079 お優雅宮殿暮らしと古代兵器ミステリー
本当にのんべんだらりな宮殿暮らしをしている。
部屋ができたとのことで、休憩室を引き払い、ロフト付きの例の部屋へ引っ越した。
在庫でひとまず整えたという部屋はほどほどに可愛らしく、かつすっきりしていて一目で気に入った。花柄で埋め尽くされてるようなのは好みじゃないので、全体ではシンプルでポイントポイントに豪華な装飾や遊び心があるのがいい。
他の部屋より狭めなのもいい。他の部屋より狭い、というだけで「宴会場かな?」って感じではあるけど。
離宮本体の通路から進むとまず扉のない小部屋があり、ここが私の部屋の玄関みたいなものだ。
その玄関ホールから、使用人が使う色々な部屋と私の応接室への扉がある。応接室兼リビングだ。暖炉もある。アホほど広い。
いや頭では判るんだよ。本来なら応接セットの周りに部屋の主人と来客の護衛が立ち並び、従者が動き回り、秘書だの執事だのが控え、衣装はふわふわヒラヒラで、パーソナルスペースも必要なんだから結論としてこの広さになるっていうのは。
でも私の庶民感覚がまだついていけてない。
応接室の奥の扉が私室。ここはドカンと大きな空間を例によって家具で仕切って使う。
書き物デスクのあるあたりが書斎で、段差を付けて床を高くしてある場所が飲食スペース、一角に暖炉があり、ソファが置いてあるあたりがリビングで、完全に目隠しした先が寝室だ。
部屋の一方の壁沿いにロフトがあって、寝室にある階段から上がれる。部屋自体が大きいからもうロフトというより室内バルコニーか舞台って感じがする。建築基準法なんてないからロフトの上も十分天井高いし。
ロフトは私だけの空間にしてもらった。使用人、上る、ダメ絶対。
自分の荷物はロフトに置いて、離宮での暮らしには離宮のものを借りることにする。
いやもう所持品全てにおいて格が合わなくてさ……でも私にとっては大切な財産だ。
本来このロフトぐらいがちょうどいい広さなんだよなあ。換気用の小さな窓もあるし。ここを庶民魂の避難所としよう。
◇ ◇ ◇
朝は自然に目覚めるまで寝る。
必要なら決まった時間に起こしてもらうこともあるけど、基本的には寝たいだけ寝る。
かなり寝てる気がするんだけど、子供ボディのせいじゃないかな。前世の記憶によると大人の私のデフォルト睡眠時間は七時間ぐらいみたい。
目覚ましは香りだ。夜のうちに指定する。私は今のところコーヒーをお願いしている。
ベッドはアルコーブベッドだった。壁にめり込んでるようなやつ。
壁面には薄い板が貼られていて、色の違う木を組み合わせて絵模様を作っている。図案化したお花とか。もちろん全部職人の手作業。
ベッドのカーテンは二枚構成で、薄布に刺繡を施して目隠しと透けを両立したレースが内側にあり、外側には防寒用のどっしりした生地が下がっている。
朝の決まった時間になるとこの外側のカーテンが開けられる。起きればよし、まだ寝てるならそのまま。
この外側のカーテンを開けるタイミングで目覚めを促す香りが持ち込まれる。
起きる気になったら身を起こす。
すると待機してた使用人がレースカーテンを開いてくれる。私の場合イルミカルタだ。
ベッドから下りると足元にはふっかふかの毛皮が敷いてあるので裸足で歩く。
そもそもこの国での上流の暮らしは裸足だそうだ。
町の宿でもそうだったけど、プライベートなエリアでは靴を履かない。つま先まで美しく整えてあるのがステイタスらしい。「靴なんて履いたことがございません」というのが庶民が想像する高貴な姫君仕草。ソースは小説。
その話をすると使用人さん一同「ナイナイ」と手を振って笑っていたので、まあそうなんだろう。
私も離宮に来たすぐの頃に数人がかりでフットケアされた。
驚くほど綺麗な足だとめちゃくちゃ驚かれ褒められたけど、それは第三村でうっかりセルフ全身エステをやったからだと思われ。角質だの変形だの変色だの全部リセットされたからなあ……お陰でしょっちゅう小さい傷が付いて、すぐ治せるとはいえイラっとする。分厚い足の裏と面の皮が欲しい。
キレイに整えた足には当然のようにフットアクセサリーをつける。
私はまだ子供ということで勘弁してもらった。だって足の甲に超絶技巧の繊細レースとか、宝石キラキラアンクレットとか、見た目は最高だけど怖くて歩けないよ!
