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【2021年 9月 1日 12:58(水曜日・晴れ) 日本】
「何やってるのよ。粟太」
「ん?ああ、母さんか」
昼過ぎ。
俺の下を訪ねてきたのは母さんだった。
なお、この時の俺は流動食のような昼食を食べ終え、特にやる事もないという事で、海月さんに言われた事を思い出しつつ、魔力制御の訓練として瞑想あるいはヨガっぽいポーズをしていた。
「んー、まあ、特にやる事もないから、動かせる範囲で体を動かしていた感じかな」
「やる事が無い……ねぇ」
そんなので魔力が制御できるのかと言われたら、俺としては分からないとしか答えようがない。
が、ポーズを解除して、俺は母さんと目を合わせた時に、特に妙な反応を母さんが示す事は無かったので、視線に魔力を乗せないようには出来ているらしい。
「だったら粟太。少し話でもしましょうか。どうせ今日が終わったら、また中に戻るんでしょう」
「ん、分かった。と言っても、俺から話をする事は殆ど無さそうだけど」
「まあ、そうなるわよね」
そうして俺と母さんは雑談を始める。
内容としては、昨今の世界情勢とか社会の状況とか、後は近頃の芸能人の不祥事のニュースなんかもあったし、世間一般で『AIOライト』プレイヤーの事がどう思われているかなど、本当に雑談と言う感じである。
「ふうん、で、俺の所に昼過ぎに来たって事は午前中は……」
「ええ、糸子ちゃんの所に行っていたわ。あの子一人だと押し切られるかもしれないと思ってね」
やがて話はグランギニョルこと糸子の話に移る。
当然と言えば当然の話だが、糸子が『AIOライト』の中に残るかどうかの話し合いは紛糾を極めたらしい。
なにせ糸子自身はまだ高校生。
攻略組と言えども、望めばほぼ確実に交代要員がやってくる年齢である。
そして当然ながら糸子の両親もそれを望んでいた。
「それにしても、糸子ちゃんてばかなりの猫かぶりだったのね……すっかり騙されていたわ」
「まあ、俺もあっちで会うまではあそこまでとは思わなかったしな……」
だが、糸子は交代を拒み、残ると言いだした。
そして、例の動画サイトで糸子の事を見ていた母さんも、それを支持する方向に回ったらしい。
らしいが……まあ、あれだよな、娘がヒャッハーしている姿とか両親としては相当来るものがあるよな。
そんなわけで糸子の交代話はもつれにもつれそうだ。
が、最終的には糸子が粘り勝ったらしい。
いやはや何と言うか、普段の行いと言うのは大切なものだなと思わせる話である。
「で、粟太。貴方の方はどうなのよ。と言うか、一緒に戦ってた女の子とか、いったいどうしたのよ」
「ん?ああ、俺の動画も見てたのか」
「そりゃあ見てるわよ。お母さんだもの」
と、ここで母さんの視線が俺のスマホの方に向く。
どうやら動画からだけでなく、何かしらの情報源によって、今俺のスマホにシアが居る事を知っているらしい。
これならばもう隠す必要はないだろう。
「シア、ネクタール。母さんは知っているみたいだ」
『あ、はい。分かりました』
『ーーーーー』
と言うわけで、俺は二人に話してもいいと言う許可を与えることにする。
「初めましてね。私は粟太の……いえ、ゾッタの母親よ」
『は、初めまして。私はアンブロシアと言います。こっちはネクタールです』
『ーーーーー!』
母さん、シア、ネクタールの会話については……まあ、特に気を使わなくてもいいだろう。
傍目から見る限り、母さんもシアも楽しそうにやっているしな。
むしろ、ここで割り込む方が無粋と言う物だ。
「さて……」
と言うわけで、俺は再び魔力制御の訓練として、適当なポーズを……今回は結跏趺坐と呼ばれるそれを取り始める。
「……」
そして、身体の各部位が安定した所で、意識し始める。
自分の身体の中を流れる魔力と言う物を、奥底から溶岩のように湧き出し続けているそれを。
「外には……出さない」
放っておけば皮膚から熱と共に溢れ出る魔力を、俺は体内に留めるようにする。
自然に吐けば呼気と共に流れ出てしまう魔力も、俺は体内に留めるようにする。
「内側で……回し続ける」
そして、ただ体内に留まらせ続けたのではしこりのように固まってしまうそれを、俺は体内で血流と共に動かす事で循環させる。
「すぅ……はぁ……」
これが正しいかどうかは分からない。
俺に魔力に関する知識などないからだ。
だが、俺の中に在るそれは確かに外に溢れ出ることなく、俺の中で回り続けている。
回り続けて、少しずつ少しずつ密度と速さを増してきている。
次にこれを開放する時が来るとするならば……まあ、きっとそれはゲームの問題を解決する為ではなく、現実の下らない諸々を解決するために使う事になるのだろう。
不快な事に、そんな繋がりが既に見えてしまっている。
「何か不機嫌そうね。粟太」
「まあ、メンテナンスが終わった後には確実に面倒事が起きると分かっているからな。機嫌も多少は悪くなるさ」
「最低限の手加減はしてあげなさいよ。貴方は『AIOライト』のトッププレイヤーで、世界中の皆が貴方の動向には注目しているんだから」
「そこは相手次第としか言いようが無いかな」
「まあ、それはそうよね。じゃ、私はもう帰るわ。シアちゃんとネクタール君と仲良くね」
「言われなくても。じゃ、また」
「ええ、また」
そうして俺が魔力制御の訓練をしている間に時間は流れていき、やがて母さんは満足した様子で帰っていった。
『マスターのお母様、いい人でしたね』
「そりゃあな。俺なんかをここまできちんと育ててくれた人が悪いわけがない」
さてこの後は……また流動食のような食事か。
はぁ、シアのパイだけでも実体化したいものである。




