第40話 揺らぐ王座
王都に、新しい新聞が出回り始めた。
『南部補給線、三度目の襲撃』
『軍需改革で防衛力低下か』
『地方裁量が統制を弱める』
見出しは巧妙だった。
事実と推測が混ざっている。
誰も嘘とは断言できない。
だが、印象は強烈だ。
市場の声が変わる。
「やはり改革は早すぎたのでは」
「中央が弱くなったから狙われた」
侯爵派は、否定も肯定もしない。
沈黙は、同意よりも強い。
王宮。
重臣会議。
「殿下」
年配の貴族が口を開く。
「国内は不安定です」
「承知している」
カイルは動じない。
「軍需改革は、敵を刺激しました」
「刺激しなければ、依存は続いていた」
反論は冷静だ。
だが別の声が上がる。
「国民は安定を求めています」
空気が変わる。
「今は改革よりも、統一と安心を」
言外の意味は明白だ。
――王太子は理想に傾きすぎている。
セシリアが静かに口を開く。
「退位を示唆しているのですか」
沈黙。
誰も明言しない。
だが、否定もしない。
同時刻。
アレクシスの執務室。
エリアスが蒼白な顔で入ってくる。
「私の発言が、利用されています……」
新聞の切り抜きが机に置かれる。
“国家の敵”。
あの言葉が、今は改革派全体への烙印になっている。
「若さは武器だが、刃にもなる」
アレクシスは静かに言う。
「申し訳ありません」
「謝る相手は私ではない」
エリアスは拳を握る。
だが問題は彼だけではない。
改革派内部で、距離を取る議員が出始めた。
「支持率が落ちている」
「次の選挙が危うい」
機能は信頼で成り立つ。
信頼が揺らげば、制度も揺らぐ。
夜。
王太子の私室。
カイルは一人で立っていた。
扉が叩かれる。
侯爵ルーファスが入る。
「殿下」
声は穏やかだ。
「民は恐怖を嫌うが、混乱はもっと嫌います」
「混乱を招いたと?」
「結果として」
静かな圧力。
「今ならまだ引き返せます」
「何を」
「改革を一時停止し、統制を強める」
つまり。
アレクシスを切れ。
言葉にせずとも伝わる。
沈黙が長い。
「……あなたは国家を守りたい」
カイルが言う。
「当然です」
「私もだ」
視線が交わる。
「だが恐怖で守るつもりはない」
ルーファスの目がわずかに細くなる。
「理想は美しい」
「これは選択だ」
王太子の声は揺れない。
「私は退かない」
侯爵は一礼する。
「ならば、覚悟を」
去り際の言葉は静かだ。
王座は揺らぎ始めている。
同じ夜。
帝国北部要塞。
レオニード将軍は報告を受ける。
「王国内で退位論が浮上」
「効いているな」
恐怖は内部から崩す。
「次は穀物だ」
短い命令。
王国は今、
経済で締め付けられ、
補給線で試され、
世論で揺さぶられ、
王座まで揺れている。
高窓から夜景を見下ろすアレクシス。
「国家は……崩れるかもしれません」
背後でセシリアが言う。
「崩れません」
「なぜ」
「機能しているからです」
だがその機能は、信頼の上に立つ。
その信頼が、今まさに試されている。
恐怖か。
機能か。
王国の選択は、次の一手で決まる。
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