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【AIOライト 73日目 07:12 (満月・雨) ドウの地・西の荒野】
「さて……グランギニョルたちは何処だ?」
ラードーンを生み出し、遠征の準備も十分に整えた翌日。
俺たちはグランギニョルに言われた通り、ケイカの入り口にやってきていた。
「今回はよろしく頼む」
「ああ、こちらこそよろしくだ」
「今度こそは次の街を発見するぞ」
「うはっ、リーダー気合入ってるー」
「どうにかしてアレには見つからないようにしないとな」
「そうだな。でないと先に進めない」
ケイカの入り口、西の荒野にはプレイヤーだけでも50人以上は間違いなく集まっていた。
連れているホムンクルスの形状は様々だが、人型のだけでも相当の数が居る。
どうやらこの場に居るメンバーが現在の『AIOライト』で攻略組に分類されるメンバーであり、ここからPT単位で行動を開始する事になるようだ。
「シア、ゾッタ兄、こっちよ」
「あ、ギニョール」
「お、居たか」
と、ここでグランギニョルから声をかけられ、俺たちは今回の遠征で組むことになるメンバーの姿を初めて見る。
「これで全員、ですかね」
「ええそうよ。今回はこの六人でPTを組んで北上、北西の森の中に存在すると思われる新たな都市を見つけ出す事になるわ」
「……」
プレイヤーは六人。
俺、グランギニョル、シュヴァリエ、ロラ助、眼鏡をかけた女性が一人に、フードを目深に被った男性が一人だ。
「はい、というわけで自己紹介は移動しながらにしましょ。と言っても必要なのは初めて顔を合わせるそこの辺りだけでしょうけど」
「そうですね。ではそうしましょうか」
「……。分かった」
「ん、了解だ」
俺はグランギニョルをリーダーとしたPTに入ると、その指示に従って北に向かって移動を始める。
「では早速自己紹介の方を」
「ああ、それじゃあまずは……」
「ゾッタさんは有名なので大丈夫です」
「そうか?」
「やっぱりそうよね」
「師匠だもんね」
「ええ、ですので、私からさせていただきます」
さて、自己紹介だが、何故か俺は不用と言われてしまった。
まあ、細かい情報の齟齬があっても困るので、後で無理矢理にでもしておこう。
「私の名前はミストアイランドと言います。所属は『氷河魚の末裔』。普段は解析班としてジャックさんたちと一緒に行動をしています」
そう言うと眼鏡の女性……ミストアイランドさんは軽く会釈する。
なので俺も会釈を返す。
「武器は槍がメインで、ステータス振りとしては感知力特化になります。ゾッタさんの特殊知覚に基づく感知とは別方向……ゲームのシステムに沿った感知ならお任せください」
「なるほど、つまりその眼鏡型ホムンクルスも感知力を上げるため、と言う事か」
「ふふっ、お流石ですね。その通りです。他にも機能はありますが……まあ、それは追々としておきましょう」
ミストアイランドさんは俺より少し背が高く、雰囲気としては理知的な女性と言う感じがする。
武器とステータス振りについては本人の申告通り。
で、ミストアイランドさんの掛けている深緑色の縁を持った眼鏡だが、ミストアイランドさんとの間に装備品では有り得ないような繋がりを感じた。
なので、軽くカマをかけてみたのだが、正解だったとは。
俺が言うのも何だが、本当にレア度:PMと言うのは何でもアリだな。
「ではレティクルさん」
「ん」
ミストアイランドさんに促される形で、レティクルと呼ばれた男性が俺の隣にまで近づいてくる。
「レティクルだ。武器は銃。後方支援を得意とさせてもらっている」
「PTを組むのは……二度目で合っているよな?」
「そうだな。『狂戦士の砂漠の塔』以来だ」
「あ、師匠ってば気づいていたんだ」
そうして距離が近くなったことで俺は思い出す。
隣を歩く男性……レティクルさんが以前にPTを組んだことがあるプレイヤーの一人である事に。
あの時は……そう、『狂戦士の鬼人の王』の体勢を崩す事で、勝利を決定づける働きをしてくれたはずだ。
「FFはこの銃にかけてしない。だから安心して前で好きなように暴れてくれ」
「分かった」
レティクルさんの腕前が当時より向上しているのであれば、いや、当時のままであっても、彼ならば背中を預けて問題はないな。
それだけの仕事人だ。
「じゃ、最後に俺だな。俺の名前はゾッタで……」
「いや、ゾッタ兄は必要ないでしょ」
「師匠が戦車と言う意味のタンクなのは皆知ってるから」
「メインの壁役お願いします」
「ヘイト管理はお願いしますね」
「ヘスペリデスは楽しみにしている」
「まあ、こうなりますよね。マスターですし」
で、最後に俺が自己紹介をしようとしたのだが、何故か全員から必要ないと言う顔をされてしまった。
それでも念のために俺の戦闘スタイルなどが分かっているかと尋ねてみたが、見事に全員知っていた。
ミストアイランドさん曰く、俺については動画館の方に上がっている動画で、散々研究し尽くされているらしい。
そのため、グランギニョルたちが今の俺について知らない事と言えば、『AIOライト』の外側が関わる諸々ぐらいだった。
少し悔しい。
「そうそう、最後にこれだけは言っておくわ」
「何だ?」
「今回の目的は新たな都市の発見よ。よって戦闘は極力控える方針で行くわ。全員そのつもりで行動して頂戴」
「分かった」
そうして行動の指針についてもはっきりと明言されたところで、俺たちは歩速を少しだけ速めた。




