第4話 干渉の境界
南港区の焼け跡は、まだ煙を上げていた。
黒く焦げた倉庫。
崩れた桟橋。
焼け落ちた船体。
だが、作業は始まっている。
瓦礫の撤去。
臨時契約の締結。
新たな防衛会社の入札掲示。
早い。
連合なら、救援物資と軍が到着している時間だ。
ここでは違う。
広場の掲示塔に、新契約案が投影される。
『南港区共同防衛契約』
『出資率に応じた警備権共有』
市民が議論している。
怒号ではない。
取引の声だ。
アレクシスはその光景を見つめる。
「死者は?」
「三十七名」
リシェルの声は静かだ。
「少なくはない」
「ええ」
彼女は否定しない。
「ですが、国家間戦争よりは」
比較の問題ではない。
だが彼女は現実を語る。
「連合なら防げた」
アレクシスは言う。
「防げたでしょう」
「ならば、なぜ」
「防げば、次はより強い依存が生まれます」
依存。
その言葉は重い。
「依存は、責任を曖昧にする」
リシェルは続ける。
「曖昧な責任は、自由を削ります」
そこへダリオが現れる。
「連合はいつまで観光している?」
皮肉。
「支援はしないのか」
「求められていない」
アレクシスは淡々と答える。
ダリオは笑う。
「正しいな、設計者」
「自由を尊重するのだろう?」
挑発。
「だが忘れるな」
ダリオの目が細くなる。
「お前たちの“正しさ”は侵食だ」
「規格は増える」
「条約は増える」
「管理は増える」
「やがて選択は消える」
アレクシスは静かに言う。
「選択が他者を傷つけるなら?」
ダリオは即答する。
「それも選択だ」
冷酷。
だが一貫している。
その時、港に連合船団の旗が見えた。
救援物資を積んだ補給船。
連合本部の独断。
知らせはまだ届いていない。
リシェルが目を細める。
「……早いですね」
アレクシスは一瞬だけ沈黙する。
連合は安全を優先する。
自由圏の拒否を待たない。
それが機能。
「入港させますか?」
随行官が問う。
決断の瞬間。
干渉か、尊重か。
リシェルはアレクシスを見る。
試している。
アレクシスは海を見た。
燃えた桟橋。
再建する市民。
そして近づく連合船。
「沖で待機させます」
短い命令。
「正式な要請があれば入港」
ダリオが鼻で笑う。
「甘い」
リシェルは小さく息を吐く。
「正しい距離ですね」
連合船は沖合で帆を緩める。
市民の間で議論が起きる。
支援を受けるか否か。
自由は選ばねばならない。
その夜、臨時評議が開かれた。
賛成。
反対。
保留。
投票ではない。
契約署名数で決まる。
結果――
支援は“部分受諾”。
物資のみ。
軍事介入なし。
アレクシスは深く息を吐く。
自由は、連合を拒絶しなかった。
だが飲み込まれもしなかった。
リシェルが言う。
「あなたは干渉しなかった」
「境界を越えなかっただけです」
「その境界は、いつまで保てるでしょう」
遠くで波が砕ける。
接続は広がる。
だが自由は後退しない。
干渉と尊重の境界線。
それは海よりも曖昧だった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




