第7話 黒潮の旗
港の警鐘が鳴り続けていた。
重い鐘の音が海風に乗って広がる。
見張り塔の上で、監視兵が叫ぶ。
「黒帆船団、接近!」
港に緊張が走る。
再建途中の南港区は、まだ完全に守れる状態ではない。
仮設の防壁。
急ごしらえの砲台。
再契約されたばかりの傭兵隊。
完全な都市防衛ではない。
リシェルは遠眼鏡を手に取る。
水平線に現れた船団を見つめた。
黒い帆。
船体には統一紋章がある。
波の上に描かれた黒い円環。
「黒潮同盟」
彼女が低く言った。
ダリオが肩をすくめる。
「噂より早かったな」
アレクシスは問う。
「自由圏の勢力ではないのか」
「元は」
リシェルは答える。
「自由圏の傭兵連合でした」
「ですが契約を破棄した」
つまり――
契約社会の外へ出た者たち。
「契約破棄は自由です」
ダリオが笑う。
「だが結果も自由だ」
遠くで黒帆船団が隊形を整える。
統率されている。
ただの海賊ではない。
戦術船団。
「目的は」
アレクシスが聞く。
「略奪」
リシェルは短く答える。
「そして契約」
アレクシスは眉をひそめる。
「契約?」
「港を守る代わりに税を取る」
つまり海賊国家。
秩序を奪い、支配を売る。
連合でも自由圏でもない。
第三の秩序。
港の砲台で火薬が運ばれる。
傭兵隊長が駆け寄る。
「防衛契約は有効だ」
「だが敵は三十隻以上だ」
数字が重い。
南港区の傭兵は六隻。
残りは港の民兵。
不利。
ダリオが笑う。
「これが自由だ」
「守れる者が守る」
アレクシスは静かに言う。
「連合艦隊を呼べば」
ダリオが即座に遮る。
「呼ぶな」
「呼べば連合の海になる」
自由圏の海ではなくなる。
沈黙。
黒帆船団がさらに近づく。
波を切る速度が速い。
訓練されている。
リシェルは演算塔の端末を開いた。
光の数式が走る。
「戦力予測」
表示された数字。
勝率 34%
低い。
ダリオは満足そうに言う。
「いい数字だ」
アレクシスは驚く。
「低すぎる」
「だからこそ価値がある」
ダリオの目が光る。
「自由は保証されない」
その時、黒帆船団の先頭船が信号旗を掲げた。
望遠鏡を覗く見張り兵が叫ぶ。
「通信旗!」
港の通訳が読む。
『黒潮同盟提督より』
『防衛契約を提案する』
『港の安全を保証する代わりに』
『交易税三割』
広場がざわめく。
三割。
重い。
だが戦えば港が消える。
ダリオが笑う。
「選択だ」
リシェルはアレクシスを見る。
「これが自由圏です」
「誰も守ってくれない」
「だから自分で選ぶ」
港の人々が集まり始める。
傭兵。
商人。
船長。
市民。
契約会議が始まる。
戦うか。
契約するか。
自由の決断。
黒帆船団は静かに待っている。
連合旗は沖合にある。
だが動かない。
アレクシスは海を見つめる。
秤が揺れている。
恐怖でもなく。
機能でもなく。
自由の海で。
そして彼は初めて思う。
この海は、
大陸よりも危険だ。
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