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異世界スロー旅~雑草少女の旅するスローライフ~  作者: 鷹山リョースケ
第三章

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074 大雪猫とシェルリの部屋

 部屋が最低限整うまで、最初に通された休憩室をそのまま使うことにした。

 あのロフト付きの部屋は在庫の家具でひとまず整えて、注文家具が完成次第、順に入れ替えていくそうだ。

 ずっと住むわけじゃないから別になんでもいいのにな……と思わなくもないけれど、家具職人や刺繍職人といった生産部門が課題を得て喜んでいるそうなので、なら良かった。


 夕食は一人で部屋で食べた。リッカドンナが給仕に付くと言われたけど断った。

 たまには一人で気兼ねなく食べたい。

 大勢で食べるのも勿論楽しいよ! それはそれ、これはこれ。


 テーブル代わりの草の編みマットが敷かれ、皿が並ぶ。皿の下にカードを敷いていくので何かなと思ったら、料理の説明が書いてあった。

 いたれりつくせりか! 感動した。


 希望通り一人になって、ゆっくりと料理を味わった。

 大きな茹で肉をスライスしたやつには小皿で様々な味のソースや塩が付いている。一通り全部試したくなるよね。


 あとピザみたいなのがあった! 薄く延ばした生地の上にたっぷりとチーズが乗って、色とりどりの野菜が模様のように並び、形よくカットされた肉も並んでいる。筋の一本もない肉で、口の中でとろけていく。

 野菜も形は残ってるのに口中ではとろとろと解れ、肉と野菜とソースが混然一体となって土台の生地に絡み、噛めば噛むほどにうめえ。IQが下がる美味さ。


 飲み物も各種取り揃え、デキャンタでドーンと置いていってくれた。もちろんそのデキャンタには花とかフルーツの飾り切りとかがくっついている。絶対飾り付けるマン再び。

 昼に飲んだキトルージュースにレモンっぽい酸味がブレンドされてて、甘味が減り、すっきりしていた。

 ハーブティーも「草ァ!」という感じはなく、ちょっと風味の違う緑茶みたい。大変美味しい。


 食後には好みの飲み物をゆっくりと味わう。菓子デザートとかはない。食事は食事、お菓子タイムはお菓子タイムなのだ。お菓子は大抵三時メレンダに食うかな。


 正式には食べる順番があるんだろうけど知らぬ。

 自分の食べたい順に、食べたい量を食べる。一人飯の醍醐味だ。

 大窓から見える夜空を眺めながら美味しくいただいた。

 一人の時間大事!


「んん?」


 大窓の横で風に揺れるカーテンに違う動きがあった、気がする。

 間違い探しみたいなものだ。少し前の記憶と違う。

 私は<魔肢>を出すと、そっとカーテンを押しのけた。


 目が合った。


 目?


「は?」


 黒い夜空を白く刳り抜いて、何かが丸く鎮座している。

 私と目があった「ソレ」も心なしびっくり顔で、しばし見つめ合う。


 ……一番近いのはユキヒョウだろうか。

 でも耳が大きく、顔つきはネコっぽい。サイベリアンとカラカルとユキヒョウを混ぜて割ったみたいな。

 「ソレ」は私から視線を外さず、顔をこちらに向けたまま一般通過猫って風情でゆっくりとバルコニーを横切り、そのまま階下へ消えた。


「はあ?!」


 慌てて大窓に寄って下を見るが、暗くて見えない。

 つかなんだあれ。ネコ?? ユキヒョウ?? 妖怪??


「いかがされましたか?」


 私の大声にさすがにリッカドンナが駆け付けた。どこにいたんだろ。廊下でじっと待ってるとかなら止めてほしい。私の精神衛生的に。


「変な動物が!」

「動物? どのような」

「白くて大きな猫っぽい」

「ああ、大雪猫ニヴンシアですね。知らない人の気配があったので覗きにきたのでしょう。天翼宮まで登ってくるなんて、よほど気になったのかしら」


 と、リッカドンナは普通に言った。

 は? 野良猫みたいなもの? あの大きさで? 私ぐらいあるんだけど?

