第39話 恐怖の設計者
帝国北部要塞は、石と鉄でできた城だった。
旗は風に揺れず、兵は私語をしない。
統制は完璧。
その中心に、レオニード・ヴァルガ将軍は立っていた。
「王国は国内鉱山を再稼働させた」
副官が報告する。
「費用は高いはずです」
「承知している」
将軍は地図を見下ろす。
王国は、依存を断ち切ろうとしている。
愚かだ、と多くは言うだろう。
だが彼は違った。
「恐怖に屈しない国家は、厄介だ」
副官が顔を上げる。
「攻めますか」
「まだだ」
将軍は首を振る。
「正面戦は不要だ」
指先が補給線をなぞる。
「血流を細らせる」
王国は改革中。
内部は揺れている。
そこへ圧力をかけ続ける。
「商隊を襲え。ただし証拠は残すな」
「了解」
命令は静かに下る。
恐怖は、音もなく広がる。
――
王国南部国境。
夜。
補給車列が森を進む。
松明の火が揺れる。
「急げ。明朝までに要塞へ入る」
隊長が声を上げた瞬間。
矢が飛んだ。
馬が悲鳴を上げる。
短い戦闘。
敵は撤退する。
被害は最小限。
だが、補給の一部が焼かれた。
報告はすぐに王都へ届く。
会議室。
ヴィクトルが低く言う。
「偶発ではありません」
「分かっている」
カイルの声は硬い。
アレクシスは地図を見つめていた。
「補給路は三本あります」
「うち二本が森を通る」
「そこが狙われています」
セシリアが問う。
「対策は」
アレクシスは数秒沈黙した。
「分散をやめます」
「何?」
ヴィクトルが眉をひそめる。
「補給を一本化します」
「狙われやすくなる」
「代わりに防衛を集中させる」
地図上に新たな線を引く。
「倉庫統一は完了しています。物資移動は即時共有可能」
だからこそできる。
「地方裁量を使い、現地指揮官に迂回判断を委ねます」
侯爵派の一人が言う。
「危険だ」
「分散は既に危険です」
静かな返答。
カイルは地図を見つめる。
「実行する」
決断は速い。
「補給線を守る」
命令が下る。
数日後。
再び補給車列が動く。
今度は護衛が倍。
情報共有は即時。
襲撃は来る。
だが王国軍は即応する。
短い交戦。
帝国側は撤退。
物資は守られる。
北部要塞。
レオニード将軍は報告を受け、静かに笑った。
「統制が速い」
「予想以上です」
「恐怖で縛られた軍ではない」
面白い。
彼は初めて、王国を“敵”として認識した。
「次は段階を上げる」
副官が息を呑む。
「局地戦ですか」
「いや」
将軍は窓の外を見る。
「世論を割る」
恐怖は外からだけでなく、内からも効く。
王国は今、機能で耐えている。
だが機能は、信頼で成り立つ。
信頼を揺らせば、制度は崩れる。
王国。
王城の高窓から、アレクシスは夜の灯りを見ていた。
「将軍は、引かないでしょう」
「ええ」
セシリアが隣に立つ。
「あなたも」
短い沈黙。
「恐怖に戻るつもりはありません」
制度は守る。
だが戦いは、まだ序章だ。
国家の均衡は崩れ始めた。
恐怖の設計者と、機能の設計者。
舞台は整った。
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