挿話 楽師の娘
本日投稿2話目です
それはずっとずっと昔の、まだ人が獣に近かった頃の話。
その部族の始まりは変わり者の家族。
木を叩いたり石を叩いたり弓の弦を弾いてみたり、色々な「音」を出すことに心奪われてしまったんだ。
音に合わせて吠えたり、唸ったり。
ね、変わり者でしょう?
だから気味悪がられて集落から追い出された。
そこでへこたれないのがすごいところ。
家族は集落を追い出されてもへっちゃらで、獣を狩りながら森を川を草原を、面白い音を拾いながら旅をした。
音を連ねて曲を作り、声を連ねて歌を作った。
楽しげな音色に惹かれた人も時々加わって。
そして音楽を生業にする部族が生まれたんだ。
もちろん、他の部族にも音楽担当の一族はいたんだけど、部族丸ごと全部がそっち向きっていうのは、さすがにここだけだったみたい。
前置きが長くなっちゃった。
さて、そんな部族に生まれた小さな娘が主人公だよ。
娘はある日、とある男に一目惚れをした。
その男は強く、賢く、美しかった。べらぼうにいい男だったってこと。
娘は自慢の歌と演奏で猛攻撃をかけた。
……うん、そういう性質の部族でもあったんだ。
その頃、男の部族は他の部族と戦争をしていて、その戦争がどんどん広がっていったんだ。
だが娘はそんなことしったこっちゃない。
男のそばで、刺客を琴で殴り飛ばしながら、その音も伴奏にして歌ったそうだよ。
……うん、そういう性質の娘だったんだ。
ちなみに男は全然靡かなかった。
戦争に忙しかったからね。
そのうち、男の周囲には何人も女が寄ってきたけど、しったこっちゃない。
恋敵の女達とも喧嘩したりご飯を食べたり、一緒に刺客を吊るし首にしたり、毎日楽しくやってた。
しかしその楽しい日々にも影が差す。
娘は、知ってる歌を全部歌い切ってしまった。
知ってる曲を全部奏で切ってしまった。
それがどうしたんだい、どんな弾き語りも持ち歌を歌って得意曲を奏でるもんだろ、男が気に入った歌を繰り返し歌えばいいじゃないか。
恋敵の女達はそう言って慰めたけど、娘はそれじゃあイヤだったんだ。
男にいつも新しいものを披露したかったんだよ。
男のそばを離れるのは嫌だったけど、娘は新しい曲を探しに行くことにした。
それを伝えに行った時、男は言ったんだ。
お前が新しい曲を作ればいいじゃないか、って。
そりゃそうだ。
って、今のわたしたちは思うけど。
娘は自分で作曲するなんて思ったことなかったんだ。
演奏は上手かったし、歌も上手かった。……でも作曲の才能は残念ながらなかったみたい。
娘は雷に打たれたように衝撃を受けた。
いやぁ才能がないのでムリムリ、なんて言えやしない。
だから娘は頑張ったんだよ。
娘が作った曲は……うんまあ、苦笑いしちゃうものが多いけど、それも含めて人を楽しくさせ、しんみりさせ、眠らせ、心を震えさせた。
いつしか戦争も終わり、男は全ての部族を従えた。
女達は最後まで付き従って男を守った褒美に、それぞれ土地をもらった。
娘がもらった土地は山が多くて谷も多くて森が濃くてめんどくさいところだったよ。
大きな声じゃ言えないけど、最後まで侍った女達の中で一番政治力がなかったんだ。他の女達は大きな部族のお姫様とかだったからね。
でも男はこっそり娘にだけ贈り物をしたんだよ。
ナイショだよ。
本当に本当にナイショだよ。
あのね。
ずっと後になって、男は本拠地で死んだことになってるけど。
本当のお墓は、娘が治める土地にあるんだ。
それからずっと。
娘と、その娘と、そのまた娘と、代々ずっと。
男の安らかな眠りを祈って。
歌い奏でているんだよ。
それがわたしたちクルトゥーラ王国のはじまりなんだ。
◇ ◇ ◇
「農業国じゃなかったのかよ!」
一拍おいて、アレアは叫んだ。
「農業国だよ」
「音楽の国じゃなく??」
「音楽は家が続けてるよ。国は農業が主体」
「うち??」
アレアが何故か混乱している。フラナは首を傾げた。
あれ、もしかして。
「あれ、もしかしてアレア、うちの家名聞いてない?」
「聞いてない」
「そっかあ。わたし、フラナ・クルトゥーラ。お祖母ちゃんはクルトゥーラ国王やってるよ」




