第19話 契約の停戦
海の上で、奇妙な静寂が広がった。
砲声が――止まった。
南港区の船団も、黒潮同盟の船団も、互いに距離を取りながら動きを止めている。
波の音だけが響く。
誰もが理解していた。
戦いの主導権が変わった。
力ではない。
契約でもない。
市場だ。
黒潮旗艦。
提督カイロンは腕を組み、遠くの商船を見ていた。
「やってくれる」
彼は笑う。
「戦争を商売に変えたか」
副官が問う。
「どうしますか」
カイロンは少し考えた。
そして言う。
「応じる」
副官が驚く。
「保険契約を?」
「ああ」
彼は軽く頷く。
「沈められれば損だ」
「沈められなければ儲かる」
合理的な判断。
それが彼の強さだ。
南港区の広場。
掲示塔に新しい契約が表示される。
『黒潮同盟 戦争保険契約 締結』
ざわめきが広がる。
ダリオが笑う。
「本当にやりやがった」
リシェルは静かに言う。
「これで戦いは変わる」
アレクシスは海を見た。
砲撃が止まった理由。
簡単だ。
沈めると損をする。
だから撃たない。
セリアが言う。
「戦争は利益で止まる」
その言葉は、冷たい。
だが現実だった。
黒潮船団の一隻がゆっくり後退する。
さらに一隻。
隊形が崩れていく。
完全撤退ではない。
だが攻撃はしてこない。
提督カイロンの旗が再び上がる。
通訳が読む。
『停戦提案』
広場が静まり返る。
戦いは、終わろうとしていた。
ダリオが呟く。
「こんな終わり方か」
リシェルは言う。
「自由圏らしい終わり方です」
アレクシスはゆっくり息を吐く。
連合なら、軍が排除する。
ここでは違う。
市場が止める。
セリアが微笑む。
「戦争は終わり」
「次は交渉よ」
海の上で、黒い帆と白い帆が静かに揺れている。
そしてその間で。
契約が、世界を動かしていた。
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