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婚約破棄?結構です。では国家運営は自己責任で ~辺境が黒字化したら王都が困り始めました~  作者: 雪乃フィオナ
第2部 無王の海

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第10話 提督の提案

 黒潮同盟の小型船は、ゆっくりと港へ近づいてきた。


 黒い帆を畳み、波を静かに割る。


 攻撃の気配はない。


 だが緊張は消えない。


 南港区の仮設砲台には、すでに火薬が込められていた。


 傭兵たちが静かに銃口を向ける。


 港の桟橋に小舟が着く。


 降りてきたのは三人。


 その中央に立つ男を見て、港がざわめいた。


 黒い外套。

 長身。

 片目の眼帯。


 黒潮提督カイロン本人だった。


「提督が自ら来るとは」


 ダリオが呟く。


「よほど気に入った港らしい」


 カイロンは桟橋をゆっくり歩く。


 武器は携えていない。


 だが背後の海には三十隻の船団がある。


 それが彼の武器だ。


 広場に着くと、提督は人々を見渡した。


「いい街だ」


 低い声。


「焼けたばかりだが、活気がある」


 誰も答えない。


 彼は笑う。


「安心しろ」


「今日は奪いに来たわけじゃない」


 アレクシスが一歩前に出る。


「交渉か」


 カイロンは彼を見る。


 目が細くなる。


「連合の設計者だな」


 噂は届いているらしい。


「観光は楽しいか?」


「観察だ」


 短い答え。


 提督は肩をすくめる。


「好きにしろ」


 そして広場の中央に立つ。


「契約の話だ」


 掲示塔に新しい条件が映る。


『黒潮同盟防衛契約 改定案』


 ざわめきが広がる。


 税率。


 二割。


 三割から下がった。


 港が騒ぐ。


 ダリオが眉を上げる。


「値引きか」


 カイロンは笑う。


「商売だからな」


「俺は合理的だ」


 そして続ける。


「三日待つと言ったが」


「この港は面白い」


「だから条件を変えた」


 リシェルが静かに言う。


「なぜ」


 カイロンは彼女を見る。


「演算塔の女か」


 名前は知っているらしい。


「数字を動かしているのはお前だ」


「違う」


 リシェルは答える。


「数字は人が動かす」


 提督は笑った。


「その通りだ」


 そして広場を見渡す。


「お前たちは戦う気だ」


 誰も否定しない。


「だから値下げした」


 単純な理屈。


「戦う港は高くつく」


 彼は続ける。


「だがな」


「戦えば、お前らは壊れる」


 そして指を立てる。


「俺は二割で守る」


「お前らは五割の確率で勝つ」


 演算塔の数字を見ている。


「さて」


 彼は笑う。


「どちらが合理的だ?」


 広場がざわめく。


 アレクシスは静かに問う。


「守るとはどういう意味だ」


「簡単だ」


 カイロンは言う。


「この海域を俺が支配する」


「海賊は来ない」


「他の船団も寄らない」


「そしてお前らは税を払う」


 つまり――


 海賊国家の秩序。


 ダリオが笑う。


「美しいな」


 皮肉だ。


 リシェルが聞く。


「契約を破る可能性は?」


 カイロンは即答した。


「ある」


 広場が静まる。


「契約は状況で変わる」


「それが自由だろ?」


 ダリオが頷く。


「そうだ」


 同じ思想。


 だが方向が違う。


 アレクシスが言う。


「それは支配だ」


 カイロンは肩をすくめる。


「違う」


「商売だ」


 そして港を見渡す。


「自由圏は美しい」


「だがな」


 彼の声が低くなる。


「美しいものは弱い」


 沈黙。


 海風が吹く。


 黒帆船団が水平線に並ぶ。


「二日だ」


 提督は言った。


「あと二日待つ」


 彼は振り向く。


「その間に決めろ」


「自由か」


「秩序か」


 小舟に戻る。


 黒帆船団の旗が揺れる。


 広場は沈黙していた。


 ダリオが笑う。


「面白くなってきた」


 リシェルは演算塔の数字を見る。


 成功率。


 49%


 また下がった。


 提督の提案が市場を揺らした。


 アレクシスは海を見つめる。


 秤が大きく揺れている。


 自由と支配。


 その境界は、まだ誰にも見えていない。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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