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異世界スロー旅~雑草少女の旅するスローライフ~  作者: 鷹山リョースケ
第三章

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087 フラナの話

 何ぬるっととんでもねえ自己紹介してきやがるんだ最初からやり直せください。

 待って待って待って。

 と、いうことは「貴族」飛び越えて……「王族」なんです?!

 私は本気でフリーズしてた。

 フラナをガン見してたらてへっと笑う。笑ってる場合か。

 だって、ということは……王女様ってこと?

 この、田舎の豊かな自然の中でおひさまいっぱい浴びて元気に走り回って育ちました! みたいな子が??

 小国なら判らんでもないがここって皇帝直参の由緒正しい大国だよね?


 お、おお……い、いいの?

 クッソ失礼承知の上で申し上げれば次期国王がこんな感じでいいの?!

 そら兄貴もワンチャン狙うわ……。

 って、いやいやいやいや! 人を外見で判断してはいかん。

 ふんわり素朴な田舎娘を装っているだけで、実はやる時はやる、シメる時はシメる、メリハリの利いた天才肌という可能性もある。


 ……などという思考の流れが全部顔に出てたらしく、紳士もフラナも苦笑し、私の驚愕のお茶会は終わった。


 いや終わらなかった。続行である。


「うーん、やっぱりびっくりするんだねえ。お祖母ちゃんもこんな感じだったらしいんだけどねえ」

「もっとこう……威厳があるというか、偉そうというか?」

「そういう人は国王には向かないんだって」


 まー、居丈高にふんぞり返ってるだけのバカ王子とかバカ王女はノーサンキューだろうけど。

 とはいえ、次期国王の王女様ともなればもうちょっとこう、なんかそういうオーラがあるのでは? と思ってしまう。育ちの違いというか。

 ああいや、お育ちという点ではすこぶる良いと思う。

 素直で親しみやすい雰囲気があり、明るくて物腰に角がない。元気な町娘風味ではあってもちゃんと躾が行き届いているような、そういう「真っ当さ」が感じられる。

 少なくともヒューみたいな陰湿な内面ではない。

 これが芝居だったらシェルリ級なのでお手上げである。


「みんな言うんだよねえ、お勉強もしないで毎日遊んでばかりではいけませんって。でもお祖母ちゃんは毎日遊べって。あっちこっち行って色んなものを見聞きして色んなものを食べて全てに興味を持って色んな体験をしなさいって」


 炭酸水に入れるフレーバー選手権フラナ杯暫定一位の花の砂糖漬け柔軟剤芳香ソーダをぐいっと飲んで、悶絶しながらフラナは語った。


「この後口の悪さが……結構好きかも……げぶっ」


 勇者か。ちなみにアレア杯暫定一位は普通に柑橘ソーダ。


 それから私は子供らしい好奇心を装った誘導でフラナの話を聞き出した。シェルリ師匠のご指導ご鞭撻の賜物である。密偵そっちじゃなくて魔法を習いなさい、と教官に呆れられた。


 クルトゥーラ王城には王家の庭というか王家の谷というか、城の奥に直系王族しか入れないエリアがあって、フラナはそこで育ったのだそうだ。

 まんま「谷」で、天突く崖と崖の間に小規模な森や丘、岩場に小川と箱庭的自然があり、そこを駆け回って成長した結果ということらしい。


 言語インストールが終わった頃に外に出て、以来、興味の向くままあちこち出かけて見聞を広めている。

 その様がどう見ても遊んでいるだけに見えて(多分そこはその通りなのだろう)、一部からは冷ややかな目を向けられていた。

 それでもお母さんのフェリシアがご存命の頃はフェリシアが次期国王だと思われていたこともあって許容されていたのが、フェリシアが亡くなり、後継がフラナと発表されたことで空気が変わってくる。


 それぞれの王子王女(ちなみにベーシック辞書には王子王女という単語はない。単に「王の子」だ)の支持者層がにわかに騒がしくなり、そんな中、デメトリオが明確に対立の意志を見せた。

 という状況でフラナは更に微妙な立場となったわけだが、本人は至ってまったく意に介していない。


「国王はね、国王が『居る』ことに意味があるから、お仕事の手引きやお道具は全部用意されてるから、お勉強なんていらないんだよ」

「そうなの?」


 国家の象徴的存在で、実務は側近や部下が全部やるスタイルなのかなあ。

 異世界の政治実態なんて判らんし。

 王がいるなら王政かと単純に思ってたけど、私の想像する王政とはまったく違う可能性もある。中途半端なところで子供の家をドロップアウトしたからなあ私。知識が足りない。学校行きてえ。


「そうだよ。ずっとそう言ってるのに、みんな信じないの。お祖母ちゃんがそうだって言ってるんだからそうなのに。なんで疑うんだろ」


 フラナはため息をつく。ほとほと疲れた、という風情だ。

 聞けば、フラナが幼いというかまあ「足りない」と思って、聞こえるところでお構いなしに悪し様に噂したり、わざといない者として扱うような、しょうもないイジメめいたことも増えてきた、と。

 えー、王宮嫌なところだな。

 つうかそんなん、国王たるお祖母様は何やってんの……って、そういやお迎えが近いんだっけ。寝たきりなのかな。それで目が届かないとか?

