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『マ、マスター!?いったい何をしたんですか!?』
「いや、俺はただ睨んだだけなんだが……」
『ただ睨んだだけで人は倒れませんよ!』
「それはまあ、そうなんだが……」
突然現れた見知らぬオッサン。
俺としては突然の闖入者に対して警戒心を露わにしつつ睨み付けるという極々一般的な対応をしたつもりだったのだが、何故かそれだけでオッサンは倒れてしまった。
一体どうしたというのだろうか。
「えーと、脈はあるね」
「岸道先生!?」
「あ、警護の方ですか?息は有るので一先ずは大丈夫ですよ。ただ、頭を打った可能性はあるので、ナースコールで人は呼んだ方がいいかと」
「それどこ……」
「それどころでしょう。貴方の役目はこの人の警護なんですから。ほら早く対応をする」
「っつ!?」
この状況にシアが驚き、俺が不可解に思っている間に、海月さんが人を呼んで、見知らぬオッサンを部屋の外へと運び出していく。
まあ、命に別状は無さそうだし、此処は病院だからな。
特に心配することはないだろう。
「海月さん。今の人は?」
そうして見知らぬオッサンが外に運ばれていったところで、俺は海月さんに質問をする。
今のオッサンは誰だったのかと。
「今の人は岸道議員だね。娘さんが『AIOライト』のプレイヤーになっている事もあって、『AIOライト』プレイヤー及びその家族を助けるための後援会の会長をやっておられる方だ」
「んー、となると俺がやった事は拙いですかね?」
「いや、問題ないと思うよ。今のは突然部屋の中に飛び込んできた岸道議員が悪い。幸いな事にあの様子だと君への恐怖は刻みこまれても、何が有ったのかは分からないだろうし、下手に手を出す方が状況の悪化を招くだろうね」
「なるほど」
後援会の会長……か。
んー、結構な人物に手を出してしまった気はするな。
ただ、後援会の会長だというのなら、もう少しくらいは気を強く持ってもらいたいものである。
うん、そうだな。
海月さんは問題はないと言っているし、向こうから何か言われたら、知らぬ存ぜぬを貫くか。
『あの海月さん。でもどうしてマスターが睨んだだけで気絶してしまったんですか?』
「んー、アンブロシア君にも分かるように説明をするなら……そうだね。残りのHPとかがギリギリの状態で部屋に飛び込んだら、自分の倍以上レベルが上のモンスターたちに囲まれていて、しかも向こうは準備万端だったという状況を想像してもらえるかな」
『あー、はい。そう言う事ですか?』
「うん、そう言う事。有り得ないレベルの生命の危機を感じて、正気を保つ為に咄嗟に意識を断ってしまったんだろうねぇ」
岸道議員が何故気絶したかについては……ああ、シアが訊いてくれたか。
で、海月さんも答えてくれたが……
「なんか、凄い失礼な事を言われている気がするんですけど……」
人をモンスター扱いするのはどうかと思う。
「だがこれが事実だ。藤守君」
『『AIOライト』の中でマスターが本気で殺意をバラ撒いたら、それだけで状態異常が発生していたじゃないですか。それを考えたら妥当だと思いますよ』
『ーーーーー……』
「むぅ……」
が、そんな俺の言葉はこれまで一言も発していなかったネクタール含めて、全員から否定されてしまった。
うーん、俺としては本当にちょっと睨んだだけのつもりだったんだがなぁ……。
「そうだね。今後同じような事態を起こしたくないと思うのなら、魔力とやらについて少しは制御する努力をしてみた方がいいと思うよ」
「魔力ですか?」
「そうそう、視線に魔力を乗せて発しているのが、恐らくこの件の一因ではあるだろうからね。まあ、魔力が有るのならと言う話だけど」
海月さんは冗談でも言うように俺にどうすればいいかを教えてくれる。
シアが居るから誤魔化しを入れたのだろうけど……まあ、実際にそうしていたという事なのだろうな。
となると、今後は少し気を付けないといけないかもしれないな。
母さんとかを気絶させるのは流石に御免だ。
「あ」
と、此処で俺は一つの考えに思い至る。
「どうしたんだい?」
「いえ、ふと思ったんですけど、さっきの岸道議員の娘さんって、もしかして『AIOライト』内でシュヴァリエって名乗っているんじゃ……」
『えっ!?』
「うん?ああ、藤守君なら向こうで知り合っていてもおかしくはないか。その通りだよ。岸道議員の娘さんの『AIOライト』内での名前はシュヴァリエ。トッププレイヤーの一人だ」
『ええっ!?』
やっぱり。
と言うのが俺の正直な感想である。
となるとさっき岸道議員が病室に飛び込んできたのは、シュヴァリエが『AIOライト』に残る理由に俺の名前を出したからかもな。
岸道議員の立場なら、俺の本名もプレイヤーネームも知っていておかしくないわけだし。
「はぁ、向こうに戻ったら文句の一つでも言うべきかもな」
俺は恐らくはこの病院の何処かに居るであろうシュヴァリエの事を思い浮かべつつ、不満と溜め息を口にする。
「お、お手柔らかにしてあげなよ……相手は深窓の令嬢に近い女子高生なんだし……」
『マ、マスター……お願いですから手加減はしてあげてくださいね』
「あーうん、大丈夫大丈夫。加減はしっかりとするから」
「くれぐれも、くれぐれもよろしく頼むよ!」
『本当ですよ!本当にお願いしますよ!』
「はいはいっと」
俺の行動が原因で、何故かシアたちには凄く心配されてしまっている。
うーん、本当にちょっと文句を言うだけのつもりなんだが……これだとメッセージだけで済ませるべきかもしれないな。
「と、いけない。それじゃあ私はそろそろ失礼するよ」
「仕事ですか?」
「ああ、そろそろプレイヤーたちに最終確認を取って来ないといけないからね」
「残るか残らないか、ですか」
「そう言う事だね。それじゃあ、藤守君。今後も君の活躍を程々に期待させてもらうよ」
「どうもです。海月さんもお気をつけて」
そうして海月さんは俺の病室から去っていった。
そして昼過ぎ、俺の病室に再びの来客があった。
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