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AIOライト  作者: 栗木下
8章:双肺都市-前編

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403:73-3

【AIOライト 73日目 18:32 (満月・雨) ドウの地・北西の森-ヘスペリデス】


『マスター、材料に何があるのかを確かめる時間も必要なので、一時間くらい待っていてもらってもいいですか?』

『あ、ゾッタ兄。なら私たちは屋敷の中の探索をしてきていいかしら?どうせすきっ腹じゃ大した話し合いも出来ないし』

『どっちもいいぞ。俺は食堂で待ってる。あ、一応言っておくと、既に私室あるいは倉庫として決めた部屋には関係者以外は入れないようになっているからな』

 三十分程前にあった会話がこれである。

 その後、俺は一人で食堂へ、シアは食堂に併設されている厨房へ、残りのメンバーはラードーンに案内される形でヘスペリデスの屋敷の中を見て回り始めた。

 そうして、暇を持て余した俺が一人食堂でうたたねしていた時である。


「ゾ、ゾッタ兄!どういう事なの!?」

「んがっ」

 グランギニョルが食堂の中に慌てた様子で突っ込んできた。


「どうした?何か有ったのか?」

 グランギニョルは別に顔色が悪かったり、怪我をしていたりしているわけではないようだった。

 ただ酷く驚き、慌てている様子である。

 何と言うか、グランギニョルにしてはとても珍しい姿だ。


「な、何か有ったじゃないわね。な、なんで……」

 グランギニョルの後ろにシュヴァリエたちも現れる。

 その顔はだいたいグランギニョルと同じで、狼狽していると言ってよかった。

 んー、何か見てはいけない物でも見たか?

 いやでも、そう言うのはGMが見えないようにしているか、俺の権限で置いてある場所に立ち入れないようになっているはずなのだが……詳しく話を聞いてみるか。


「落ち着け。でないとこの屋敷にあるものでも分からない」

「そ、そうね。幾らなんでも慌て過ぎだわ。すぅーはぁー」

 俺は視線に魔力を少しだけ乗せて飛ばす事で、グランギニョルの精神に軽く揺さぶりをかける。

 そして、揺さぶりによって生じた意識の隙を突くように言葉をかけることで、グランギニョルを落ち着かせる。

 さて、後は何がグランギニョルたちをこれほどまでに驚かせたかだな。


「ゾッタ兄、どうしてヘスペリデスにお風呂なんてものがあるのかしら?」

「お風呂?」

 グランギニョルの口から出てきたのは、風呂と言う言葉だった。

 それは……まあ、確かにある。

 GMに付けるように言われたので設置し、今現在もヘスペリデス内で稼働している施設の一つだ。

 で、その辺りを素直に話したところ、こう返ってきた。


「そのお風呂はオブジェクトとして置いてあるだけ?それとも実用性があるの?」

「んー、俺は使った事が無いが、GMの説明だとちゃんと使えるようになっていたはずだな」

「そう、使えるの。使えるのね……」

 別に隠す事でもないので、俺は風呂の使用条件も含めて知っている限りのことを話す。

 するとどうしたのだろうか?

 グランギニョル、シュヴァリエ、ミストアイランドさんの三人から微妙に黒いオーラのようなものが漂い始める。


「ど、どうしたんだ?グランギニョル?」

 何と言うか、この先どう対応しても地雷を踏み抜く予感しかしない。

 が、踏み込む以外に選択肢はないので、俺は意を決して踏み抜く事にする。


「どうしたもこうしたも……どうして黙っていたのよ!ゾッタ兄!」

「お、おう……」

 グランギニョルが俺に向かって一歩大きく踏み込む。


「風呂よ!風呂!私たちは全員揃ってもう七十日以上もお風呂に入っていないのよ!」

「それはまあ、そうだろうな」

 勿論、現実にある俺たちの身体は定期的に綺麗にされているだろう。

 が、今の話は主観的な物なので、そんな事実は何の意味も持たないだろう。


「気分を変えるために水浴びをしようにも、服を脱げる限界は水着までで、おまけにモンスターやら水の冷たさによるダメージやらで、とてもじゃないけど長くそう言う事なんて出来ないのよ!」

「そりゃあなぁ」

 『AIOライト』の中での水浴びは……まあ、命がけになる。

 モンスターもそうだが、それ以上に水回りの仕様がプレイヤーを殺しに来ているからだ。

 一番分かりやすい例で言えば、今もヘスペリデスの外で降り続いている雨などが正にそうだろう。


「そんな中で風呂よ!お湯よ!完全に水没しない限り安全な環境よ!しかも大浴場よ!おまけに防犯なども完璧なのよ!あんなものを見せられて興奮しないプレイヤーが居ないとでもゾッタ兄は居るとでも思っているの!!お風呂は命の洗濯なの!現実の身体がどうこうじゃないの!!いい加減に温かいお湯が恋しいの!!」

「えーと、つまり?」

「入らせて。対価が必要なら払うから」

 と、此処で遂にグランギニョルが俺の両肩を掴み、顔を至近距離にまで近づけてくる。

 その瞳には、はっきりとお風呂に入りたいです、と書かれている。


「うんまあ、夕飯が終わったら入ってくればいいんじゃないか?対価とかも特に要らないぞ。勝手に沸いているしな」

「ありがとうゾッタ兄!心の底から感謝するわ!!」

「ヤッター!お風呂だああぁぁ!!」

「ああ、ゾッタさんと同じPTで良かった。今、心の底から私はそう思います」

 まあ、俺もここまで言われて拒否するような鬼ではない。

 なので素直に認めたが……女性陣の喜びようが正に狂喜乱舞と言う感じだな、うん。


「夕食が出来ましたよー、ってあれ?」

「シア!シアも一緒に行きましょうね!」

「えっ、あ、はい。別に構いませんけど……?」

「いずれにしてもまずは夕食だ。いいな」

「何も問題はないわ!」

 シアと、それにラードーンも巻き込まれそうな感じだが……まあ、あの風呂は片方が拒否すれば、それだけで別室に自動移動出来る仕様だし問題はないか。

 と言うわけで、俺はシアが作ってくれたミートパイを食べて、腹を満たしたのだった。

06/14誤字訂正

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