第25話 市場の歪み
南港区の掲示塔は、これまで以上に激しく数字を動かしていた。
資金流入。
信用指数上昇。
交易量増加。
表面上は――
成功している。
だがセリアは、眉をわずかにひそめていた。
「おかしいわね」
彼女は計算板を叩く。
数式が並ぶ。
収益率。
投資回収期間。
資本流動。
すべてが「良すぎる」。
アレクシスが聞く。
「何が問題だ」
「上がりすぎてる」
セリアは短く答えた。
「健全な成長じゃない」
掲示塔に表示される数字。
『港湾株価 急騰』
『外洋投資資金 流入加速』
広場では歓声も上がっている。
「儲かってるぞ!」
「契約は成功だ!」
だがセリアは首を振る。
「違う」
「これはバブルよ」
リシェルが静かに言う。
「投機ですか」
「ええ」
セリアは頷く。
「利益を見て資本が集まる」
「でも実体が追いついてない」
港は再建途中。
交易はまだ完全ではない。
それなのに価値だけが上がる。
歪み。
ダリオが笑う。
「儲かってるならいいだろ」
セリアは即答する。
「崩れるわよ」
その一言で、空気が変わる。
アレクシスが問う。
「いつだ」
「分からない」
セリアは言う。
「でも必ず来る」
彼女は掲示塔を指す。
「この構造は不安定すぎる」
リシェルが補足する。
「契約ネットワークも同じです」
「一部が崩れると、連鎖する」
エルディア港。
契約変更。
信用低下。
その影響はまだ広がっている。
セリアは続ける。
「資本は早い」
「でも逃げるのも早い」
掲示塔の一部が点滅する。
『短期資金比率 上昇』
アレクシスは眉をひそめる。
「どういう意味だ」
「短期で儲ける資金が増えてる」
「つまり」
セリアは言う。
「いつでも逃げる準備ができてる」
沈黙。
港の人々はまだ気づいていない。
今は利益が出ている。
だがそれは持続しない。
ダリオが言う。
「ならどうする」
セリアは少し考えた。
「二つある」
指を立てる。
「規制するか」
「もっと稼ぐか」
アレクシスが言う。
「連合なら規制する」
「ええ」
セリアは頷く。
「でもここは自由圏」
リシェルが静かに言う。
「強制はできません」
つまり――
市場に任せるしかない。
ダリオが笑う。
「いいじゃないか」
「崩れるなら崩れろ」
だがその言葉に、以前のような余裕はない。
セリアは海を見た。
静かな水面。
だがその下では流れが激しく動いている。
「これは戦争より危険よ」
彼女は言った。
「見えないから」
アレクシスは掲示塔を見つめる。
数字は上がっている。
だがそれは安定ではない。
膨張だ。
リシェルが小さく呟く。
「構造が歪んでいます」
秤が揺れている。
今度は――
静かに。
だが確実に。
崩壊へ向かって。
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