265:54-2-X1
本話から暫く人を選ぶ描写がございますので、苦手な方はご注意ください。
「死ヌガイイ」
エファス・フォ・エフィル……エファスが爪を振り上げながらこちらに向かってくる。
「ちっ」
エファスが爪を振り下ろすのに合わせるように俺は後退。
頬を僅かに裂かれつつも、それ以上の傷を負う事なく距離を取る。
「……」
だが俺の頬の傷からは……明確な痛みを感じた。
状態異常:ペインにかかっているわけでもなければ、PM錬金を行っている訳でもないのに。
「言ッタ筈ダ。安全ヲ奪イニ来タ、ト」
はっきり言って分からないことだらけだ。
エファスが何者なのかは当然のこと、何故頬の傷が本物であるかのように痛むのかも、周囲がモノトーンになってシアとネクタールどころか全てのものが動きを止めているのかも、何もかもが分からない事だ。
「安全……ね」
それでも何となく感じてはいる。
エファスに負けてはいけない。
エファスは『AIOライト』の仕様外の存在である。
エファスとの戦いは俺一人でどうにかするしかない。
それぐらいの事は理解できている。
「奪えるものなら奪って見せろ」
だから俺は構えを取る。
左手を前に出し、右手を多少引き、脚も構えに合わせて出す。
そして特性:バーサークを発動させ、全身に黒が僅かに混じった紅のオーラを纏う。
「傲慢ナ」
対するエファスは頭と繋がっている黒い輪を高速で回転させ始める。
それに合わせるように黒い輪から噴き出す青白い炎も量を増し、まるで炎の輪を背負っているかのような姿を見せる。
「報イヲ受ケルガイイ!」
エファスが再び突っ込んできて、爪を振り下ろしてくる。
「ふんっ!」
「!?」
だがその速さは三度目ともなれば、俺の目でも十分に追える速さ。
だから俺は左手の五寸鬼瓦でエファスの爪を横から殴りつけ、腕ごと弾く。
「おらぁ!」
そして隙だらけのエファスの頭部に右手の斧を振り下ろす。
「っつ!?」
感触がおかしかった。
確かに俺はエファスの頭部に斧を打ちこんだ。
現に僅かではあるが、斧はめり込んでいる。
だが腕に伝わってくる感触は水の入った風船を叩いているような柔らかいものであると同時に、鉄の塊を叩いたかのような痺れと衝撃を伴ったもの。
そして、ダメージを与えたという感覚はない。
しかし、この事実に対して深く考えている時間はない。
「オノレ」
「喰らうかよ!」
エファスがもう片方の爪で俺に切りかかってくる。
だから俺は振り下ろした斧を切り返す事でエファスの爪を払う。
その際に伝わってきた感覚は……当然先程と同じ奇妙な物だ。
「ちっ」
俺は左手でエファスを殴りつけつつ後退し、十分な距離を取る。
そしてこの時の感覚は、普通に相手を殴った時と同じ感覚だった。
なんと言うか、もう訳が分からないな。
「……」
いや、まったく訳が分からないわけでもないか。
右手の斧と左手の拳には、システムに基づいて作られた物とレア度:PMの装備品であるという明確な違いがあるのだから。
「これが妥当か」
「何ノツモリダ?」
俺は右手の斧をしまうと、何も持たない右手と五寸鬼瓦を填めた左手を身体の前に出し、ファイティングポーズをとる。
「何。お前如きに武器は要らないと言うだけの話さ」
「……」
勿論、ただの挑発だ。
エファスもそれが分かっているのだろう。
感情の乱れなど一切見せずに、冷静にこちらの事を窺っている。
「傲慢ナ」
そうしてしばらく睨み合いをした後。
三度エファスは突っ込んでくる。
「償エ。命ヲ以ッテ」
動きは……また爪の振り下ろしだった。
「知るか」
「!?」
俺はエファスが爪を振り下ろそうとした瞬間に一歩踏み込み、エファスの爪の間合いよりも更に内側に入る。
そして、その状態から右手でエファスの腹を殴りつける。
だが、瞬間的に伝わってきた感触は、斧で殴った時と同じものだった。
だから俺は咄嗟に右手の拳に魔力を込め……腕の動きに合わせるように魔力を叩き込む。
「くぁwせdr!!?」
効果は劇的だった。
何故かエファスは大きく吹き飛び、おまけに宙で悶絶し始める。
それはまるで、即効性の毒でも盛られたかのようだった。
「ふうん、なるほど、なるほど……」
「キ、貴様……」
理由は分からない。
が、あれだけ悶絶しているのであれば、相応の効果はあるという事なのだろう。
ならばこれを生かさない手はない。
そう考えた俺は再びファイティングポーズをとる。
ただし、今度は両手の拳に分かり易く魔力を集めた状態で。
「イヤ、コレハ我ノ慢心カ。ナラバ、コウスルマデ」
「……」
エファスも今の俺に殴られるのは嫌なのだろう。
自身が生み出している青白い炎を両手の掌の上に集め、火球を造り出す。
「我ハ安全ヲ奪イニ来タノダ。ソノ我ガ危険ヲ冒ス意味ナド何処ニモ無イ」
生み出された火球はエファスの周囲をゆっくり回り始める。
そして、少しずつ直径を広げ、加速していく。
で、エファス自身の掌の上では既に次の火球が生み出され、移動を始めている。
これは……こっちから攻める必要があるな。
「ちっ」
「フフフフフ……」
俺はエファスに向かって駆け出す。
火球の数は既に10個近い。
だがその軌道の関係上、隙間はまだまだ多くある。
だから今ならまだ間に合う。
そう判断しての行動だった。
「コノ領域ハ我ノ安全圏ナノダヨ」
そうして俺が火球が円軌道を描いている領域の中を幾らか進んだ瞬間。
「っつ!?」
「魂ノ一片マデ燃エ尽キヨ」
円軌道を描いていた火球が一斉に軌道を変え、俺の居る場所に向かってきた。




