後半になるとドラゴンが逃げ惑うほどでした」
壁画を見上げるリッカドンナの瞳はキラキラしていて、ヒーローを語る子供のようだった。神滅の獣は超古代兵器でもあり、この世界にとってのナントカマンとかGジラとかなのかもしれない。いやティラノサウルスかな。研究が進む度に微妙な姿になってたけど。
ドラゴンや神滅の獣の足元の方、地上よりは高い位置には大きな鳥もいた。燃えてる。
えっ、燃えてるんですけど?!
「飛行性の生き物は集中的に狙われました。空はドラゴンの縄張りだという理由で」
なので大型の鳥はいなくなってしまったのです。そうリッカドンナは語った。
理解した。ドラゴンは悪だ。見敵必殺だ。
「そのせいで今も人は空に対する恐れがあるのですよ。本当にドラゴンは害しか残しません」
集合的トラウマというやつだろうか。
そういえば羊飼いと天空城の童話があったなあ。空に城が浮かんでいるのを見た辺境の羊飼いが空を飛ぶ魔動具を作り出して辿り着くやつ。
作者はどういう気持だったんだろう。人類はトラウマを克服して空へ進出して欲しいと願ったのだろうか。
まあそんな風に思うのは月まで行った世界の民だからであって、この世界じゃ空よりまず地を征服する方が先だよな。その次は海で、空は最後だろう。
でもマジカル異世界なんだし、同時攻略したっていいじゃない。天空城は創作の産物らしいけど、飛行船ぐらいならいけるんじゃない? ロマンだよねえ。乗りたい。海洋国のマルガレタに行けば豪華客船とかあるかな。魔動列車も乗りたい。
あー、やっぱあちこち旅したいなあ!
リッチな宮殿ライフも楽しいけど、ほどほどに満喫させてもらったらやっぱり旅に出たいな。世界を見て回りたい。それが報酬? らしいし。私の異世界人スメルを薄める為にも積極的にこの世界に溶け込んでいかないといけないし。俺は冒険者になる。
いい暮らしをさせてもらったお陰で最近少しづつセルバでのことを整理できるようになってきた。
私は他人に深入りしないことで自分の情緒をコントロールしてたつもりだったし、詮索屋は嫌われるって思ってた。
でも実際さあ、それで知らないところで全部が頭の上で右から左へ流れていって、誰も何も残らないってそりゃねえだろって思うし、深入りしてなくても結局、悲しいし寂しいし悔しいし苦しいじゃんかよ。
私は決して情が深いわけではない。どちらかというと人情味より畜生味の方が勝ってる自覚はある。敵が崖に掴まって落ちそうになってたら助けるのがヒーロー、手を踏むのが私だ。ちなみに引き上げて念入りに殺してから改めて崖に落とすのがグラディ。
誰にでも優しくしたいわけじゃない。
それでも、もうちょっと自分から関わっていって、できる範囲で、何か手助けができるならやろうって思った。
知らん間にそういう扱いになっていたとはいえ、神官見習いらしいし。
実際ベルレ達ひいては神官コミュニティに全力で依存して生きてるような立場だし、末席とはいえ、それらしいことをするのは間違ってないと思う。
要は世話になりっぱなしのタダ飯食らいなのはいたたまれない!
身近なところから何かやっていかないと人としてどうなのっていうか、youは何しに異世界へ? 感がすごい。いや別に気が付いたら来てただけとはいえ。
それでも何かなあ、なんかしなくちゃ! という焦燥感はボンヤリあるんだ。それが「若さ」というやつなのかもしれんが。
人類の発展と文化の向上のためには数で勝負だ! ということで産めよ増やせよ地に満ちよ、ってのが皇帝の意向らしいよ。だから人の命は基本的に守られるし、その意志は可能な限り尊重される。
そうはいってもアホが過ぎると「間引かれる」けど、それでも場所を変えるとか、ひとまずなんか考えてはくれるらしい。
この世界の基本的人権を保障してるのが昔の皇帝の遺志っていうのもすごいな。
ベルレ達は皇帝の意志を尊重してるみたいだし、なら私もそれに倣おうと思う。
まあそうでなくても、人は産まれたからにはそりゃ生きてる方がいいし、幸せならそれに越したことはないよね。
とりあえず今、明確に期待されていることはシェルリを眠らせない、ベルレを救う、この二点だ。後者はサッパリ判らんが……。
そもそも何故シェルリは眠ってしまうのか。眠るっていうか、人格崩壊?
前にグラディから聞いた限りでは精神科の分野だったけど、その原因となった事件はなんなんだろう。
私がそれを知ったところで何かできるとは思えなかった。だから突っ込んで聞かなかった。
そんなの別に聞かなくても一緒にいるだけで癒されるタイプの人はいるけど、私のヒューマンスキルはカスなのでそんなのは無理だ。
じゃあやっぱり情報を集めて、分析するしかないのでは。
壁画を眺めながら私は改めてこの世界でのこれからの生き方を考えた。
三章もおおよそ折り返し地点です(たぶん)
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