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婚約破棄?結構です。では国家運営は自己責任で ~辺境が黒字化したら王都が困り始めました~  作者: 雪乃フィオナ
第1部 秤の王国

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第50話 撤退線

 南西戦線からの撤退は、秩序だった敗走だった。


 それが、かえって重かった。


 帝国軍は追撃しない。


 占領線を固定し、補給拠点を奪い、旗を立てる。


 挑発のように。


 王都へ戻る伝令の顔は、皆同じだった。


 疲労ではない。


 悔恨だ。


 ――


 国家戦略会議室。


 地図が更新される。


 赤線がさらに内側へ引き直された。


「撤退完了」


 ヴィクトルの声は平静だ。


「だが補給距離が延びます」


 ミレーヌが即座に言う。


「輸送コスト上昇。穀物放出余力低下」


 数字が積み上がる。


 南西拠点の喪失は、軍事だけではない。


 経済も削られる。


 アレクシスは沈黙していた。


 やがて言う。


「坑道地図を再収集します」


「今からか?」


 ヴィクトルが問う。


「帝国は、我々の設計を読んでいる」


 それは認めざるを得ない事実。


「ならば、構造を変える」


 撤退線を地図に引き直す。


「固定防衛をやめます」


「何?」


「流動防衛へ」


 拠点を守るのではない。


 動き続ける。


「補給は小規模分散」


「だが先ほど一本化を……」


「一本化は情報共有のため」


 戦術は変える。


 制度は変えない。


 カイルが静かに問う。


「持つか」


「持たせます」


 断言だが、重い。


 夜。


 王城の回廊。


 カイルは一人立っていた。


 足音。


 セシリアが来る。


「悔いていますか」


「当然だ」


 即答。


「失った」


 短い言葉。


「だが恐怖には戻らない」


 その目に迷いはない。


 だが疲労はある。


 その時。


 近衛が駆け込む。


「帝国軍、南西占領地で要塞化開始!」


 長期戦の構え。


 帝国は退かない。


 ――


 ルミナス同盟。


「王国債、さらに下落」


 顧問が言う。


「帝国は堅調」


 アルヴィンは静かに答える。


「堅調ではない」


「?」


「帝国は軍事費を増やしている」


 資料を叩く。


「恐怖は金がかかる」


 短期は強い。


 長期は重い。


 秤は、まだ決まらない。


 ――


 王城。


 アレクシスは一枚の報告書を見つめる。


 南西占領地の地質図。


 旧鉱山網。


 坑道は複雑に交差している。


 帝国はそこを通った。


 だが。


「……逆に使える」


 小さく呟く。


 南西は失った。


 だが帝国は今、坑道網の中にいる。


 構造は双方向。


 利用するのは、どちらか。


 王国は落ちた。


 だが終わってはいない。


 敗北は、設計変更の材料だ。


 機能国家は、壊れても学習する。


 恐怖国家は、押し続ける。


 戦争は、次の段階へ進む。

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