ビーチのデッキチェアみたいな椅子(勿論デザインはお優雅で素材は最高級である)に座ると、侍女さん達が全部やってくれる。蒸した熱い柔らかい布で洗面、そのまま体も拭いつつマッサージ。
朝あんまり食べない貴婦人はここでフットケアなど受けつつお茶を飲んで軽く菓子を摘まんで済ませる。
私は朝からステーキでも全然オッケーなので飯舞台(勝手に命名)に移動だ。
私が心の中で飯舞台と呼んでいるのは何ていうか……食事用のひな壇というか……島状の小上がりというか。名称は「ケーナ」らしいんだけど。
置き畳でベンチを兼ねた高さのあるやつあるじゃん? ああいう感じのやつを並べて三畳ぐらいのスペースを作り、上に絨毯を敷いてある。
使用人が踏む床に主人を座らせるわけにもいかないので、こうして部分的に高床にするらしい。でもこうすると皿を置く場所が高くなるから、給仕する使用人もいちいちスクワットしなくて済むので双方良しなのかもしれない。
普通に椅子とテーブルでよくない?! と思うのは私の感覚で、ここの人達の「普通」は飯舞台である。
今朝は一人で朝食だ。小皿がたくさん並ぶ。
厨房も私の好みが判らないし、私もこの世界にどんな料理があるのか知らないので、毎日少しづつ色々な料理を出してくれている。パンはリクエストしてるけど。
上に色々乗せる(トッピング)パンや、カレーパンみたいな具を入れた(フィリング)パンはあるけど、生地に混ぜ込んだ(インクルージョン)パンはほとんどなかった。
その発想はなかった系じゃなくて、単なる好みの問題みたい。粗末な雑穀パンのイメージがあるんだって。
だが私はインクルージョンタイプのパンが好きなんだ! というわけで今日のパンはシードやナッツが入ったもの、ドライフルーツの乱切りが入ったもの、の二種類。薄くスライスしてある。真ん中の柔らかいところだけ、ってこと。
薪オーブンだと端っこが焦げる時があるからだけど、焦げはともかくパリパリした耳の部分もそれはそれで美味しいのにな。使用人の取り分なのだ。
料理についてはお任せ。
現状、特に苦手な香草もスパイスもない。なんでも美味しい。食材は野菜と果物と畜肉がメイン。魚はほとんどない。
そう……家畜肉である。庶民にとっての肉とは狩ってきた野生動物や食える魔獣だけど、リッチなハイソは牧場で育てた家畜の肉を召し上がる。
狩りの成果に左右される野生動物や魔獣より、管理下で品質が保たれた家畜の方が上等なのだそうだ。ちなみに魔力味的にはジビエの方が上だが、食味という点では家畜が勝る。
そういや蜂蜜もあったよ。砂糖が庶民の甘味なら蜂蜜はハイソの甘味。
でも無理に蜂に集めさせなくても、蜜なら花から直接採取できるそうな。そっちはそっちで更に上級の甘味になる。採取方法がクッソめんどくさいから。
蜂蜜はどうやって生産しているのか。
なんと魔蜂の巣を強奪する天然産だった。
なんせここは絶対無敵農業国家クルトゥーラ。花はバッサバッサと咲き乱れ蜜はジャブジャブ出しそれを魔蜂がブンブン集めてバンバン増えるという、パワー型メルヘンが展開されている。魔物死すべし。
大体この国の植物、別に虫が仲介しなくても花粉なんて自力で噴射するだろ。
養蜂もないではない。人家の庭先に巣箱を置いておくと縄張り争いに負けた魔蜂の群れが逃げ込んでくるので、負け蜂共を保護してやると居つくのだそうだ。そして定期的に巣を強奪する。
巣が無くなったら怪しむのでは。アホなのでそこまで考えないって。
巣がない? もう一回巣作りできるドン! みたいな。
異世界でも人間最恐でなによりである。
◇ ◇ ◇
朝食の後は離宮探検に行ったり、読書したり。
今日は読書。ロフトに上ってゴロゴロしながら読もう。寝室の敷毛皮を一枚拝借して敷いてあるのだ。
イルミカルタは私の部屋でリッカドンナに指導されながら従者スキルを積んでいる。
素でかしこいけどメイドロボとして作られたわけじゃないから、基礎を学習しないといけないんだって。「人間と違って一度で覚えますから楽です」とはリッカドンナの弁。やめろその攻撃は私に効く。
私はベルレの図書館から借りてきた本を開いた。ドラゴンの文字があったから持ってきたんだけど、昔の研究者の随筆で、当時の空気感みたいなものが感じられて面白かった。
ドラゴン戦役があったのはこの著者が生まれる前だったらしいけど、その爪痕は生々しく残っており、本当に人類滅亡の一歩手前までいったんだなという実感があったそうだ。
当時の人類がどうやってドラゴンを退けたのか。
なんと「神滅の獣」などという中学生ハートに直撃なワードが出てきた。
人類の危機に神が遣わした神獣なのだそうだ。
なんせこの著者にとっても生まれる前のことなので、各地に残る伝聞を集めてこんなようなものだったらしい、という想像が書いてあった。
曰く、小山のような漆黒の巨体で、目は青く雷光の如く輝き、巨大な翼で自在に宙を舞い、尾の一振りでドラゴンが吹き飛び、頭には鋭く輝く角があって、巨大な四肢にはすごい爪があって、すごい牙があって……うん、なんか「おれたちがかんがえたさいきょうのかいじゅう」という感じ。
この神獣達(複数個体いたらしい)と共に人類は各地でドラゴンを撃退していった。
共に、というほど意思の疎通はなかったらしいけど。各地で勝手にドラゴン共をブチ殺していく神獣サマ達を応援しながら横や後ろで頑張る人類、みたいな。
この神獣は本当に存在したか、または何らかの比喩ではないかと著者は締めくくっていた。
ドラゴンの残した素材的なものは実際にあるっぽい。鱗とか爪とか。
それに海には確実に一匹残ってるそうだ。あと最近見たデフォルメ顔のクソトカゲとか。
でもこの神獣サマ達は毛一本すら見つかっていないらしい。
ドラゴンと相打ちになって蒸発した説、海の底へ沈んだ説、神の御許へ帰った説、どこかで休眠している説、色々あるみたい。遺物を王家が隠匿している説もある。
どっちにしろ当時なんかすっごい兵器が存在していた、ということなのだろう。
古代兵器ミステリーだろうか。




