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【AIOライト 64日目 06:00 (半月・晴れ) 始まりの街・ヒタイ】
「……」
意識を取り戻せば、そこは久しぶりのヒタイだった。
それはまあ、問題ない。
問題は……
「ちくしょうがああぁぁ!」
「どうして俺が選ばれないんだよ!!」
「くそっ!くそっ!くそおおぉぉ!!」
まず第一に入れ替えを望んでいたのに、入れ替えが出来なかったプレイヤーたちの叫び。
選ばれなかった理由はそれぞれだろうが、彼らとしては国や家族に見捨てられたという気持ちがあるのだろう。
その叫びは強い悲しみを伴っている。
「よし、連絡を……っつ!?」
「おいアイツ居ないぞ!?」
「な、アイツ一人だけ!?」
「そんな……そんな事って……」
「畜生!持って行かれた!」
第二に、固定PTを組んでいたにも関わらず、断りも無くPTメンバーが去ってしまったプレイヤーの叫び。
事前にPTを組んでいた仲間に去る事を言えなかった理由については分からないが、残された仲間たちの怒りは激しく、その言葉は憤怒の感情に塗れている。
「おい、これからどうするよ……」
「どうするって言ったってなぁ……」
「同じような状況の奴に声をかけてみるしかないだろうよ……」
第三に、事前に話し合って去る事は分かっていたが、いざ実際に去られてしまった時に、これからどうすればいいのかが分からなくなってしまったプレイヤーたちの呟き。
声の大きさそのものは小さいが、彼らの呟きには虚無感に似た感情が含まれている。
「よし、ログインに成功したな。まずは集合場所に移動を……」
「ヒイィヤッハアアァァ!『AIOライト』だ!」
「ここがそうなのか……凄いな。まるで……」
第四に、交代組として入ってきた新規プレイヤーたち。
彼らの声や行動に含まれている感情は基本的には明るい物ではあるが、中には薄暗い、あるいはもっと陰湿な気配を漂わせているものも居る。
前者は本当にただの交代組として入ってきただけなのだろうが、後者については……まあ、あまり表沙汰には出来ないような任務を帯びているのだろう。
でなければ、あんな人を害することを第一に考えているような気配を漂わせていることなど有り得ない。
「さて、まずはっと」
「マスター」
「ーーーーー」
とりあえず俺はシアとネクタールを召喚。
ネクタールを身に着ける。
「……。何と言いますか。前回のメンテナンス明け以上ですね」
「そりゃあ、そうだろ。新規参入者が結構な数……恐らくは各国合わせて一万人近くは居るだろうからな」
「それだけじゃ……ないですよね」
「まあ、な」
召喚されたシアとネクタールは周囲を見渡す。
そして一通り見渡し終わったところで、シアは訝しげな視線を周囲に向ける。
どうやらシアも一部のプレイヤーが発している不穏な気配に気付いたらしい。
「ただ、今の時点で俺たちに気づかれているような連中はだいたい大したことはないだろう。本当にヤバいのは……この前の奴とかだ」
「そうですね」
まあ、新規組で不穏な気配を漂わせている連中については特に気にしなくてもいいだろう。
『AIOライト』はアイテムゲーであるが、レベルゲーでもある。
彼らが今の俺たちを害せるレベルにまで到達する頃には、俺たちはもっと先まで進んでいる。
つまり、最前線を行く限りは彼らに襲われる心配はない。
それに先に進む事を諦めているような連中の場合、GMによる制裁の対象に加えられる可能性だってある。
と言うわけで、俺たちが警戒すべきなのは……先日のケイカ南坑道でMPKを仕掛けてきたような連中と言う事になる。
「ただまあ、それはそれとして。この状況を放置ってのは流石にちょっと良くないか」
「マスター?」
俺は改めて周囲の状況に目をやる。
周囲の状況は、悪い空気がさらに悪い空気を呼び込むという負の連鎖に陥り始めているのだろう。
明らかにプレイヤー同士のやり取りが険悪なものになってきているし、少しずつ諍いのようなものも発生し始めているように感じる。
このまま放置すると……今は俺たちには影響がなくても、先々で面倒な事態が発生する可能性は高そうだった。
「ま、予想通りと言うか、予定通りと言うかと言う感じなんだけどな」
「えっ……!?」
「ーーーーー!?」
俺はGMにメッセージを送ると、その返信を待ちつつインベントリから一里吼札を取り出す。
「マ、マスター!?ここヒタイですよ!?街中ですよ!?」
「ーーーーー!!」
「あー、大丈夫大丈夫。無茶はしないから」
すると何故かは分からないが、シアは俺の両肩を掴んで、俺に思いとどまるように必死に懇願。
ネクタールもそれだけはさせて堪るかと言わんばかりの気配を漂わせつつ、俺の全身に絡み付き、縛り上げることで俺の動きを阻害しようとしてくる。
「おっと、GMからの許可が下りたな」
「ジイエムさん!?」
「ーーー!?」
と、ここでGMからの許可が降り、NPCたちに効果が及ばないように処理をしてくれる。
どうやらGMも今の状態のままは拙いだろうと思ってくれたらしい。
「じゃ、発動っと」
「「!?」」
俺は現実世界で練り上げていた魔力を一里吼札へと送り込む。
それだけで一里吼札は大きく膨れ上がり、破裂。
ヒタイ中に俺の赤黒い魔力をバラ撒き、全てのプレイヤーに俺の存在を知らしめる。
「さて……」
俺以外の全てのプレイヤーはその動きを止めており、GMの協力もあってヒタイの街中は静寂に包まれている。
今この状況ならば、俺がどんなに小さく声を発しても、ヒタイ中のプレイヤーに俺の言葉が伝わる事だろう。
「『AIOライト』プレイヤーたちよ。まずは冷静になれ」
だから俺は口を開く。
「考えろ。自分が今何をするべきなのかを」
言の葉に魔力を乗せながら。
「動け。歩みを止めるものに訪れるものがどうなるかなどよく知っているだろう」
全てのプレイヤーに道を指し示すように。
「進め。他者の歩みなど構わずに己が道を」
敵対者の存在を許さないように。
「行け、『世界』がお前たちを待っている」
目指すべき果ての光明を少しだけ見せてやる。
「以上だ」
そうして少々出元の分からない言葉も混じったが、言いたい事は言ったとして、俺は一里吼札の効果を強制終了させた。




