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異世界スロー旅~雑草少女の旅するスローライフ~  作者: 鷹山リョースケ
第三章

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078 石影宮とイルミカルタの復帰

 イルミカルタの修理が終わったとベルレから連絡があった。

 ハード面の修理が終わったので後は動かしながらソフト面の調整をするって。


 ベルレの工房は地下にあった。

 山の中を刳り貫いた内部なので海抜千メートルぐらいかもだけど、周囲の地表より内にあるならそれは「地下」なのだ。

 地下は主にベルレの縄張りで、ベルレの宮は石影宮サクサ・ウンブリアという。

 ベルレの宮の他に工房や倉庫、図書室などもあるそうだ。

 後で図書室見せてもらおう!


 石影宮には離宮中央にある大きな螺旋階段を下っていく。

 めっちゃワクワクした。秘密基地っぽい。

 下った先は半球形の大きなホールになっていた。

 丸い天井は黒い石で張って、壁面は様々な色の石や土で絵が描いてある。モチーフはなんだろな、単に自然と動物かな。ヘタウマっぽい味があって見飽きない。

 天井の黒石にはキラッと光る小さな石が無数に埋め込んであり、星空みたいに仕立ててあった。金と手間と時間が惜しみなくつぎ込まれている。


 扉も偏執的な彫刻の技がこれでもかと踊っていた。魔力を流すとあちこちにさりげなく埋め込まれた宝石がふわぁっと光って、夢みたいに綺麗。

 扉一枚でもこの仕上がりよ。代々続いたロイヤルお金持か、後から奪ったかの二択なので前者だと思う。ひぃ。


 案内してくれたリッカドンナとはここまで。修理後の魔動人形は不安定だから、初期の認識が終わるまで技師と主人以外は会わない方がいいんだって。護衛が必要なご身分の人ならそれはそれで別の方法があるそうだけど。

 そっか私が主人か……なんか未だにいいの?? という居心地の悪さが。なんか本当にもらってばかりというか……。


「アレアでーす。入りまーす」


 豪華国宝級扉の中は一転して機能性重視のシンプル空間だった。

 色んな素材が溢れ返って足の踏み場もない、なんてことはなく、整理整頓が行き届いていた。

 奥の部屋から出てきたベルレが私の意外そうな顔に気付いて、「奥は散らかってるさ」と苦笑した。


 ベルレはちゃんとズボンを穿いていた。すげえ! 上半身は裸エプロンだが下は穿いてるから普通だ。普通とは。

 でもちょっと顔色が悪い、かも? 人類代表造形には変わりないけど、ずいぶんお疲れな感じがする。修理に根詰めたのかなあ。


 イルミカルタは壁際に立って待っていた。

 患者衣ペイシェントガウンみたいなのを着て、 頭から薄布のベールを被り、ヘッドバンド(アリスバンド)で留めてある。ちょっと不思議な恰好だ。


「お久しぶりでございます」

「修復完了」


 イルミカが極彩色の髪に褐色肌で滑らかに喋る方で、ミカルタが白い髪に白い肌であの廃村跡の地下神殿でぶっ壊れた方。

 一緒にいた時間の差でなんとなくミカルタの方に馴染みがある。


「顔を作っても良かったんだが、俺より専門家に頼んだ方がいいと思ってな」


 ベールをめくって見せてくれたけど、今の二人の顔はのっぺらぼうだった。

 陶器のようなすべすべした素材で、目の部分には横一本の黒いスリットがあり、ガラスみたいなものが嵌っている。妙にそこだけレトロフューチャー感ある。


「色々バレたらマズい素材が使われていたが、可能な限り隠蔽しておいた」


 隠蔽なのか。交換じゃないんだ……。

 バレたらマズい素材がどんなものだったかは聞かない。大体想像はつく。知らない方がいいやつー!


 それからベルレがイルミカルタの完成度や制作者のネウロアーク何某について、早口でオタトークしてたけどほとんど判らんかった。判ったのは製作者の技術面についてはリスペクトしてることと、なるべくオリジナルに近い状態を維持しつつ修理と交換をした苦労話ぐらいだ。

 これあれか、楽しくてついついぶっ通しで作業しちゃったやつか。それで疲れてるのかな。だったらいいんだけど。いや良くはないけど、病気とかじゃないならまあ。


「使い方によってはアレアに向いてるかもしれんな」

「使い方?」


 従者メイドじゃないの? そう首を傾げたら「使っているうちに判る」と言われた。


魔動人形シムロマキナは、物扱い? 人扱いすると変?」

魔動人形ネウロマキナでございます」


 すかさずイルミカから訂正が入った。このコダワリ消してないのね……。


「基本的には物だな。そもそもそこまで広く普及していない。持ち主はまあ色々だ。人扱いしている持ち主もいるだろう」


 話しながらベルレが壁際に片付けられていたスツールを指さして、続けて私と自分を指す。するとイルミカルタがさっと動いて、それぞれスツールを持ち、私達の背後にそれを置いた。

 えっ、かしこいな?! 人間でもハァ? みたいな奴いるぞ。

 命令の前に視線を送ったり特定のハンドサインをするという、開始コマンドを設定するのが魔動人形あるあるらしいけど、イルミカルタは学習していくので入れてないとのことだった。


「主人の登録をするぞ」


 ベルレはそう言って薄いナイフを取り出した。血液ですね、判ります。

 判ってても怖いけどォ!

