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「ストップ!藤守君ストップだ!お願いだから落ち着いて、落ち着いてこっちの書類を見て欲しい!」
なんか出た。
俺がそう思うのと同時に、海月さんは酷く慌てた様子で、ボイスレコーダーは素早くその場に置き、右手の掌をこちらに向け、左手に新たな書類の束を持って見せてくる。
正直、最初の書類の内容からして、見る価値がある内容なのかは非常に悩ましいところではある。
が、そこは今までの海月さんとの付き合いもあるからな。
一応見るとしよう。
「……。分かりました」
「頼むから、むやみやたらと感情を露わにしないでくれ。今の君の言動には世界が注目していると言っても過言ではないんだから……」
海月さんの言葉を聞き流しつつ、俺は二つ目の書類を見ていく。
書類の内容については……まあ、概ねは最初のと変わりない。
が、一点だけ大きく異なる点があった。
そして、その一点を見た俺としては大きなため息を吐かざるを得なかった。
「海月さん。このやりとりを最初にしたのが俺で良かったですね」
「そ、そうかな……」
「そうでしょう。最初のは俺たちレア度:PMを創り出せるプレイヤーを舐めているとしか思えない」
「……」
俺は海月さんの事を、より正確に言えば海月さんの上司で、最初の愚かとしか称しようのない契約書を提案した馬鹿共を繋がりを介して睨み付ける。
「はっきり言いましょうか。契約した時点で実体化したレア度:PMの所有権を国に譲渡するなんて戯言、通じるはずがない。下手をしなくても、今後一切の交渉を打ち切られるくらいが本来の対応ですよ」
「十分な謝礼を払い、今後一生の生活を保障し、実体化したアイテム自体を安全に国の為に管理、運用することを確約しても、かい?」
「論外ですね。こんなレア度:PMの事を何も分かっていないような契約内容を持ち出してくる馬鹿に信用する価値はありません」
そう、最初の書類には、実体化したレア度:PMの物品についてこう書かれていたのだ。
『実体化したレア度:PMのアイテムの所有権はすべて国にあるとする』と。
全くもって、馬鹿げている。
それはつまり、シアやネクタールの所有権を国に売り渡すという事。
明確な自己意思を有する存在を金欲しさで売り渡す契約など、ましてやそれの対象がシアであるなど……考えただけでも反吐が出る。
そして自己意思を持たない物に限っても、あんな提案をする奴に先々の事まで考えて運用できるとは思わない。
「えーと、二組目についてはどうだい?」
「及第点。と、しておきましょうか」
「ほっ……」
対する二組目の書類はまあ、一組目に比べればマシだった。
実体化したレア度:PMの取り扱いについては実体化後に応相談と言う事になっていたから。
これならば、まあ、受け入れてもいいと思うだろう。
「海月さん。言っておきますけど、及第点ですからね」
「それで十分だよ……」
「十分じゃないです。なにせ扱う人間がとんでもない馬鹿だと最初ので分かりましたからね」
「あまり馬鹿馬鹿言わないでやってくれ……欲に目がくらんでいるだけなんだ……」
「それが大問題だと言っているんですよ」
尤も、実際にレア度:PMのアイテムを手にして使う方向性を決める人間が最初の書類を提案するような人間では、碌な事にならないのは目に見えている。
おまけに、あんな書類が通る事からも分かるように、アレを提案したのは政府の中でも上層部の人間だろう。
だから言うべきことは予め言っておかなければならない。
そう、全力でだ。
「とりあえず各国の上層部にはっきりと言っておくべき事があるので、ボイスレコーダーをお願いできますか」
「……。分かった」
海月さんは微妙に笑みを浮かべつつ、ボイスレコーダーを俺に手渡してくる。
どうやら海月さんも俺がやろうとしている事に理解を示してくれているらしい。
実にありがたい話である。
「では……」
何も止めるものはない。
俺はそう判断すると、喉の辺りに集められるだけの魔力を集め、余波で赤黒い風と炎が周囲に薄く湧き立つ中、口を開く。
「錬金術師ゾッタが各国上層部……いや、世界に忠告をしよう。」
言の葉に赤黒い風と火が微かにだが乗る。
「レア度:PMとは作成者の技術、想念、そして命を詰められるだけ詰めて創られるものだ」
言の葉に乗ったそれらは、俺の言葉を彩る。
「それを金で買おうとするならば、それこそ国が傾く程度で済めばいい方だと断言させてもらおう」
そうして危険と危機に彩られた言葉は、僅かに火花を上げつつ、その言葉の重みも含めて記録される。
「ましてや無理矢理奪おうと思うのであれば……」
そう、これは呪詛であり戒め。
愚かな振る舞いをする者を罰すると同時に律するための言葉。
「世界の滅びすらも対価としては甘い方だと思え」
「以上だ」
世界など、天秤に乗せるには軽すぎるのだと言う宣言であり脅しである。
「……。間接的にとは言え、実際に世界を滅ぼしている君が言うと説得力が桁違いだね……」
「問題はこれを聞いてもなお理解できなさそうな馬鹿が結構居そうなところなんですよねぇ。スパインさんの力でパパッと出来ないんですか?」
ボイスレコーダーのスイッチをオフにすると同時に、頬を引き攣らせた海月さんが何処か呆れた様子で俺に話しかけてくる。
「その世界の事情はその世界の人間がどうにかするべきである。それが弊社の基本原則となっております。と言うか、依頼もないのに動けないから」
「ま、そうですよね」
「それで契約については?」
「二つ目の方の条件でなら契約しますよ。尤も、俺がレア度:PMの所有権を国に渡す事はないでしょうけど」
「まあ、君のレア度:PMと言えば、つまりはアレだしねぇ。私もそれでいいんじゃないかと思うよ」
そうして話をする中で、入念にチェックをした上で俺は契約書にサインをする。
「じゃっ、疲れたんで俺は一度寝ます。八時くらいになったら起こしてください」
「いや、そう言うのは私にじゃなくて……」
で、サインを終えると同時に、俺は眠り始めた。
直々のお言葉である。




