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【AIOライト 69日目 10:57 (2/6・晴れ) 『防御する天空の農場』】
「よっ、ほっ、ふんっ」
「ーーー、ーーー、---!」
「も、もう少しですよ。マスター、ネクタール」
ロッククライミングをする事およそ二時間。
俺たちはどうにか、通常の探索で行ける範囲に戻る事が出来そうになっていた。
だがしかし、元の範囲に戻れるからこそ、気合を入れ直す必要があった。
「すぅ……はぁ……」
「ーーー……」
俺はあと一息で登り切れる場所で、少しだけ深呼吸をする。
そしてネクタールとの同調も強め、それに備える。
「ふんっ!!」
「ーーー!!」
俺は最後の崖を一気に登る。
いや、登るを通り越し、飛び出す。
「すぅ……」
そして捻りを加えつつ飛び続け、上下が逆さまになった俺は見る。
「ははっ」
緑色の髪に赤い目の男が軽薄で無情な笑みを浮かべつつ、宙を舞う俺たちに向けて何かを投げようとしている姿を。
「とりゃあ!」
俺の手から五本のリジェネミスリルクリスが回転しながら放たれる。
軌道としては三本が男に直撃し、二本が男が逃げようとすれば刺さる軌道だ。
「いいねぇ!」
男の手から黒い指五本ほどの幅を持つ短剣が一本、俺に向かって投げられる。
その軌道はリジェネミスリルクリスとは干渉しあわない軌道。
「ネクタール!」
「ーーー!」
ネクタールの身体からヌル・オトガナッツブレードが抜き放たれ、男が投げた短剣を迎撃。
大量の魔力の嵐を巻き起こしつつ短剣を破壊。
更には刀が振るわれた軌道に沿って不可視の魔力の刃が生成され、リジェネミスリルクリスよりも速いスピードで男に向かっていく。
「おっと」
だが男は俺が投げたリジェネミスリルクリスも、ヌル・オトガナッツブレードから放たれた不可視の魔力の刃も、最小限の動きで難なく回避して見せる。
「ぬ……」
しかし、その回避動作の間に俺たちは着地。
「おりゃああぁぁ!」
すぐさまネクタールに持たせた状態の槍を男に向かって投擲する。
「危ない……」
当然、男はそれも最低限の動作……体を半身にするだけで避けて見せる。
だから俺は男の目の前にまでネクタールの身体の一部が来たところで……
「やれっ!」
「ーーー!」
その一点から男に向かって槍を突き出させる。
「なっ!」
「ちっ!」
が、男はまるで俺の行動を予め知っていたかの様に後方へ飛ぶことで、予兆など無かったはずの槍の穂先を完全に回避して見せる。
「そらっ!隙だらけだ!」
そして反撃として男は右手に装飾らしい装飾のない片刃の剣を取り出すと、伸びたネクタールの身体を切り裂こうとする。
「誰が受けるか」
「ーーー!?」
「きゃっ!?」
対する俺はお互いにまだ有効打を一撃も与えていないのをいいことに、ネクタールの召喚を解除し、即座に再召喚、再装備。
ネクタールの身体を俺の手元に戻し、男の攻撃を空振りに終わらせる。
「さて……」
で、ネクタールが突然消えて尻餅をついているシアをかばいつつ、俺は斧と五寸鬼瓦を構え、ネクタールの能力と俺の魔力を組み合わせることで強烈な威圧感を男に向けて照射する。
「ははっ、流石だな」
対する男は俺が放つ威圧感など気にするそぶりも見せず、右手に持った剣で自身の肩を軽く叩きつつ、極々一般的な見た目の盾を左手首に装備すると、左手を腰に置いた状態で嫌らしい笑みを浮かべる。
「予め想像はしていた」
「予め知ってはいた」
堅さと速さのバランスが取れた軽鎧に剣と盾と言う、剣士風の男の姿に見覚えは有った。
シュヴァリエとの決闘の時に、最初に野次を入れた男の姿と殆ど同一だったからだ。