 私は左手で右手の手首を掴み、右手首から先の痛覚をブロックした。痛いのはイヤー。

 ざっくり全身を対象にするならともかく、どこか一部を対象にするならこうして範囲を指定した方が上手くやれる。

 それを見ていたベルレが「お前の魔力の腕で掴めばいいだろう」と言った。範囲指定のマーカーなんだから何でもいいだろ、と。……言われてみればそうっすね。


 私は触手を一本出して手首に巻き付け、痛覚をブロックした。できた。……できたけど、わざわざ触手を出す手間が冗長では。


「そこは練習しろ。……よし」


 ベルレは私の手の平を結構ざっくり切って、小鉢みたいな器に血をタップリ採った。そんなに必要なんです?!

 小鉢が一杯になるとベルレがサッと手を翳し、離れると傷が消えていた。イルミカが水の入ったボウルを持ち、ミカルタが手拭いを持ってスタンバイしている。ほんま有能だな。


 手を洗っていると、ベルレは私の血の入った小鉢を持って奥へ入り、煙草だけ持って戻ってきた。

 流れるように一本咥え、火をつける。

 顔をそらしてふーっと紫煙を吐く姿は映画のようにかっこいい。たとえ上半身裸エプロンに穿き潰したヨレヨレズボンに便所サンダルでも、だ。

 このレベルになると服などに左右されない。だが着ていて欲しい。全員だ。


「作成に時間がかかるから、完成したら組み込もう」


 私が主人であるという登録を部品にして物理的に組み込むのだそうだ。

 魔力の泉がある人なら魔力に固有の型があるので、それで登録できる。

 しかし門型の私はいわばその辺に漂う神力を吸い込んで吐き出してるだけなので、固有の型がほぼ無いんだと。

 なので血を使うそうだ。魔力に乏しい平民も血を使うそうな。


 話の流れで魔統と血統という考え方を聞いた。

 そこで知ったんだけど、七王国はどちらかというと母系社会で、部分的に母権制に近いようだった。

 なんせ王国の始まりが皇帝の妃なので国王とは即ち女王のことで、そもそも刷り込まれたベーシック単語リストにキングはあっても女王クイーンは無い。この世界の「国王」は女性を前提とした言葉だった。

 家の当主も通常は女性だそうだ。ああー! だからセルバで聞いた、領主が男で珍しいって話はそれか。


「そうだな、カルレオン領主は男だ。兄弟姉妹が全員亡くなって今の領主のドロテオしか残らなかったらしい」


 そういう場合、一般には分家筋から女子を養子にして継がせるけど、当主は女性でなければならないという法も別にないので、優秀かつ嫡出であれば男子でも継げるそうだ。

 はあ、それで男の領主様は優秀って言われてたのか。魔獣被害で村が吹っ飛んだ民としてはあんまそうは思えないけどなあ。


 しかし魔力の型である魔統は母系で子に伝わる。

 男女両方に遺伝するけど男は「弱く出る」ので、男当主は嫁さんとの相性をよくよく見極めないと子供が嫁さんの魔統に置き換わってしまうことがあるそうな。


「貴族家はその素性を証明するために魔統が王家に登録されている。もし魔統が変わるようなことがあればウンザリするほどの手続きがあって、悪くすると家としては一度消滅して、新興貴族として再出発みたいなことになるだろうな」


 それでいい場合もあるし、それでは困る場合もある。家による。そうだ。

 他にも色々聞いたけど、結論としては「貴族……大変ですね……」という感想しかなかった。特に女性。女は出産してなんぼという価値観は前の世界より強いかも。うへぇ。


 衣装と部品は後日ということで、お礼を言ってイルミカルタを連れ工房を辞去した。とりあえずベルレはいったん寝て欲しい。

 図書館はいつでも見ていいと許可をもらった。やったー。

 シェルリの宝物庫に続いてベルレの図書館がアンロックしたぜ。グラディは何だろな。



 ◇ ◇ ◇



 帰りにちょっとだけ図書室を覗いた。

 この世界、みんな読み書きできるから書物は充実している。おかげで私の嫌がらせ本も売れてるし。意外と売れてるらしくて二作目をリクエストされている。


 図書室の内部は中央が書見台や机があるホールで、壁沿いに天井まで書架が並んでいた。湿気で本が死にそうな気がするけどその辺は魔法や魔動具で色々やってるんだろう。

 ベルレが読み終わった本を放り込んでいくだけの倉庫だったのが、訪れた客や使用人達が各地で集めた本を置いていくようになって、改めて図書室として整えたのだそうだ。


 そんな来歴のせいか、学術書より小説や地方色の強い読み物、電波系新聞など俗っぽいものが多くて、表紙を眺めてるだけですごく面白い。私の嫌がらせ本も既にあって思わず悲鳴を上げた。イルミカルタがドヤドヤ集まってきて困った。

 せっかくなので適当に数冊借りていくことにした。


 帰り道にアホ猫が飛び出してきたので正しい威嚇を教えてやる。

 イルミカルタを見て「なんなのよソイツら!」みたいな顔したけど、お前がなんなんだよ。



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