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「さて、周囲に敵影は無し、か」
俺はMPKが消えた場所に近づくと、俺の魔力を纏わせたヌル・オトガナッツブレードを密かにネクタールに振るわせる。
そうすることで、微かに存在していたこの場から何処かへとMPKの男が移動したことによって生じた繋がりを切断する。
万が一と言うか、念のためにと言うか、とにかくこれで男がこの場に戻って来る事は出来ないだろう。
「あの、マスター。さっきの人はMPK……で、いいんですよね?」
「そうだな。現状ではMPK、より正確に言えばMPK未遂プレイヤーだ。尤も、ネクタールに向けて躊躇いなく剣を振り下ろしたり、最初に短剣を投げつけてきたりした辺りからして、PK……プレイヤーキラーと呼んだ方が正しいかもしれないな」
「……」
シアは男が消えた場所に視線を向けると、とても微妙そうな表情をしている。
何と言うか、怒り、悲しみ、それに困惑も入り混じっていて、シア本人にもよく分からない感じなのだろう。
「ーーーーー!」
「分かっているから大丈夫だ」
ネクタールは赤を主体とした怒りの表情を前面に押し出している。
まあ、ネクタールの反応は当然のものと言っていいだろう。
誰だって限界ギリギリの無理をさせられたり、身体を切られそうになったりすれば、怒って当然だ。
その怒りを俺の腕を圧迫しては離しを繰り返す事で表現するのは止めて欲しいところだが。
「マスター。どうしてあのプレイヤーはPKをしようとしたんでしょうか。それも普通のフィールドではなく、こんな自動生成ダンジョンの奥深くで」
「さあな。俺にはその辺りは分からないし、分かりたくもない」
俺とシアはHPバーとMPバー、それにその他ステータス面に異常がない事を確かめると、探索を再開する。
思わぬ妨害があって、それを退けることは出来たが、俺たちが『防御する天空の農場』に来た目的は別にあるのだから。
「でも……」
「そうだな。きっとまたどこかで仕掛けては来るだろう。でもなシア。それでもアレを理解する必要はない。ああ言うのは、他人にどう思われようが、とにかく自分の目的さえ達成できればそれでいいと思っているタイプだ。それこそ目的自体が他人に理解されず、批判されるようなものだろうとな」
「本当に……理解できないですね」
「まったくだ」
本音を言えばまったく理解できないわけではない。
あの男がエフィルたちの関係者である事はほぼ間違いないし、それならばミアゾーイ関係の何かである事も間違いはない。
となれば、俺を狙う理由にも説明はつく。
だが、この件についてはGMに口止めをされているので、言うわけにはいかない。
時系列の乱れについては……恐らく考えない方がいいだろう。
時間など本人の主観において矛盾が生じていなければ、問題にはならないのだから。
「とりあえず掲示板に……」
俺は殆ど無駄だとは思いつつ、掲示板に男の事を書き込むべくメニュー画面を開き、掲示板を立ち上げようとする。
「……。ああなるほど、これが此処で襲ってきた理由の一つか」
「マスター、どうし……え?」
だが、掲示板は開けなかった。
代わりに表示されたのはこの場では外部との通信機能が使えないと言うGMからのメッセージだった。
「これってどういう事ですか?」
「ケイカの坑道と同じって事だな。使えなくなった理由としては……たぶん、ダンジョンの深度とでも言うべきものの影響だろう」
「なるほど……」
通信機能が使えなくなる具体的な条件については分からない。
が、恐らくは魔法的な罠が出現するのと同じで、ダンジョンのレア度や階層が影響しているのではないかと思う。
まあ、詳しい事は検証班に丸投げするべきだな。
「しかし、こう言う事なら、あの男がこの場で襲撃することを選んだのにも納得がいくな」
「助けが呼べないから、ですか?」
「それ以上に、自分が逃げる時間を稼ぐ事が出来るから、だろうな。物理的な意味ではなく情報的な意味で」
「情報的な意味で?」
俺の言葉にシアは首を傾げる。
なので俺は、周囲への警戒が疎かにならないように気を付けつつ、説明をする。
「PKにとって一番問題になるのは、自分がPKであると他のプレイヤーに知られる事だ。知られてしまえば、PKとして活動するのも、普通のプレイヤーとして活動するのも難しくなるからな」
「それはそうだと思います。PKを許す人がいるとは思えませんから」
「ああそうだな。でだ、そんなわけだからこそ、PKを本気でするならば、PKをした後には何かしらの方法で顔と名前を変える必要がある。一番簡単で確実なのは、錬金術師ギルドの容姿変更機能を利用することだろう」
「なるほど」
「だが、そう言った情報を変える瞬間を誰かに見られてしまったら意味はない。そして俺が掲示板に書き込みをすれば、アイツが何処の錬金術師ギルドを利用しようと思っても、相応のリスクを負う事になる」
実際にはあの男は自分の情報を変えるのに、錬金術師ギルドの機能は利用しないだろう。
俺の考えが正しければ姿を自由に変える方法を持っているはずなのだから。
「それを防ぐために直ぐには外に情報を伝えられないこの場で、ですか」
「そう言う事だな。今頃は顔も名前も別人になっている頃だろう。本当に厄介極まりない。素直にそう思う」
時間が経てば経つほどに厄介さが見えてくる。
本当に面倒な相手に絡まれたものである。
俺はそんな事を思いつつ、探索を続けた。




