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AIOライト  作者: 栗木下
5章:首架け橋

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268:54-5-X4

「さて……どうしたものか」

 エファス・フォ・エフィルは倒した。

 だが、周囲の空間はモノトーンのままで、シアは固まった場所から動いておらず、ネクタールに至っては宙に浮いたまま動きを止めてしまっている。

 どうやら完全に時間が止まっている……。


「いや、違うか」

 エファスと遭遇した時、俺は世界の流れが変わったと感じた。

 だがその変化は主観的なものだ。

 となれば、流れが変わったのは世界ではなく俺であると捉えるべきだ。


「問題は流れが何を示すか」

 俺はその場で胡坐をかくと、目を瞑り、自分の身に何が起きているのかを考える。

 まず別の世界に飛ばされたというのは違う。

 そうであるならば、周囲の光景が変わっていないのはともかく、シアとネクタールが居る意味がない。

 幻覚あるいは結界のような何かと言う線も薄いと思う。

 それならば事を起こした本人であるエファスが死んだ時点で元の世界に戻れているだろうし、俺の目が何かを捉えているだろう。


「……」

 時間が止まっている……状況だけを見るならばこれが一番近い。

 が、世界一つ……それもあのGMが管理するここ『AIOライト』と元の世界の時間、その両方を止める労力は計り知れないものだ。

 そんな事をするぐらいならば……


「俺の時間が加速している?」

 俺一人の時間を加速してこの空間に叩き込んだ方が早いだろう。


「いや、俺は流れが変わったと感じた。だがそれは加速と言うよりは……方向か?」

 しかしただの加速と言う感じもしない。

 ただの時間加速であるならば、俺の精神はともかく肉体が加速する時間に着いていけない。

 その対策をしている可能性も当然あるかもしれないが、敵であるエファスが俺に対してそんな事をする理由がない。


「……」

 俺もエファスも動け、他のものは動かない。

 そんな状況を作り出せる時間の流れ……か。


「平面……立体……重力……宇宙……特異点……」

 俺はこれまでの人生で得た知識を、学業に使うものから雑学に至るまで全て動員して今の状況を考える。

 その上で考える。

 どうやればシアの下に帰れるのかを。


「ま、やれるだけやるか」

 そうして一通り考えた所で、俺はその場で立ち上がり、軽く柔軟体操を開始。

 少しすっきりしておく。


「回帰点は見えている」

 まず帰るポイントの時空座標。

 これはネクタールとの繋がりを利用すればいい。

 そうすればネクタールが居る場所に飛んで、無事に帰る事が出来るはずだ。


「エネルギーも有り余っている」

 エファスの青白い炎。

 アレを取り込んだことによって、俺の魔力は一時的にではあるが大きく増している。

 これだけあれば、エネルギーは足りているだろう。

 元々自分の物ではないし、一時的な物だから使う事を躊躇う必要もない。


「後はどうやってだが……」

 問題は方法。

 当たり前だが、現実の世界では時間の流れを操る手段なんて物は確立されていない。

 あのGMならば持っているのかもしれないが、俺の飛ばされている角度次第では、あのGMと言えども事態に気付いてから対応するまでに、俺の主観時間では恐ろしい程の時間が必要だろう。

 だから、救助が有るなどと考えてはいけない。

 つまり、自力でどうにかするしかない。


「まあ、気合と根性で無理矢理何とかしてしまえばいいか。魔力自体よく分からない物なんだしな」

 幸いにして魔力とはよく分からない物だ。

 よく分からないとは定義が定まっていないという事。

 定義が定まっていないという事は何ものにも成り得るという事だ。


「我が名は錬金術師ゾッタ」

 だから俺はエファスの黒い輪を右手に持ち、正面に構え、目を瞑り、その状態で魔力を放ちながら詠唱を始める。


「我は迷い子。正しき時の流れを見失い、狭間に落ちた者。時空の嵐に揺蕩う者」

 無理矢理でも構わない。

 こじつけでも構わない。

 必要なのは結果であり過程ではない。


「されど灯りは見えている。我が在るべき時を示す光は、不老不死の酒の名を冠する布を灯台として今も輝いている」

 俺は肋骨を通じてネクタールの存在を強く意識する。


「糸は繋がっている。か細くも決して切れぬ強き強き糸が正しき大地と繋がっている」

 繋がった。

 後はこれを手繰ればいい。

 だが正面から……今まで来た道を遡るように行ってはいけない。

 それでは途中で問題が生じてしまう。


「回れ黒輪よ。太陽の周り、星が巡る軌道のように」

 俺の手の内でエファスの黒い輪がゆっくりと回り始める。


「巡れ我が身。重きに引かれ、大地に降りたつ流星のように」

 黒い輪の回転は少しずつ早まっていく。

 そしてそれに合わせるように黒い輪の中から赤黒い炎が噴き出し、俺の身を焦がしてくる。

 だが何の問題もない。

 これは流れ星が大気圏に突入する時と同じように、異なる時間の流れに飛び込もうとする愚か者が支払うべき対価なのだから。

 角度と覚悟さえ間違わなければ、たどり着ける。


「認めよ。改めよ。従えよ。静まれ。鎮まれ。調べ調和させ形を成せ。我は再び在るべき世界へと還る。さあ、我が前に姿を顕せ」

 変わっていく。

 世界が変わっていく。

 モノトーンの全てが止まった世界から、色彩豊かな動く世界へと。


「『AIOライト』」

 そして俺が最後の一言を呟きながら目を開けた時。


「あるんでしょ……え?」

「ーーーーー!?」

 元通りの光景の中で、ぽかんとした表情を浮かべたシアとネクタールの姿があった。

ゾッタの言葉については深く考えないのが吉だと思います。

時空関係は真面目に考えると人によっては知恵熱が出ますので。


02/12誤字訂正

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