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「引退……だと……」
「ただの客観的事実を言われたぐらいで狼狽えるなよ。まあ、正確に言えば引退予定だし……そもそも、本当に引退できるかも怪しいところではあるな」
「「「!?」」」
俺は全身鎧のNPCに携帯錬金炉を渡して、修復の方を行ってもらいつつ、男性プレイヤーに応える。
「何をそんなに驚いているんだお前たちは。GMが出した条件をよく考えてみたらどうだ?」
で、この後に起こるであろう諸々を考えて、念のためにではあるが、シアをグランギニョルの方へ避難させておく。
これでまあ、何があっても大丈夫だろう。
と言うか、何でトロヘルの側のプレイヤーにまで俺の言葉に驚いているのが居るんだか。
平然としているプレイヤーが俺以外にはグランギニョルとブルカノさん、それに他数名ぐらいしか居ないぞ。
「GMはこう言った。出来るのは両者間の同意に基づくアカウント枠の譲渡だと。つまり、今回のメンテナンスで引退するには、引退するプレイヤーに代わって『AIOライト』の中に入るプレイヤー……ぶっちゃけ身代わりが必要になる」
「「「……」」」
この点については既に全員で話し合った事なのだろう。
俺の事を睨み付けて来る事はあっても、声を上げることはない。
「だがしかしだ。冷静になって考えてみろ。この『AIOライト』の中には5万人を超えるプレイヤーが居るんだぞ。その一部が国外の人間であり、更に譲渡する先に外国からの人間を加えたとしてもだ。5万人もの交代要員を用意できると思うか?」
「それ……は……」
俺は軍事には詳しくない。
なのでそちら方面については詳しい事は分からない。
が、今回のような事態で交代要員に国が選ぶのはまず間違いなく自衛隊やそれに類似する立場にある人間。
少なくとも身元も何も知れないような人間を招く事だけは絶対にないはずだ。
レア度:PMのアイテムに実体化が可能な可能性も存在しているのも、それに拍車をかけている。
では、そんな人間が5万人も……いや、半分以下の2万人も用意できるだろうか?
答えは否だ。
2万人も人員が欠けて、問題にならない方がおかしい。
「つまり、今回の件で脱出が出来るのは、特別なコネでもない限りは、交代要員が割り当てられた極一部のプレイヤーに家族辺りが身代わりになってくれるプレイヤーと言う事になる。後者についてはともかく前者については……まあ、俺がお偉いさんだったら小中学生のような小さい子に、この世界に適応できておらず引き籠っているプレイヤーを選ぶだろうな。そちらの方が優先度が高いと判断して」
「「「……」」」
俺の言葉に剣を持った男性プレイヤーを初めとして、多くのプレイヤーが膝を着きはじめる。
まあ、彼らにしてみれば、予想外の不意打ちを食らったような気分なんだろうな。
なにせ、自分たちが攻略を頑張っていたからこそ、脱出のチャンスが無くなっているのかもしれないのだから。
「ゾ、ゾッタ君……君は本当に容赦がないな……」
「でもこれが事実でしょう。それならば、はっきり言った方がいい」
だが冷静になって考えてみれば、至極妥当な結論がこれなのだ。
実際には、残らざるを得ないプレイヤーたちにも何かしらがあるだろうが、脱出できない事に変わりはないのだから、それは黙っておいた方がいいだろう。
そして恐らくだが、今頃はトウの地の方の掲示板でも、誰かが同様の結論に達し、それを掲示板に書き込んでいる頃だろう。
つまり向こうも向こうで相当陰鬱な空気になっていると思うが……まあ、どうでもいい話だな。
なにせだ。
「それに、俺はゲームクリアをするまで脱出する気はありませんから、そもそもとしてどうでもいい話なんですよ。こんなのは」
「どうでもいい……だと……」
「ええ、どうでもいいです。俺の家族も俺の考えには同意を示してくれるでしょう。だから俺としてはこんな話題はとっとと切り上げて、ゲームクリアに向けた建設的な話し合いをしたい所なんですよね」
俺の言葉に殆どのプレイヤーは唖然とした表情を見せている。
ああなるほど、もしかしなくても番茶さんたちも内心では多少迷っていたのか。
てかグランギニョルの奴め。
こういう流れになると分かっていたからこそ、俺にメッセージを送って呼び寄せたな。
シアと話している感じからして、アイツもメッセージが来た時点から残ると決めていただろ。
「このっ、お前はっ!お前はこんな異常な状況をどうでもいいと!本当にそう思っているのか!!」
「思っていますよ。ああ、だからこそ俺には『狂い斧』なんて不名誉な渾名が付けられているのかもしれませんね」
「「「!!?」」」
まあ、実際問題として、仮に……本当に仮にだが、俺が脱出を望んでいたとしよう。
それでも俺が脱出することはないというか、出来ない。
俺はどうにも最前線に居るっぽいし、レア度:PMのアイテムも複数作っている。
そんなプレイヤーが居るなら、国としては色々な点から見て、出来るだけプレイを続けて欲しいと思うはずだ。
そしてエファス・フォ・エフィルの問題もある。
アイツ等の事を考えたら……ゲーム世界の方がまだ安全と言うか、冷静に考えたらメンテナンス中に現実世界で襲われて死ぬかもな、うん。
現実じゃ、こっちみたいな超再生は出来ないし。
その辺りは……まあ、GMに期待するしかないか。
悔しいが、こればかりは仕方がない。
「ま、そう言う訳なんで、俺の結論としては期待を持たずに、各個人の自由に任せて今後も活動すればいいんじゃないですか。と言う所ですね」
「「「……」」」
とりあえず言いたい事、言うべき事は言った。
後は各個人がどうするかを決めるべき段階。
俺から言う事は何も無い。
「シア、話は済んだか?」
「あ、はい」
「何と言うか。本当にゾッタ兄はブレないのよねぇ」
「そう言うお前もだけどな」
「そうね。そうだといいんだけど……」
俺は呆然としているプレイヤーたちを無視して、全身鎧のNPCから修理の終った携帯錬金炉を受け取ると、グランギニョルと話しているシアの下に移動する。
するとどうやら、いつの間にかシアとグランギニョルの話も終わってたらしい。
そして明るいシアの顔に対して、グランギニョルの表情は……僅かに陰りを見せる物だった。
02/26誤字訂正




