第11話 契約の重さ
黒潮提督カイロンが去ったあと、南港区の空気はさらに重くなった。
掲示塔の数字が静かに揺れている。
『自主防衛 成功率 47%』
先ほどより下がっていた。
カイロンの値下げ提案が、契約市場を揺らしたのだ。
広場ではすでに議論が再開している。
「二割なら悪くない」
「だが奴らを入れたら終わりだ」
「終わるかもしれないが、生き残る」
声が交錯する。
誰も命令しない。
誰も止めない。
ただ計算する。
リシェルは掲示塔を見つめていた。
契約署名の数がゆっくり変化する。
黒潮契約に署名した商会が三つ。
自主防衛契約の出資者が一つ減った。
数字が揺れる。
ダリオが言う。
「当然だ」
「死ぬ確率が半分なら、税を払う方が合理的だ」
アレクシスは静かに問う。
「それで都市は残るのか」
ダリオは笑う。
「都市は残る」
「だが自由は減る」
それが選択。
その時、広場の中央に老船長が再び立った。
「話は終わりだ」
低い声。
人々が振り向く。
「黒潮は契約を守らない」
彼は海を見た。
「海の男なら知っている」
港の古い船乗りたちが頷く。
「海賊は税を上げる」
「必ず」
ダリオが肩をすくめる。
「未来の話だ」
「今は生き残れる」
老船長は静かに言う。
「生き残っても港じゃなくなる」
広場が静まる。
リシェルが端末を操作する。
演算塔の予測を更新。
新しい数値が表示された。
『黒潮契約 自由度指数 低』
人々がざわめく。
自由度指数。
契約演算塔が独自に算出する指標。
契約後の自治可能性。
「自由が減る」
誰かが呟く。
アレクシスはリシェルを見る。
「そんな指数まで出すのか」
「数字は嘘をつかない」
彼女は言う。
「ですが、解釈は人がする」
その時、港の見張り塔から声が響いた。
「船影!」
全員が振り向く。
黒帆船団ではない。
水平線のさらに遠く。
白い帆の船団。
数は十。
そして先頭の船に掲げられた旗。
天秤。
連合旗だった。
港がざわめく。
ダリオが舌打ちする。
「余計なことを」
アレクシスの随行官が言う。
「連合哨戒艦隊です」
予定にはなかった。
だが黒潮船団を見れば動くのは当然だ。
リシェルが静かに言う。
「これで秤は崩れる」
連合艦隊が入れば。
黒潮は撤退する。
そしてこの港は。
連合の海になる。
アレクシスは海を見つめる。
白い帆と黒い帆。
その間に港がある。
自由圏の都市。
秩序の外にある都市。
そして今。
選択の時間が終わろうとしていた。
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