266:54-3-X2
「!?」
「フハハハハハハ!!」
エファスの笑い声が響き渡る中、逃げ場のない密度で火球は俺に殺到。
俺の全身は瞬く間に青白い炎に包まれる。
「サア!サア!サアッ!!」
「ぬぐおっ……」
炎に包まれて最初に感じたのは圧倒的な熱気。
次に感じたのは神経を直接炙られているかのような強烈な痛み。
それが俺の全身にくまなく襲い掛かってくる。
「味ワウガイイ!!」
だがそれは、この後に待ち受けるものの先ぶれに過ぎなかった。
「己ガ罪ヲ!」
俺の耳に、俺の視界に、俺の鼻に、俺の肌に、俺の精神に直接それが響いてくる。
そう……
『痛い痛い!痛い痛い!!痛い痛いいいいぃぃぃ!?』
『どうして!?何も私たちは悪い事なんてしていないのに!!』
『返せ!娘の人生を!私たちの人生を返せ!』
『おがあああぁぁぁざああああぁぁぁぁん!!』
『燃えていく……全部燃えていく……アハハハハ……アハハハハハ!』
全身を刃物で刺されて苦痛にあえぐ人が居る
唐突な惨劇に嘆き苦しむ母子が居る。
娘の死体を前に怒り狂う父親が居る。
荒れ果てた街中で泣き叫ぶ少女が居る。
燃え盛る家の前で途方に暮れる女性が居る。
「貴様ガ生ミ出シタ災禍ガ招イタ物ヲ!」
『があああぁぁ!?殺してくれよ!いっそ殺してくれよ!!』
『寒い……なんて寒さだ……』
『お前のせいだ!お前さえ居なければ!!』
『私は誰かを貶めようなんてしてない!貶めようとしたのは……』
『嫌だ!こんな死に方は嫌だああぁぁ!!』
おおよそ人が想像しうる、苦痛を伴うあらゆる状況と事象。
それが俺の中に同時に、重複して強まるように、俺の精神と魂を押し潰そうとする勢いで流れ込んでくる。
「安全ヲ奪ワレシ者タチノ嘆キ、苦シミ、怒リヲ!」
『あの指輪だ!あの指輪が奴の手に入ってから全てがおかしくなった!!』
『指輪は消えてしまった!王妃の死と共に消えてしまった!』
『太陽よ!何故永久にお隠れになられてしまったのだ!』
『全ては上手くいっていたはずなのに!どうしてこうなった!』
『誰だ!誰があんな悍ましい指輪を作ったのだ!』
感情の激流。
そうとしか称しようのないものの前に、俺の肉体は少しずつ砕け散っていくと同時に、前に向かって倒れていく。
このままでは遠からず、俺と言う存在はこの世から消え去ることになるだろう。
そうなればシアとネクタールも……
「ふんっ!」
「サア!滅ビルガ……何!?」
気が付けば俺は前に一歩踏み出していた。
身体が倒れることに対する反射のような物であるかもしれないが、それでも確かに一歩踏み出していた。
「ああ、そうだ。そうだよな……」
「馬鹿ナ……一体ドウナッテ……」
だがその一歩で理解した。
いや、思い出した。
こんな連中の怨嗟など、俺にとっては至極どうでもいい物である、と。
「俺の秤で一番重い物なんざ既に決まってる」
「百ヲ超エル世界デ起キタ安全ヲ奪ワレタ災禍。コレハ、ソレニ伴ウ怨嗟ノ炎ダゾ!?」
だから俺は全身が青白い炎に包まれているのを無視して、真っ直ぐ二本の脚で大地に立つ。
肺の中に炎が入り込むのも気にせずに呼吸をする。
絶え間なく聞こえる怨嗟の声をBGMにして神経を砥ぎ直す。
全身を襲う激痛と、感じた事もない重量の中で笑う。
「ふはははっ……」
「何ガ……」
そうして炎の中で笑って……
「あははははっ」
「起キテ……」
笑い続けて……
「あーーーはっはっは!」
「!?」
俺を燃やす青白い炎を全て、赤黒い俺の魔力で呑み込み、喰らい、糧とし、肉体を元通りにする。
「はぁ……これですっきりしたな。そうは思わないか?エファス・フォ・エフィル。いや、ミアゾーイの反存在の一つ、『人生の安全』君と言った方が正しいか?」
「馬鹿……ナ」
俺は赤黒いオーラを纏ったまま、エファスに一歩近づく。
するとエファスは何処か怯えた様子で一歩退く。
「一体ナニガドウナッテ……」
「まったく、GMの奴め。ミアゾーイを取り上げて処分したならば、もっとちゃんと処分しろっての。おかげで変なのが湧いているじゃねえか。シアに何か……ある事はないか」
俺はエファスにゆっくりと近づきつつ。
今回の件でシアに何か問題が起きるかを考える。
が、直ぐに何の問題も起きないと察する。
俺はシアと世界を天秤にかけ、シアの方が大事であるという我欲を以ってミアゾーイを作り上げた。
故にミアゾーイが存在することによって世界に生じるあらゆる負債はシアではなく、俺に返ってくるようになっている。
「まあいい」
だから、そう、何の問題も起きない。
俺が負けなければいいだけの話なのだから。
「エファス。お前にいい事を教えてやる」
「……」
俺はエファスの正面に見た目だけは無防備に、けれど実際には何が起きても即応できるような心構えと体勢で立つ。
「安全と言うパイは元々サイズが決まっている物なんだよ。誰かがパイを切り取って皿に盛るのであれば、誰かがパイを得られず危険に晒される。他者が存在する領域において、生きているものがこの理から逃れられる事はない」
エファスは明らかに腰が引けた体勢で、俺の様子を窺っている。
だが、その姿勢は良くない。
理由は単純。
「だからなエファス。俺はお前の行為を肯定もしないが否定もしない。その上で……」
「何ヲ……!?」
「お前の事を潰そうと思う」
俺の右手による顔面への打撃を避けられず、吹き飛ぶことになるからだ。
ゾッタに精神系のバステを使ってはいけない。