 いやインドなら野良牛がその辺にいるし、大きさは関係ないか……いやいやアイツはどう見ても肉食獣じゃん。草食獣とは違う。


「危なくないの?!」


 口にしてから気付いたけどグラディ達なら別にグリズリーが襲ってきても屁でもなかった。

 使用人達はどうなんだろう。神官だから強いってわけでもないよね。


「多少のじゃれ合いは遊びのうちですが、聞きわけない個体は毛皮にすることになっています」


 ほらこれですとか。とリッカドンナが指さしたのはベッド周りに垂らしてある薄布カーテンの裾で、重しと飾りを兼ねてフワフワの毛皮があしらわれていた。

 Oh……ウサギ毛だと思ってた。


「昔はよくじゃれついてきたものですが、だんだんと群れの中で周知が図られたようで、近年はただの離宮のあしらいになっております」


 ボコられて群れごと「わからせ」られた結果、緩い共存をしているらしい。

 共存というか、単に許容されているというか。

 大雪猫達はネズミやヘビみたいなちょっとイヤな存在を狩ったり、魔獣等の警戒など、離宮にとってお役立ち存在になることと引き換えに侵入を許されたらしい。

 フンとかマーキングとか大丈夫なんだろうか。大丈夫か……粗相する血筋はきっと絶えてるんだろう……。


「びっくりした」

「子供がいるのが珍しかったのでしょう。気が向いたら『遊んで』あげてくださいませ」


 どんな「遊び」なんでしょうか……。

 そのままなし崩しにリッカドンナとノンアルコールナイトキャップ。お茶をお供に雑談をした。離宮の見どころなどを聞いた。

 眠くなったところでおやすみなさい。

 明日は離宮観光でもしようかなあ。



 ◇ ◇ ◇



 朝は普通に起こしてもらった。

 普通じゃないバージョンもあるそうだけど、それは部屋に移ってからにしてもらった。先送りである。

 今日の朝食は私だけだそうだ。みんな部屋に籠って出てこないって。ベルレとグラディはいいけどシェルリは起こしに行こうかなあ。


 身繕いをして仮部屋から出ると、昨日はなんもなかっただだっ広いウッドデッキにいつの間にか「部屋」ができていた。


 絨毯を敷いて、昨日は見かけなかったインテリアグリーンとか置いてあって、飾り棚まで置いてある。

 中央には白いテーブルと椅子があり、私が近づくと真っ白なクロスが投網のように空中に広がり、ファサッ…とテーブルを覆う。使用人達が優雅かつ素早くテーブルセッティングをしていき、あっという間に食卓に。

 椅子には尻を乗せるのが躊躇われるような総刺繍のクッションが置かれ、笑顔の使用人軍団がさあどうぞ、と。

 朝から全力出してきやがった。


 椅子に座るとゴージャス透かし彫りの衝立がどこからともなく登場し、開口部以外の三方の視線をやんわりと遮る。

 それだけでなんか部屋にいる気になるから不思議。

 こういうのも古い帝国様式だそうだ。

 普段はだだっ広い床だけのスペースで、使用目的に応じてその都度間仕切り家具や小物で整えて「部屋」にするんだそうな。

 使用人が大勢いること前提だなあ。帝国「貴族」様式なんだろうな。王族かもしれん。ひぃ。


 白いクロスの上にずらっと並べられた朝食は前の世界のホテルでも出てきそうな顔ぶれで、ちょっと懐かしかった。

 魔力たっぷりのシャキシャキ葉野菜サラダ、スフレオムレツみたいなもこっとした卵焼き、小さな角切りの根菜が入ったスープ、塩とシードオイルと柑橘で味付けした鶏ハムっぽいスライス肉、ナッツやフルーツが練りこまれたオサレクルパン(だがクルパンの味と硬度は隠せない)を薄切りで。


 更にフルーツカクテルや一口サイズのゼリー、ショットグラスみたいなのに入ってて並べると色のグラデーションになってるジュース。味もそれぞれ違ってる。

 センターピースとしてパステルカラーで揃えたフラワーアレンジメントが置かれ、周囲には銀細工の可愛らしい動物が添えられていた。


 なんだこのシャレオツ映え盛りブレックファストは。

 うわあ写真撮りたい。


 見た目に負けず劣らずの美味しい朝食をたっぷりいただき、ソファ(いつの間にかあった)に寛いで食後のお茶を楽しむ。ライブパフォーマンスは断った。でもどこからか笛の音がするので、次は生演奏かもしれん。

 朝メシ食うだけで二時間ぐらいかかってる。

 正に貴族の暮らし……。



  ◇ ◇ ◇



 今日は離宮を探検するのだ。

 ガイドについてくれそうな人は何人もいたけど、また後日ということで。

 まずは一人で心の赴くままに見て回りたい。

 そうは言っても見えないところからきっちり見守ってくれてるとは思う。


 部屋を決める時に天翼宮は一通り見たんだけど、シェルリが使ってるゾーンへは入らなかった。

 具体的には大階段があって、その上はシェルリの部屋だって。「わたくしにはこの階段を上がる権限がございません」とリッカドンナは言っていた。セキュリティエリアかな。

 私は特になにも言われてないので上がっちゃうんだけど。

 シェルリ起きてるかなあ。 


 大階段の上には空しか見えないので開口部があるんだろう。

 窓とはちょっと違うの。天翼宮の窓は壁が全面ブチ抜かれてる感じだ。構造耐力大丈夫なのか。

 階段を上りきると案の定壁がなかった。踊り場(ランディング)は丸い空間で、床は石張りだ。石の微妙な色の違いで幾何学的な模様を作っている。


 廊下は緩やかな坂になっていて、上り廊下と下り廊下がある。

 上かなあ。

 廊下は弧状になっていて、ぐるりと回ると大きな広間に出た。

 奥に向けて床が階層状に高くなっていくスキップフロアで構成されていて、最上部の向こうに開口部があり、空が見えた。

 その手前に白い塊が見えたので、あれじゃないかなとアタリを付ける。



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