336:64-7-D2
「さあ、本気で戦うぞ」
「そうですね。『癒しをもたらせ』『大地の恩寵をその身に』」
「フシュル……」
『呑気な多頭蛇の王』がゆっくりと、鎌首をもたげながら俺たちに向かって近づいてくる。
体高は2メートル超。全長はその十倍以上。
レベルだけを見れば圧倒的に格下だが……こうして対峙すれば嫌でも分かる。
コイツは今の俺たちと同格か、あるいはそれ以上だと。
「ネクタール」
「ーーーーー!」
「ルルッ!?」
だから俺たちも全力で戦う事にする。
シアは俺に魔法をかけた上で後退、十分な距離を取る。
ネクタールはヘイトコントロールを全開にし、『呑気な多頭蛇の王』のヘイトが俺にだけ向くようにする。
そして俺も戦闘の構えを取りつつ、特性:バーサークを発動。
加えて俺自身の魔力を斧と五寸鬼瓦に込め始める。
「すぅ……はぁ……」
「シイイィィ……」
「シャアアァァ……」
「フシュルルル……」
「ヒュウウゥゥ……」
そうして後少しで『呑気な多頭蛇の王』が俺の間合いに入るところまで来た時。
俺たちは相手の様子を窺うように、少しでも己が有利な立場であると相手に分からせるように睨み合う。
そして……
「シャアッ!」
『呑気な多頭蛇の王』の四本ある首の内の一本が動き出す。
首を鞭のようにしならせつつ、大きく口を開け、牙を剥き出しにしながら、俺に噛み付こうとする。
「ぬんっ!」
対する俺は斧でその攻撃を受け流し、防ぐ。
だが反撃を行う事は出来なかった。
「シィアァ!」
「フシュラァ!」
「ヒュドラァ!」
「っつ!?」
残る三本の頭が、それぞれ少しずつタイミングをずらして、最初の頭と同じように攻撃を仕掛けてきたからである。
その攻撃を防ぐのに、俺も五寸鬼瓦とネクタールの槍を使って対応しなければならなかった。
おまけに『呑気な多頭蛇の王』の四本目の頭の攻撃が終わったタイミングで……
「シャア!」
「ぐっ!?」
一本目の頭が再び攻撃を仕掛けてきた。
その為、俺は三本目のネクタールの槍を出し、防御せざるを得なかった。
そして一本目の頭が再び攻撃を行えるだけの時間が経ったという事は……
「シィアァ!」
「フシュラァ!」
「ヒュドラァ!」
「ぐっ!?」
「マスター!?」
他の三本の頭もまた順次攻撃を行える状態になっているという事である。
「これで特性:レイシュアかつレベル10とは……」
俺は『呑気な多頭蛇の王』の四本の頭による間断の無い攻撃を捌き続けながら考える。
どうすればこの状況を打開できるのかを。
「「「シャアシャアシャアァァ!!」」」
「正しくレベル詐欺って奴だな……」
幸いと言うべきか、『呑気な多頭蛇の王』の攻撃一発一発はそこまで重くはない。
少しずつダメージは受けているが、ほんの少しの隙が出来れば、その間に回復できる量だ。
だが、その隙が見いだせない。
『呑気な多頭蛇の王』の攻撃は、特性:レイシュアの影響を受けてもなお速く、おまけに攻撃と攻撃の間に隙間が見当たらない。
このままではじり貧になるしかないだろう。
「シア!タイミングをずらすぞ!」
「はい、マスター!『ブート』!」
「シャ!?」
ならば隙を作るまで。
『呑気な多頭蛇の王』の攻撃はリズムよく、一定のテンポで繰り出されている。
だから俺は、『呑気な多頭蛇の王』を捌く際に、受け止めるようにすることで、少しだけ次の攻撃が遅れるように、あるいは少しだけ加速がつくように受け流す事で、次の攻撃が早まるように捌く。
シアも俺の行動と言葉の意味を察して、『呑気な多頭蛇の王』の頭の一本に『ブート』による攻撃を加え、手傷を与えると同時にその動きを乱していく。
「シャアッ!」
そうしてシアの回復と自然治癒の分を含めてもなお、俺のHPが20%ほど減った頃。
遂に『呑気な多頭蛇の王』の動きに乱れと隙が生じ、俺たちが別の行動を取れるだけの時間が生まれる。
「ここ……だっ!」
「!?」
「『カース』!」
『呑気な多頭蛇の王』の胴体に俺の八尺円棍による攻撃が叩き込まれる。
それと同時に、シアの『カース』が頭の一つに当たり、その頭にだけ状態異常:カースが付与される。
「「「シャアアァァァ!」」」
「ちいっ!」
『呑気な多頭蛇の王』はすぐさま反撃を仕掛けてくる。
俺も『呑気な多頭蛇の王』の反撃を再び捌き始める。
そして直ぐに次の隙は生じた。
「シャガッ!?」
状態異常:カースのかかった頭が攻撃を行った直後。
状態異常:カースによる反射ダメージを受けた為だろう。
一瞬ではあるが、ダメージを受けた頭の動きが止まる。
そして胴体で身体が繋がっている為だろう、その頭の動きにつられるように『呑気な多頭蛇の王』全体の動きが止まる。
「すっ……おらぁ!」
「「「!?」」」
そこに俺が再び八尺円棍で攻撃。
いつも通りの轟音を響かせつつ、『呑気な多頭蛇の王』の巨体を僅かではあるが後ろに引かせ、よろめかせる。
「一気に攻めるぞ!」
「はい、マスター!」
「ーーーーー!!」
そして、俺たちはよろめいたところへ更に追撃。
『呑気な多頭蛇の王』の胴体のHPを削り取っていく。
「ヒュドラ!」
「「「シャアアアァァァ……」」」
「おっと」
やがて『呑気な多頭蛇の王』は体勢を立て直す。
なので、俺も『呑気な多頭蛇の王』の攻撃を避けつつ一時後退。
十分な間合いを取り、睨み合いの状態に持っていく。
「さて、レア度:1だし、このままあっさりといってくれれば嬉しいんだがな……」
「期待はするべきではないと思います。マスター」
「シイイィィ……」
「シャアアァァ……」
「フシュルルル……」
「ヒュウウゥゥ……」
『呑気な多頭蛇の王』の残りHPは70%ほど。
ただし、それは胴体のものであり、何時の間にやら四本の頭の上にはそれぞれ個別に、少し削れたHPバーが並んでいた。
そして『呑気な多頭蛇の王』の口からは……明らかに毒気があるものだと分かるような紫色の煙が立ち上り始めていた。




