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異世界スロー旅~雑草少女の旅するスローライフ~  作者: 鷹山リョースケ
第三章

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075 新しいパンツと宝物庫

 大広間と言っていいほどの空間をのんびりと横切りながら周囲を観光する。

 床も壁も天井も磨かれた黒い石張りの部屋で、照明器具らしきものはない。今は開口部からの陽光で明るいが、夜は真っ暗なのでは。

 滑りそうだったので布の上履きを脱いだ。裸足で歩くと石が冷たくて滑らかで気持ちいい。


 適当なところでいったん立ち止まり、しばらく待って、また近づいていく。

 これで接近しているのは私と判るはず。

 まー、階段のあたりから判ってはいると思うけど。

 途中で白い包みが置いてあったので覗き込むと、カードが添えられていた。

 文面を読み、包みを拾い上げて進む。


 最上階? にシェルリはいた。石床の上に直接白い布団を敷いて寝ていた。

 円形のラグみたいなでっかい敷布団に、白くて長いクッションやシーツの間に埋もれている。鳥の巣か。両側のこのクッションがないと部屋の端まで転がるんだろうな。別に寝相が悪いわけじゃないんだけど、たまに転がるんだよね。


「シェルリー、起きてー。遊んでー」 


 枕元で声をかけた。起動しない。

 そこでこれ。じゃーん。途中で拾った包み。

 カードには「これで起こしてください」とソルジェンテさんからのメッセージがあった。

 包みの中身は……パンツだった。パンツかよ!


 普通のパンツだけど裾がアイレットレースになっている。はーん?

 パンツの下にはもう一枚、ロング丈のチュニックというか、ワンピースというか、上からガバッと被るタイプの服が入っていた。裾が広くてフレアスリーブで風通し良さそう。山だと寒くない?

 こちらも身ごろ下部がお花モチーフの大胆なカットワーク刺繍になっていて、見事な出来栄えだった。


 これらで釣れと申すか。

 シェルリー、新しいパンツよー、って?

 ……いやいいけど……。


「シェルリー、ソルジェンテさんがパンツくれたよー。布レースって知ってる? 生地に穴を空けてそこを糸でかがったり、刺繍に合わせて生地を切り抜いたりするの。手作業だと思うとすごいよねえ、目が揃ってるし」


 横でパンツとワンピースを広げて喋ってると、もぞもぞと動き出した。よし。

 それはそれとして、このレースの出来栄えはすごいので見た方がいい。


 なんとか起きてきたシェルリにパンツを穿かせてワンピースを被せ、文明を付与した。靴はない。連れ立って下の層へとぺたぺた歩いていく。

 シェルリはひとまずカットワークのシースルー感と裾のひらみの違いを観察しながら歩いていた。


 そうなんだよね……この国の服飾文化の美意識は、なんと「ひらみ」。

 裾がひらっとするのがイイ、らしい。

 他にスカーフとかリボンとか、風や動きでひらひらっと舞うのがイイんだそうだ。

 さすがに庶民はそんなひらひらした格好してられないから上流階級に限るんだろうけど。庶民の間ではやっぱ宝石よ。ひらひらよりキラキラだわ。


 最初の踊り場まで戻って、それから下り方向の廊下を進む。

 その先はさっきのシェルリの寝室? のように壁に囲まれたエリアになっていて、随分しっかりとした重厚な扉もついていた。

 シェルリの後をついて扉の中に入ると真っ暗だったが、すぐ明るくなる。

 上を見ると天井の壁際が二重になっていて、コーブ照明になっていた。二重になってるところに光源を隠して、天井に光を反射させる間接照明だ。凝ってんなあ。


 ここも広い部屋だった。

 壁に沿って天井まで届く棚が一面に並び、色々なものが置いてある。部屋の中央にもチェストや櫃があった。博物館みたいだなと思った。

 実際博物館だった。

 いや、美術館だった!


 よくよく見れば豪華絢爛、様々な意匠のジュエリーがずらっと展示され、その数は果てしない。

 奥には小部屋もいくつかあり、そちらには総レースのドレスやタペストリー、見てるだけで気が遠くなりそうな細工の彫刻、その他こまごました工芸品といった、手芸の極みが凝縮された宝物庫だった。


「ふおおお……」


 やばい。ここの宝物だけで国が買える。離宮で驚いてる場合じゃなかった。


「いつでも好きに見ていい」


 特に鍵もかかってないらしい。大丈夫なの?! と思ったけど、ここまで入れる泥棒に鍵とか無意味か。


 シェルリの宝物庫を昼過ぎまで見学して、お昼ご飯に呼ばれたので部屋を出た。ジュエリーも凄かったけどレースが圧巻だった。機械で編んでも頭パーンしそうな図案と面積を全部手作業やで! しゅごい。涙出てくる。また来よう。

