364:69-2-D12
本日は二話更新になります。
こちらは二話目です。
俺が飛び込んだ穴の先には、荒い岸壁だけではなく、白い雲の海が見えていた。
普通に考えれば、俺たちはこのまま落下を続け、十秒もしない間に俺たちの身体は雲海に突入することになるだろう。
「「ーーーーー!?」」
「さて……」
だが、この時点で俺の目は既に別のものを捉えていた。
それは穴の終わりと雲海の間の何も無い空間に見えていた。
「このまま落ちれば死に戻り確定だな」
それは此処『防御する天空の農場』と言うエリアの終わり。
『防御する天空の農場』と言うエリア全体に存在している繋がりが消え去って、代わりに別のエリアとの繋がりが生じている境界。
そして繋がっている空間の名前は即死エリア。
つまりは進入した時点でプレイヤーもホムンクルスもモンスターもアイテムも関係なくHPバーが0となり、死に戻りする事が確定しているエリアである。
「ど、どうす……」
「ネクタール」
「ーーー!?」
勿論、策が無いわけではない。
流石に策もなくこんな真似をしたりはしない。
とりあえずシアに出来るだけ負担がかからないように、そして間違っても落ちたりしないように、ネクタールに命じてシアの周囲を完全に囲わせ、繭のようにしておく。
これでシアについては特に心配はしなくてもいいだろう。
「勝負は一瞬……か」
「「「リザアアァァァ!」」」
「「「ナッツウウゥゥゥ!!」」」
「「「スライサアアァァァ!!」」」
俺たちの後方……いや、頭上からは無数のモンスターの声が聞こえて来ている。
どうやら俺に惹き付けられたモンスターたちはその先に何があるのかも理解できずに……いや、理解して逃げる事が出来ないようにされた上で追わされているようだった。
幾らモンスターとは言え、ただの量産されたデータとは言え……それでもなお悪趣味としか言いようのないやり口である。
「すぅ……はぁ……」
だが、そんな事を思っても、その思いをぶつけるためには、まずこの場を切り抜けなければいけない。
だから俺は生き残るためにネクタールに槍を一本出させ、高められるだけ集中を高め、全身から赤黒いオーラが炎のように湧き起こるほどに勢いでもって特性:バーサークを発動させる。
「今っ!」
そして穴を抜け、視界が一気に広がった瞬間。
俺は全力でネクタールに持たせたままの状態で槍を投擲。
浮島の底へと突き刺す。
「ネクタールっ!」
だがこれだけではいけない。
これだけでは落下の勢いに負けて、槍は抜けてしまう。
「ーーーーー!」
だからさらに二本。
ネクタールに命じて投擲した槍の近くから槍を生じさせ、浮島の底にしっかりと突き刺す。
「ふんばれええぇぇ!」
「ーーーーー!!」
そして俺自身の魔力をネクタールと槍に注ぎ込む事で強化。
更にはネクタールの一部をパラシュートのように変形。
そうすることで俺、シア、ネクタールに付いた自由落下の勢いを無理矢理殺しつつ、穴の真下からずれた場所へと移動していく。
「はぁはぁ……」
「ーーー……」
「と、止まったんですか?」
そうして、即死エリアまで後1メートルか2メートルと言う所まで来たところで俺たちの動きは止まる。
「「「ーーーーー!!?」」」
「ひどい……」
「まったくだ」
同時に、無数のモンスターたちが穴から空中へと飛び出し、為す術もなく雲海へと消えていく。
それは俺の目から見てもなお悲惨としか言いようのない光景だった。
「さて、急ぐぞ。ネクタール」
「ーーー!」
「え?マス……きゃあ!?」
だがそれをゆっくりと眺めている暇は俺たちには無かった。
と言うか、シアは気づいていないようだが、まだ危機は去っていない。
だから俺はネクタールを素早く巻き上げて浮島の底にネクタールの槍だけではなく、俺自身の手でも付く。
そしてその状態で……
「ふんっ!」
「えっ、どうしてそれを……」
一里吼札に俺の魔力を込めつつ、出来るだけ俺たちが居る場所から離れた場所に向けて投擲。
更にはネクタールの能力で俺たちの存在感を可能な限り薄めておく。
「えっ、あっ、揺れ……」
「……」
そうして俺たちからかなり離れた場所で一里吼札が弾け飛び、周囲に赤黒い俺の魔力がばら撒かれ、俺の存在を周囲の空間一体に知らしめる。
すると浮島全体が地鳴りを響かせながら揺れ出し……
「「「ワムアアアァァァ!」」」
三匹のオトガワームが浮島の底に穴を開けて出現。
大きな鳴き声と大量の涎を発しつつ一里吼札が発動した場所へと、明らかに正気を失った姿で一直線に向かっていく。
そして……
「「「……」」」
即死エリアに触れた瞬間、全身が光の粒となって消えた。
「マスター……」
「まずは上に戻らなければ文句を言う事も出来ない。だからその時まで言いたい事をしっかりと考えておけ」
「……はい」
言いたい事は色々とある。
考えることも沢山ある。
だが、そのいずれもがまずはこの状況から完全に脱してから考えるべき事だ。
今の俺たちの身体は俺の両手とネクタールの槍三本で支えられているだけで、少しでも動き方を間違えれば即死エリアに行く状況に変わりはないのだから。
「さて、まだまだ気合を抜くなよ。ネクタール」
「ーーーーー!」
そして俺はネクタールと協力をしつつ、ゆっくりと移動を始めた。




