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「スゥ……」
「っつ!?」
『呑気な多頭蛇の王』の四つある頭の一つが息を大きく吸い込み始める。
「「「スゥ……」」」
「まずっ……」
そして、他の頭もそれぞれ一拍ずつタイミングをずらすような形で息を吸い込み始める。
何が来るかなど考えるまでもない。
既に熱気のようなものも周囲に立ちこめ始めているからだ。
「シアッ!避けるぞ!!」
「は、はいっ!」
俺は後方に居るシアに注意の声をかけつつ、慌てて横へ跳ぶ。
「ヒュドラアアァァ!!」
直後。
一つ目の頭が、紫色の炎を口から吐き出しつつ、下から上へと頭を動かす。
紫色の炎は先程まで俺が居た場所を焼き払うように突き抜けていき、俺たちのはるか後方にある広場の壁近くまで伸びていく。
「シャアアアァァ!」
「シィアアアァァ!」
「フシュラアアアァァァ!」
「うおうっ!?」
だがまだ終わらない。
残る頭が、一つ目の頭の攻撃を避けた俺を追うように、紫色の炎を吐いてくる。
だから俺も、炎を避けるべく横へ横へと何度も跳ぶ。
そうして跳ぶ中で、俺の身に『呑気な多頭蛇の王』の吐き出した紫色の炎の火の粉がかかる。
「これは……」
そして見る。
火の粉に触れた瞬間に、俺のHPバーの下に状態異常:ポイズンの表記が出現したのを。
出現して一秒ほどで俺のHPバーが1%程減るのを。
直後に状態異常:ポイズンが回復し、減ったHPバーが自然回復するのを。
同時に理解する。
『呑気な多頭蛇の王』の毒はかなりの危険物であると。
と言うより、危険以外の何ものでもない。
火の粉に触れただけで状態異常:ポイズンになる上に、それだけで明確にHPに減らしてくる状態異常など。
回復力に特化している俺のようなプレイヤーでなければ、自然治癒するより先にHPの方が尽きかねないレベルである。
「シアッ!絶対に炎には触れるな!!」
「は、はい!」
「シャガッ!?」
炎の向こう側からシアの声が聞こえてくるのを確かめつつ、俺は『呑気な多頭蛇の王』の頭の一本に攻撃を仕掛ける。
そう、『呑気な多頭蛇の王』のブレス攻撃は厄介ではあるが、明確な隙もあった。
四本目の頭が攻撃を終えた後、一本目の頭が次の攻撃に移るまでの間に、大きな隙を生じていた。
「ネクタール!」
「ーーーーー!」
「シャシャガアァ!?」
だから俺はネクタールと一緒に、一本の頭へと集中的に攻撃を仕掛ける。
斧を振り、五寸鬼瓦で殴りつけ、槍で連続して貫き、HPバーを削っていく。
「ヒュドラァ!」
「おっと!」
そして再び頭たちの噛み付きによる攻撃が始まったところで、俺は守勢に回りつつ削ったHPバーを確認。
攻撃を行った頭のHPバーの減りは予想通りで、残りはおおよそ半分と言う所である。
他の頭のHPバーは、まったく動いていない。
おかしいのは胴体部分に表示されているHPバーで、頭の受けたダメージの一部が流れているのか、HPバーそのものは減っている。
だが、その減少量は……与えたダメージを頭の数で割ったのよりも明らかに少ない。
「シャガァ!」
「恐らくはそう言う事なんだろうな……」
俺はその不穏なHPバーの動きと、神話のヒュドラに関する知識から一つの想像をする。
勘だが、恐らくこの想像は、そこまで大きく外れたものではないだろう。
なので俺は再び叫ぶ。
「フシュラアァァ!」
「シアッ!弱っている頭には手を出すな!恐らくだが増えるぞ!!」
「分かりました!」
今さっきしたばかりの想像を。
「冷静に……慎重に……」
「シイィアアァァ!」
そうして俺は再び隙を造り出すべく、攻撃を捌き始める。
次の大きな隙は、ブレス攻撃が『呑気な多頭蛇の王』に追加された事もあってそう遠くはないだろう。
だがしかし、だからこそ急がなければならない。
その時にやりたい事がこちらにはあるのだから。
「シャガ!?」
「ん?」
そう思って防御と反撃を続けていると、俺のHPバーの下に見慣れない状態異常……いや、支援効果が発生している。
内容は……防御力上昇。
出元はレイシュアリザードマンパウダー。
どうやら戦闘前に服用したのが今更になって効果が出てきたらしい。
しかし、この状況でこの効果はありがたいな。
何故ならば。
「少し大胆に攻められる……な!」
「シャガアァァ!?」
「ちょっ、マスター!?」
多少荒っぽい受け方をしても、HPバーの減り的には問題ないという事なのだから。
だから俺は笑顔を浮かべ、発現出来る限りの特性:バーサークを発動し、魔力を斧の刃に乗せる。
それから、『呑気な多頭蛇の王』の頭の攻撃を捌くと同時に、すり足のように地面から殆ど足を離さずに回転、裏拳のような形で斧の刃を先程から攻撃を行っている頭へと叩き込んでやる。
「ヒュッ……」
「ブレス来ます!」
「いいタイミングだ!」
直後。
頭の一つが大きく息を吸い込み出し、他の頭たちもその頭に倣うように息を吸い込み始める。
それを見た俺は……
「ドラアアアァァァ!」
「さあ……」
ネクタールに地面へ槍を突き出すように指示しつつ、俺自身も叩き込んだ斧も利用して跳躍。
先程まで俺たちが攻撃していた頭の裏側に回り込む。
するとどうなるか。
「シャガアアアァァァ!?」
「「「!?」」」
「自分を焼け」
俺を狙った紫色の炎のうち三本は命中した。
俺ではなく、傷ついて十分にHPバーが減っていた頭へと。
「シャ、シャガ……」
そして、『呑気な多頭蛇の王』の四本ある頭の内の一本はHPバーを枯らし、黒い鱗をさらに黒くしながら力尽きた。
04/21 誤字訂正