 と思って紳士に視線を向けたら頷かれた。


「フラナ様はほとんどパテルナ陛下とフェリシア様だけでお育てになったようなもので、周りはパテルナ陛下の近臣ばかりで……その、皆様ご高齢でして」


 アクティブな側近集団を未だ形成できていないらしい。

 そら引退ジジババがいくら味方でも現役勢と張り合えるかというと、そうもいかないだろうし。うーん。

 それでやむにやまれず離宮に一時避難してきた、ということらしい。まあここは安全だよね……。


「別に通りすがりに変なこと言われても知らなーい、って逃げちゃうけど、ものをわざと壊されたりするのは困るんだよねえ」


 そこまでやられてるんかーい。ダメじゃん。ヤバいじゃん。


「全員クビにしたら?」


 紳士がブフゥと咳き込んだ。

 いいじゃない、たわいもない子供のおしゃべりなんだし。


「ぇえー……アレアはそう思う?」

「使い道があるなら置いておけばいいけど、使えないなら全部クビでいいじゃん。仕える相手が気に入るか入らないかの感情問題で気に入らないなら出て行くか、正面切って対抗してこいよ」


 その観点でいうと大将自ら勝負に出て来たデメトリオはまだマシなのか。


「仕事もしないで権力争いとか賄賂取ったりとか、どーせそんなんばっかしてるよ。自分では動きもしないで横から文句だけ言って結果が出たら我が物顔でしゃしゃり出てきて成果だけ奪おうとするゴミよ。国王は一番エライんでしょ、国王の役に立たないならいらなくない?」


 前世の恨みが滲み出た気がする。いかんいかん。

 紳士がアワアワしてるけどミカルタが微妙な立ち位置で押さえている。そういう小技もできるようになったんだ。


「いらないとまでは思わないけど……うーん、確かにちょっとどっか行ってほしい、とは思う、かも」

「視界から消えて欲しいよねー」


 まあ実際にはそんな簡単ではないことは私もフラナも判ってる。

 人間性はカスでも特定分野で超有能とか、役に立つ・立たないだけでは測れないヒューマンスキルとか、単体では活きなくてもチームになると効果倍増とか、本人の能力は別にしてツテがクソ優秀とか、そもそも適材適所であるとか。

 でもこういう場でちょっとぐらい過激に愚痴ったっていいじゃん。まだ子供なんだよ。

 お祖母様の年齢的にも多分フラナはあと数年で即位するんだろう。国王になっちゃったら例え内輪でも軽はずみなことは口にできないだろうし。「子供の言うこと」で済むうちに盛大に罵ってやればいいよ。


 ということで宮廷事情をせっせと聞き出した。今後なんかの役に立つかもしれん。メモしなくてもミカルタが全部覚えてくれる。

 そしてしょうもないイジメめいた体験も聞き出して盛大に罵倒しておいた。紳士ドン引き。私はやろうと思えばもう数段階口汚くいけるぜ。何の自慢にもならん。


 フラナは周りのことなんかより自分の音楽家としての成長に伸び悩んでいるみたいで、そっちの方がよほど重要みたいだった。芸術家肌なのかなあ。

 でも年齢的にまだまだこれからなのでは。って、同じ年頃の私が言ってもな。

 フラナは言わずとも判ったらしく(または周囲に同じように言われてきたか)、ぷくーっと頬を膨らませた。なんだそれ可愛いな。


「まだ子供だからこれからだ、ってみんな言うんだけど。お祖母ちゃんの演奏を聞いてるとね、判るの。ぜんぜん足りてなーい、って」


 フラナは手の平をわきわきさせて指を動かしながら呟く。その顔にはお祖母様への憧れがあって、家族であり、いい師匠でもあるんだろうなと思う。

 さっきの演奏を聞いた限りでは金が取れると思うんだけど、パテルナ様はよっぽどすごいんだろうか。


「移んないかなーと思ってお祖母ちゃんの腕撫でまくったことがあるんだけど、呆れられちゃった」


 笑った。

 神絵師の肉を食いたいみたいなやつ、異世界にもあるんだなあ。



 ◇ ◇ ◇



 日暮れ前に辞去して私達は帰った。

 一応帰り道に例の服飾店の前を通った。ワンピ見ててくれたらいいな。

 紳士からお土産に炭酸水をもらってしまった。嬉しい。


「炭酸水扱ってる商会って知ってる?」

「セレステ商会でも納入できます」

「そうなの?!」


 なんというか、子供の飲み物または料理に使うものというポジションらしい。それで私の食卓には出てこなかったみたい。えー、子供なのに。そういうところは子供扱いして欲しい。

 酒の炭酸割りとかしないんだろうか。しないか。ベルレもシェルリもしなさそう。原液流し込みだよね。

 スパークリングワインやシードルみたいなのはあるので、わざわざ割らなくてもそっち飲むのかな。


 部屋に帰るとカピ太がどこ行ってたのよ! みたいな顔して突進してきたので投げ飛ばす。より高く、より遠くへ飛ばすとすごく喜ぶ。大丈夫かなこいつ。

 いっぱい喋ったのでちょっと疲れた。

 夕食を部屋に運んでもらって、イルミカルタの朗読劇場をBGMにのんびり食べた。



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