「崖を登り切ったところで仕掛けて来るんじゃないか、ってな」
「どういう風に対応をしてくるのかについてはな」
だが完全に同一と言うわけでもなかった。
ほんの僅かにだが、髪、目、肌の色が違うし、身長や肩幅、股下の長さと言う部分に差異が見受けられる気がした。
完全に同一だと言えるのは、その気配くらいだが、それすらも同一と言えるのか怪しいぐらいだ。
「「だが……」」
しかしこれだけは間違いない。
「まさか本当に仕掛けてくるとはな。MPK野郎」
「実体験してみると想像以上の化け物だな。『狂い斧』」
コイツこそが今回のMPKの犯人であり、ケイカ南坑道でMPKを仕掛けてきたプレイヤーでもある事だけは間違いない。
「さて、自己紹介は必要か?『狂い斧』」
「必要ないな。どうせ偽名……いや、後で変えるだろうからな」
俺は油断なく構えつつ、MPK犯の様子を観察する。
MPK犯は何処までも余裕がありそうな雰囲気で、ニヤニヤと笑みを浮かべつつ、こちらの事を見つめている。
繋がりは見えない。
ホムンクルスを持っていないか、出していないかと言う所なのだろう。
「へぇ。どうしてそう思う?」
「それぐらいの事を出来るのでなければ、俺たちの前に姿を現す事なんて出来るはずがないだろう」
姿も名前も参考にはならない。
どうにもコイツ自身の本質と繋がっている感じがしないからだ。
恐らくだが、コイツはその辺りを自由に変えられるレア度:PMのアイテムを持っていて、事を起こす直前に姿を変えているのだろう。
「ははっ、本当にやりづれえな。『狂い斧』」
それ以上に問題なのが特殊知覚能力。
コイツの言動からして、恐らくだが未来予知系の能力、それもシュヴァリエの先触れ以上に正確で遠くまで知れる力を持っている。
「それでどうする?直接戦って勝てる自信が無いからこそ、MPKを仕掛けてきたんだろ?」
「言ってくれるねぇ。やりあってみたら案外強いかもしれねえぞ?」
いや、特殊知覚よりももっと大きな問題があるな。
コイツの短剣を弾こうとした時に、ヌル・オトガナッツブレードが本来の力を発揮している。
それはつまり、コイツが『AIOライト』の外側を……エフィルたちの存在を知っている存在である事を示している。
「ほう……」
となれば……例のアレの戦闘転用も含めた、如何なる方法を使ってでもこの場で撃滅するのが正解だろう。
俺がそう思って少しだけ武器を構え直した瞬間だった。
「っつ!?」
男はそれまでの余裕に満ちた表情から真剣な表情に変えると、後方に跳躍。
そこから更に数歩分後退し、これまでの倍の距離だけ離れる。
「どうした?」
「危ねえ危ねえ。悪いが直接やり合う気は俺には無い。なにせ俺は卑怯で弱い弱いMPK様だからな。お前みたいな化け物と刃を交わすのは役目じゃねえんだった」
男の表情に再び余裕が現れる。
が、その余裕は今までのものに比べると何処か薄っぺらい物だった。
「それじゃあな。『狂い斧』」
そして男はインベントリから一枚の札を取り出すと、それを破り捨て、この場から姿を消す。
「逃げた……んですか?」
「ちっ、脱出アイテムか。アレもレア度:PMだな」
既にダンジョンの中での繋がりはなく、ダンジョンの外での繋がりも、かなり遠く離れた場所だ。
まず間違いなくヒタイにまで転移したのだろう。
「まったく本当に厄介な相手だ」
「「……」」
モンスターを自在に操っているとしか思えない能力に、容姿を自在に変える力、未来予知に脱出アイテム。
おまけに異様なまでの引き際の良さ。
本当に、本っ当に、心の底から厄介だと思える程度には厄介な奴を逃してしまった。
俺はその事実に歯噛みせざるを得なかった。