 ちなみにその間シェルリは新しいワンピの裾のカットワークをずっと眺めていた。パンツを脱ごうとしたのでそれは止めた。アイレットレースは後で部屋で一人で堪能してくれ。


 踊り場にソルジェンテさんが待っていて、大きなバスケットを渡された。ソルジェンテさんは上がってくる権限があるんだな。

 バスケットはちょっと重くて大きかったので<魔肢>で持つ。ランチだって。たーのしみー。


 開口部に近づいたシェルリがいきなり飛び降りたのでびっくりしたら、なんと下り階段が隠れていた。このパターン多いなこの離宮。


 シェルリに続いて階段を下りていくと、建物のトンネルを抜け、外に出た。

 風がびゅうと顔に当たる。


「すっご……」


 絶景だ。

 目の前、全てが大自然だ。

 この離宮がある山が周囲でもっとも高く、地形的にも突出している。下界には深い森と原野、湖らしき平面が雲間から覗き、霧の向こうにただただ空が広がっていた。

 隔絶されている。なんだか急にここは寂しい所だと感じた。

 この離宮を建てた昔の王族? は人が嫌いだったんだろうか。


 と、いうか。

 ……手すりとか、ないんですかね……?

 絶景だけど、同時に絶壁なんですが。その。


 岩肌に刻み付けられた、どこか懐かしいスタイルのその限界階段を山の外周に沿ってひたすら上った。

 見晴らしがもう良くて良くて。強風が吹いたら落下即ロストの景色。私は半べそで<魔肢>を繰り出して周囲を掴んで無心で足を動かした。


 シェルリ? 宿の階段みたいに普通に上っていくけど?

 服がめちゃくちゃはためいているので同じ条件下にいるということだけは判る。


 後で確認したら使用人も使う「内階段」がちゃんと別にあった。

 次からはそっち通るからなァアアアア!


 えっぐい外階段を上り切ったところは石畳の広場になっていた。

 当然のように柵も胸壁もなく、石畳が終わったところから即空中。開放的にもほどがある。

 山頂を水平に切り飛ばして平らにしたような場所だった。

 離宮で最も高い所だそうな。そう言われると心なしか息苦しいような気もする。異世界でも酸素吸ってるらしい。


 内階段がある塔屋代わりの岩の前で座り込み、しばらく休憩した。息を慣らす為でもある。

 岩の中が刳り抜かれていて、下り階段になっていた。こっちが内階段だって。帰りはこっちな!


 バスケットの中には様々な具を挟んだパン、冷製肉、酒瓶とお茶瓶、食べやすく切ったマァル等が入っていたのでここでランチ。

 うわあ絶景ピクニック。風がすごいんですけど。


 この極限で私は新しい技を発現した!


 ナルフォーム・エクステンション!

 <エーテルテイル>! ドヤァ。


 ……あまりにもこええから<魔肢>を伸ばして岩を掴んでたんだけど、だるくなってきたから尻尾のイメージで腰から触手を出して命綱っぽく岩に括り付けたら、なんか安定したんだよね……。

 腰から出てるからシッポでいいよね。尻から出てるわけではない。


 私が脳内キメポーズでニヤニヤしてたら、シェルリが首を傾げて私のシッポを手刀でぶった斬った。やめろよう、いじめるなよう。魔力操作のレベルが一億ぐらい違うんだから温かい目で育てろよう。

 斬られたらシッポ全部が霧散したので、斬られた箇所からくっつけろとご指導いただいた。無理言うな。


 私は覚えたてのシッポで、シェルリは手? で見えないチャンバラをしながら飯食ってたら、内階段からグラディが上ってきた。


「ものすごく魔力が乱れておりますけれど、何をしていますの?」


 グラディは生成りの袖無しチュニックに素足という、風呂上りみたいな格好をしていた。チュニックの裾がギリギリだけど下には一分丈のショートパンツをちゃんと穿いていた。さすが文明力がある。


「シェルリが私のシッポを千切るんだよ」

「尾のつもりだったのか」


 「鞭」を模した技だと思ってたらしい。エーテルウィップか……語感はいいけど触手と差別化できないなあ。やっぱシッポだわ。ブンブンと振り回したらシェルリにパンパンと打ち返された。スピードボールやってるわけじゃねえ。


 シェルリの宝物庫のこととか雑談しながら天空ランチを終えると、シェルリが酒瓶をグイと傾け、給酒してから立ち上がった。

 グラディも立ち上がってストレッチなどをする。

 一体何が始まるんです?



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― 新着の感想 ―
最新話に追い付いてしまいました。 とっっても面白いです。 続き楽しみに待ちます。
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