第17話 銀行の介入
南港区の掲示塔が、突然まばゆく光った。
戦場の真ん中で、新しい契約が表示される。
『緊急金融契約』
『提供者 ヴェルデ海上銀行』
広場がざわめく。
「銀行?」
「この状況で?」
港の人々が掲示塔を見上げる。
アレクシスも目を細めた。
金融契約の内容が次々と表示される。
『港湾防衛債 発行』
『出資者 外洋銀行団』
『傭兵艦隊 買収予定』
数字が流れる。
資金額が桁違いだった。
ダリオが目を見開く。
「なんだこれは」
リシェルが端末を操作する。
「銀行が…」
彼女は静かに言った。
「戦争に介入しました」
その瞬間。
海の外側に停泊していた巨大商船から、小型船が降ろされた。
波を滑るように港へ向かう。
甲板の上に立っている女。
金髪。
長い航海コート。
手には計算板。
港に到着すると、彼女は桟橋を歩いた。
周囲の視線を一切気にしない。
まっすぐ掲示塔の前へ。
「セリア・ヴェルデ」
彼女は名乗った。
「ヴェルデ海上銀行、執行責任者よ」
その声は静かだった。
だが広場が一瞬で静まる。
海上銀行。
外洋で最大の金融機関。
噂だけは港にも届いている。
セリアは掲示塔を見上げた。
数字を確認する。
「なるほど」
「いい市場ね」
ダリオが笑う。
「戦場だぞ」
「市場と同じよ」
セリアは肩をすくめる。
「どちらも損失率で決まる」
アレクシスが前に出た。
「銀行が戦争に介入するのか」
セリアは彼を見た。
少し驚いたように目を細める。
「あなたが設計者?」
「アレクシス・レイヴァルト」
彼女は小さく笑った。
「噂より若いわね」
そして海を指す。
「さて、本題」
黒潮船団がまだ戦っている。
砲声が響く。
だが彼女はまったく焦らない。
「この港は破産寸前」
広場がざわめく。
「戦争損失」
「交易停止」
「信用指数低下」
彼女は計算板を叩く。
「三日以内に崩壊する」
誰も反論できない。
数字は正しい。
セリアは微笑んだ。
「だから提案する」
掲示塔の契約が更新される。
『南港区再建金融契約』
『港湾株式化』
港が騒ぐ。
「株式?」
「都市を?」
セリアは頷いた。
「ええ」
「この港を株式会社にする」
ダリオが笑う。
「狂ってる」
「合理的よ」
セリアは言う。
「株を発行する」
「資金を集める」
「その資金で傭兵艦隊を買う」
つまり――
戦争を市場にする。
アレクシスは言う。
「国家は企業ではない」
セリアは即答した。
「国家は巨大企業よ」
広場が静まる。
彼女は続ける。
「黒潮同盟は利益で動く」
「なら利益で止めればいい」
アレクシスが問う。
「どうやって」
セリアは海を見た。
黒帆船団。
そして微笑む。
「簡単よ」
「彼らの船、全部保険に入れるの」
広場が凍りついた。
戦争の最中に。
保険。
セリアは静かに言う。
「船が沈めば」
「保険会社が破産する」
「だから沈めない」
そして港の人々を見渡した。
「戦争を止める方法は二つ」
「軍か」
「市場よ」
彼女は計算板を閉じる。
「私は後者」
海の向こう。
黒潮旗艦。
提督カイロンは望遠鏡を下ろした。
そして苦笑する。
「面倒な女が来たな」
戦争はまだ終わっていない。
だが秩序が、もう一つ現れた。
金融。
海の秤が、また揺れ始める。
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