086 気さくなお茶会
2話セット投稿です
「……えっと、なんか、やっぱり何話せばいいか、わかんないねぇ」
フラナは眉尻を下げて情けなく笑った。
またかよ! 可愛いからいいけどよォ。
「私に何か用事があった?」
「うーん、えっとね、ちょっと話してみたかったの。子供の見習い庭師様がいるって聞いて」
「庭師?」
見習いというなら神官見習いだけど……リッカドンナは副業庭師らしいから、一緒にいるせいで弟子と思われてるのかな。
「私、庭師見習いじゃないよ。どちらかというと神官見習い?」
「えっ? ……えっと、その」
フラナは困った顔で物問いたげに紳士を見上げた。なんだ?
「この場にてご身分の詳細は不要かと存じます」
紳士が優しくフラナに助言する。そういやフラナってお貴族じゃん!
しまった、町の子みたいに話してたわ。
「そういやフラナって貴族だったよね。フラナ様におかれましてはご機嫌うるわしゅう本日はお招きありがとうございますみたいなのやった方がいいの?」
と、私も紳士に質問した。直球過ぎた。
「アレア様におかれましては……その、お気になさらず」
「ええ? それやるならわたしがやる方だよ。よく知らないけど」
てへっと笑うフラナは気さくな町の子という感じで、まったく貴族っぽくない。
いやこの世界で確実に貴族ですと名乗った貴族に会ったことないから判らない。
なんにせよ気にしなくていいなら、そっちがいいや。
「じゃあ、いいよね!」
「うん、いいよ!」
ということで少し空気がほぐれた。多分。
それからフラナは思い出した、とでもいうようにお菓子の説明を始めた。本来そういう段取りなんだろうなあ。
お菓子は植物原料の焼き菓子系が多かった。肩肘張らない食べ慣れたお菓子だ。
でも形が色々凝っていて、アイシングで飾ってあったりして、見た目にも一手間かけてあるところが違う。とても綺麗で美味しそう。
カラフルなグミみたいな、つるもちっとした物体が乗った小皿もあった。
「これはねえ、果物の……果物の……なんかだよ」
「そっかー、なんかか……」
多分ゼリーだろう。この場合のゼリーはジャムの仲間の方だ。
大まかに、果肉を丸ごと使ったものがジャムで、果汁だけで作ったものをゼリーという。
他、フルーツを小さく切って盛り合わせたフルーツカクテルや、花の砂糖漬けみたいな女子力高い品もあって、二人で覗き込みながら意外と盛り上がった。
「えっ、見た目最カワなのに匂い強ッ! 匂い強過ぎ」
「さいかわ……? わっ、ほんとだ、鼻まで一気にクる。これが好きな人は……これが好きなのかなあ」
「お茶に入れるのかも」
「すっごい味変わりそう」
お花の砂糖漬けは、口の中でムゥン…と立ち昇る香気が前の世界のアメリカン柔軟剤みたいで、鼻が死んだ。
二人して笑いながら香気を振り切るようにガス入りの水を飲む。
そーなんだよ、ガス入りの水、炭酸水があったのだ! 離宮にも無かった品だ。
ガスが抜けないよう採水地から輸送する技術が特別で、限られた商会でしか扱ってないらしい。えー、仕入れたい。
「そうだ、フラナって王都民なんでしょう? 王都の話聞きたいな」
「うーん……あんまり家から出なかったからなあ……」
そうか、貴族のお姫様だもんなあ。
私のしょんぼりした気配が伝わったのか、フラナは慌てて続けた。
「あっ、で、でも劇場とか、音楽堂とかは行ったことあるよ! すごくおっきいよ!」
おー、都会にはそういうのもあるのか。いいなあ! 行ってみたい。
「あ、魔動列車は?」
「魔動列車……は乗ったことないや。でも駅は見たことあるよ! すごくおっきいよ!」
なんでもデカいんだな。両手を精一杯広げて見せるフラナが年相応に可愛い。
比べて私は可愛くない子供だな……反省した。
それから炭酸水にフレーバーとして何を入れると一番美味しいか選手権をやりつつ、フラナのことをたずねた。
他所から仕入れた情報だけ持ってるのもやっぱ据わりが悪かったから、直接本人に聞いたよ。子供だから許される所業だ。
「兄ちゃんが急にめんどくさいこと言い出したって聞いたよ」
「うん、そうなんだ。わたしが継承するって決まってるのにねえ」
「フラナは次期当主になりたいの?」
「なりたいよ。絶対なるよ」
どちらかというとぽやーっとした雰囲気のフラナが、その時だけ強い意志を示した。
「ウチはねえ、取り柄のない子が継ぐきまりなんだ。ねえさまもにいさまも優秀だからさ、何でもできるじゃん。わたしはできないからさ、わたしが継ぐんだよ」
正直変わったシステムだなと思うけど、フラナが前向きに意欲を持っているなら、いいんじゃないかと思う。まあどのみち他所のお家のことだしなあ。
それから私がイルミカルタの衣装デザインを描いたことから得意なことの話になって、フラナは歌と楽器ができるのだと言った。
はー? 取り柄あるじゃん! いやまあ貴族家の運営には関係無いのか。
「お祖母ちゃんより全然へたっぴだけどね……」
「聞きたい聞きたい!」
そういやこの世界に来て本格的な楽器演奏は聴いたことない。遠くから耳にしたことはあるけど、目の前で見たことはないんだよな。酒場で吟遊詩人っぽい弾き語りをチラッと見たことはあったけど、その時は通り過ぎちゃったし。
フラナはえーどうしよう……と照れ照れとしていたけど、紳士がいつの間にか楽器らしきものを持ってきて、スッと差し出した。できるおっさんだ。
楽器は見た目は小型の琴のようで、音色はハープやリュートのような弦楽器だった。
「えへへ、じゃあね、古い昔のお話だよ。ずっとずっと昔の話」
歌というか、弾き語りらしい。
私はわくわくして姿勢を正した。




