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【AIOライト 44日目 16:52 (1/6・晴れ) 南の森林】
「はぁはぁ……うぐっ……」
アブソーブデスの鎌から辛くも逃げ切った俺は、その反動からか未だに立ち上がれずにいた。
だが立てない理由はHPが減っているわけでも、状態異常にかかっているわけでもない。
単純に全身に寒気が走り、震え、力を入れたくても入れられなかったからだ。
おまけに肉体はそんな状態であるにも関わらず、呼吸と拍動は全力で動いている間のように早く、耳鳴りはし、視界は歪み、腹と喉の辺りにはせり上がるものを感じた。
「マスター」
死。
アレを簡単に表すのであれば、その一文字以上に妥当な文字は無かった。
アレはまさしく死を体現した存在だった。
絶対に戦ってはいけない。
見ただけでそう理解させられた。
「大丈夫ですか、マスター。しっかりしてください」
「あ、ああ……大丈夫だ……」
シアが俺の腕を掴み、体勢を整え、その場に座らせてくれる。
シアの様子に異常な点は……見られないな。
ただ疲れているだけのようだ。
ネクタールは……まだ動けないみたいだな。
表面が制御を失って、各種要素が安定していない。
「あのマスター、さっきのは……」
「名前は見えた。アブソーブデス、と言うそうだ」
「アブソーブデス……」
少しずつ呼吸や体の状態は復調してきている。
だがこの様子だと、もう暫くは動き回るのは無理そうだった。
「モンスター……なんですよね。普通の、アブソーブスケルトンなんかと同じ」
「ああ、括りとしてはそれでいいと思う。括りとしてはな……」
だから俺は出来れば二度と会いたくはないが、今後の為にもアブソーブデスについて思い出し、話をし、可能な限りの理解を進めることにした。
「強いですか?」
「桁違いに。たぶん、同レア度の自動生成ダンジョンのボスと同じかそれ以上のスペックは持っていると思う」
「……」
今回出会ってしまったアブソーブデスのレベルは33だった。
レベルは高いが、それでも普通のモンスターであれば、あそこまでの威圧感と恐怖は感じなかっただろうし、自動生成ダンジョンのボスに比べればステータスだって遥かに劣るはずだ。
だが、アブソーブデスは違った。
レベルは33だったが、あの威圧感はどう控えめに見積もってもLv.33では無かった。
アルカナボスである『百華を統べる森の女帝』には流石に及ばないが、それでもアルカナボスを比較対象として出してこれる程度には凄まじい力を感じた。
「敏捷度は低く見積もってもシュヴァリエの倍以上、攻撃力もたぶん俺やトロヘルを即死させられる。いや、そもそもデス……死神のイメージを考えたら、即死攻撃ぐらいは普通に持っているだろうな……」
「ゴクッ……」
そして、その恐るべきステータスの一端は見えている。
あの時俺はアブソーブデスが何時俺の方に向き直ったのか知覚できていなかった。
そんなのは初めての事だった。
その後の移動速度も俺を遥かに超え、だいぶ距離があったにも関わらず俺よりも速く扉の前に到達し、鎌を振り上げる動作まで終えていた。
規格外にも程がある。
「で、でもどうしてそんなのが……」
「そうだな……」
出現そのものは自動生成ダンジョンで、出現するモンスターがランダムだったから、偶々出てきたの一言で済ませてもいいだろう。
だが、何故気づかれたのか……いや、何故襲ってきたのかについては一つ心当たりがった。
「たぶん、俺がアブソーブデスの存在に気づいてしまったからだろうな」
「えっ?」
俺の言葉にシアが不思議そうな顔をする。
「知るは知られる。アイツは確かにそう言った。どうにも最初からネクタールに隠れた俺たちの位置は認識していたようだしな」
「えーと、つまりマスターがアブソーブデスの姿を見たから動き出した。と言う事でしょうか?」
「少し違う」
「違う?」
俺は出来る限り冷静にあの時の状況を思い出し、言葉を紡ぐ。
「たぶん、アブソーブデス……いや、デス種は、こっちがデス種の事を何かしらの方法で感知すると反応するんだと思う」
「えーと、つまりは?」
「その姿を見ても、その呼吸音と布の擦れる音を聞いても、臭いを嗅いでも、触れても、舐めても、場合によってはあの濃密な死の雰囲気を感じ取ってしまっても、あるいは何かしらの超感覚で存在を認識してしまっても……戦闘態勢に入るんだと思う」
そして襲ってくる。
自分を認識してしまった者を獲物として。
あの大きな鎌を振り上げて。
「恐ろしい……なんて次元ではありませんね」
「ああ、今回は本当に運が良かったと思う。もしももう一歩分でもドアから離れた場所で認識してしまっていたら……今頃は『巌の開拓者』のヒタイ本部で泡を吹いて倒れていただろうな」
本当に今回は運が良かった。
心の底からそう思う。
そして『マタ会オウ』と言われた気もするが……断固として断らせていただこう。
俺は二度と会いたくない。
「うぐっ……そろそろ……大丈夫そうだな……」
「無茶はしないでくださいね」
「ああ大丈夫だ。ああ、本当に幸運だったな。ここが南の森林である事も含めて」
「本当ですね……」
どうにか身体の調子は戻って来ていた。
それでも本調子には程遠いため、俺はシアに片腕を支えてもらいつつ、ネクタールを引き摺りながら、ヒタイへと帰った。




