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「さて、他に何か聞きたい事はあるかい?」
「スパインさんに聞きたい事はないですね。海月さんに聞きたい事はありますけど」
「そうか、そう言う事なら話を進めさせてもらうとしよう」
俺が求めている事を理解してくれたのだろう。
スパインさんはそう言うと髪の毛の色を普通の人間のものに変える。
そして、ロウィッチもスパインさんからスーツケースと書類を受け取ると、何処かへと消え去る。
「では、あー、此処から先の発言は全て記録される。注意して発言して欲しい」
「分かりました」
「いや、すまないね。最近は何かとあって、こういうのは全部取っておかないといけないんだ」
「まあ、そう言う仕事なら仕方がないと思いますよ」
海月さんは懐からボイスレコーダーを取り出すと、そのスイッチを入れる。
それから、これまでの一連のやり取りなど一切存在しなかったような声音で話を始める。
なので、俺も海月さんの態度に応じるように、何事もなく気軽な雰囲気で、けれど少しだけ夜中にこんな話をと言う不機嫌を滲ませつつ、話を合わせる。
「さて、時間も時間だからね。出来る限り手短に話を済ませよう」
「はい」
「まず第一に、今回の『AIOライト』ログアウト中にはアカウント枠の譲渡が行えることは知っているね」
「ええ、渡す気は一切ないですけど」
俺の言葉に海月さんは分かっていたと言わんばかりの乾いた笑みと声を上げる。
実際、俺がアカウント枠を渡す可能性など、海月さんも母さんも……と言うか親戚関係の誰も思っていないだろう。
「まあ、それでもこちらも仕事だからね。一応の説明はさせてもらうよ」
さて、そうして始まったのは海月さんによるアカウント譲渡関係の話であり、まとめるとこんな感じだった。
・今日の12:00までにアカウント枠を譲渡するかの判断を行う事
・アカウントを譲渡してくれたプレイヤーには相応の謝礼金が払われる
・残念ながら全員分の交代人員は用意できなかったため、譲渡は高校生以下のユーザーが優先される
・アカウントを譲渡出来なかった、あるいはしなかったプレイヤーとは別の契約を交わす事になる
「なるほど。つまり、俺みたいな大学生かつ攻略組なプレイヤーは例え望んだって譲渡する先の枠は無い、と」
「いや、そうと決まったわけじゃないんだけどね」
「実際、決まっているような物でしょう。ま、俺には無関係な話なんで何の問題もありませんが」
「あはは……」
うん、概ね俺が『AIOライト』の中で考えた通りだったな。
となると、トロヘルや番茶さんたちなんかも強制的に居残り組確定か。
ローエンなんかは……リアル年齢次第か。
ま、譲渡したいのに譲渡できなかった方々はご愁傷様と言ったところだな。
「ああでも、譲渡先については気になりますね。どんな人間が入ってくるんですか?」
「そうだね。その点については話をしておいた方がいいだろう」
次の話はどんな人間に譲渡されるのか。
これについて、あくまでも日本国内に居るプレイヤーに限った話と前置きをした上で海月さんは話してくれた。
「まあ、基本的には君が考えている通りだろう。基本的には警察官や自衛官と言った政府の人間に、優秀な研究者。それにこちらで調査をして、人柄などに問題がないと判断された一般人……所謂、プロゲーマーと呼ばれる人間だね」
「ふーん、魔法使いとかは居ないんですか?あっちには魔力とかありますよ」
「ははははは、メルヘンやファンタジーじゃあるまいし、現代社会に魔法使いなんて居ないさ」
海月さんは笑いながらそう言って見せるが、その目は一切笑っていない。
これは……たぶん、何人か魔法使いかそれに類する存在が混ざっているな。
流石に海月さんのような人ならざる者は居ないだろうが、メンテナンス後は中々にカオスな事になりそうだ。
使い物になるかどうかは別として。
「ああそれと、譲渡されたアカウントの枠は100%日本の人間が使うわけじゃない」
「と言うと?」
「いやなに、君たちが眠っている間に上の方で話し合いと言うか取引があってね。元々プレイヤーが居なかった国からもプレイヤーを出そうという話になったのさ」
「……。目的はレア度:PMの実体化、ですか」
「まあ、そう言う事だね。中では他国のプレイヤー相手でも問題なく話が通じるとの事だから、よろしく頼むよ」
「ま、相手が友好的ならこっちも友好的に返しますよ」
そして別の国の人間も多数入ってくる、と。
まあ、こちらについても期待はしないでおこう。
そもそも、中では顔も名前も自由に決められるし、扱う言語もGMの超技術によって読み書き喋り全て翻訳要らずなのだ。
外国の人間かどうかなど、判断しようがない。
「それで、次の話は……アカウントを譲渡しなかったあるいは出来なかったプレイヤーが交わす契約についてだね。はい、これが書類だ」
「見させてもらいます」
俺は海月さんが差し出した、分厚い書類の束を受け取る。
そして、一通り見る。
で、見終わったところでだ。
「この条件じゃ契約する価値は感じませんね」
俺が言葉を発すると同時に左手中指に填められたエファスの黒輪から赤黒い炎が噴き出し、灰も残らない程の勢いで書類は焼かれた。
04/08誤字訂正




